中学入試向けの模擬試験や教育情報の収集を行なっている首都圏模試センターが2024年3月に発表した集計データによると、首都圏1都3県における2024年の私立・国立中学校の受験率は18.12%(推計)を記録。過去最高を更新した。中学入試熱が過熱するに従い、学童向け暗算ドリルの新書が次々に登場。その中で異彩を放つのが、2023年12月に出版された『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』(小学館)だ。筆を執ったのは、算数講師でも、学術系YouTuberでも、数学教師芸人でもなく、何とAI研究者である。
東京大学医学部を卒業後、医師免許を取得、現在スタンフォード大学の大学院コースでAIを専攻するAI研究者の岩波邦明医師は、最先端のAIを学ぶ中で「算数・数学で培われる理数センスは、来るべくAI時代を賢く生き抜くための必須スキルである」と実感。数字に対する苦手意識を払しょくする手段のひとつとして、ゲームのように楽しく学べて、同時に理数センスを高められる、学童向け算数ドリルを考案・執筆したという。そして2024年12月4日、岩波医師は新たな学童向けドリル『AI脳が身につく最強図形ドリル』(小学館)を出版する。
なぜ図形なのか? そして、AI脳との関係は? 本稿から3回にわたって、著者・岩波邦明医師へのインタビューをお届けする。
計算が苦手な子どもたちでも図形センスは鍛えられる
――「暗算」に続くドリルのテーマとして「図形」を取り上げた経緯を教えてください。
2023年末に出版した『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』では、「あゆみ算」というオリジナルの暗算メソッドを収録しました。ヒットしたことはもちろんですが、中学受験塾の名門・日能研に興味を持っていただけたことは大きな自信になりましたね。
それで2024年3月からほぼ1年をかけて、全国の日能研の教壇で「あゆみ算」の授業をさせていただくことになったんです。新著で「図形」をテーマにした理由は、まさにそれで。授業後、子どもたち、それから保護者の方々から「図形問題が苦手」「図形問題を好きになってほしい」と、アドバイスを求められることが、ものすごく多かったんですね。僕自身は図形問題がとても好きで、得点源にしていた分野でしたので、なぜだろう?と突き詰めるきっかけになりました。
――なぜ、図形問題につまずく理由は何でしょうか?
回転、移動、対称、展開、断面、面積や体積を求めるなど、図形問題は問われる知識の幅が広い。それぞれのタイプごとに1つずつ対策していくのが一般的な学習方法ですから、やるべきことは山積みです。そういった側面も苦手意識がつきやすい原因のひとつなんだなというのが、子どもたちの話を聞いた印象ですね。それぞれの系統に合わせた勉強法は学校の授業や学習塾で教えてもらうことができますから、『AI脳が身につく最強の図形ドリル』では、計算などを組み合わせた図形問題を解く以前に必要とされる〝図形センス〟を磨くことを強く意識しました。
図形問題が得意になった原体験を再現したワークブック
――そもそも図形センスとはどのような力を指すのでしょうか?
大まかにですが、図形問題は、平面図形、立体図形、あとは作図する力、平行、対称、回転、移動がベースになります。それらすべてに共通するのは、図形を正確にイメージする力だと考えました。例えば平面図形を扱う問題で考えてみましょう。三角形や四角形が、ゴロゴロ転がりながら移動するとなった時、図形はどのように動くのか、図形に記された点はどういった弧を描くのか? そういったイメージを瞬間に思い浮べることができる。これを〝平面図形センスが身についた状態〟と考えます。
思えば、僕は手を動かすことが好きな小学生だったんですね。この立方体を展開図にするとどうなるだろう?と疑問に駆られた時は、実際に紙を切って組み立てるという遊びをよくやっていました。あの工作が僕の立体図形センスを磨くトレーニングになっていた。それをすべての子どもたちに~というのは、さすがに大変でしょうから(笑)。同じようなトレーニングを再現できないかと考えたのが、この『AI脳が身につく最強の図形ドリル』なんです。
――計算しなくても算数の力は伸ばすことができる?
そうですね。『AI脳が身につく最強の図形ドリル』は参考書や演習問題集のようなものではありません。パズルで遊ぶようにゲーム感覚で楽しく取り組むうちに、中学入試の算数に必要とされる図形センスが自然に身につくことを目指しています。計算力を使わずに解ける問題を中心に構成していますので、未就学児や算数の知識・図形問題の知識がまったくない人まで、誰でもすぐに取り組むことができますよ。
取材・文/渡辺和博