数多くの名作を世に出し、いまだに多くのマンガ家に影響を与え続けている藤子・F・不二雄。彼をリスペクトしてやまないマンガ家たちによる『藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE』が発売される。
執筆陣に共通する〝Fの遺伝子〟とは? 念願叶って収録された、あのマンガ家の作品とは? 担当編集が制作の裏話を公開!
いまもマンガ家たちに脈々と受け継がれている〝Fの遺伝子〟
『ドラえもん』や『パーマン』など数々の名作を手掛けた国民的マンガ家、藤子・F・不二雄。彼の生誕90周年を記念して、『藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE』が2024年11月22日に発売された。
本書を編集したドラえもんルーム担当編集によると、今をときめく人気マンガ家たちが手掛けたトリビュート作品16話が収録されているという。
「内訳としては、2014年に生誕80周年記念として刊行されたムック『Fライフ』3号に掲載された8作品、そして新たにご協力くださった8名の先生方によって描き下ろされた8作品になります」(以下、「」内はドラえもんルーム担当編集)
本書に参加したマンガ家たちには、共通して〝Fの遺伝子〟が受け継がれている。
「技術的な面でいうと、コマ割りやセリフ回しのテンポでしょうね。『ドラえもん』は主に学年誌での連載だったので、10ページ前後という制約がありました。その中で起承転結を持たせた1話完結型のお話を作るためのテクニックは、藤子・F・不二雄先生の特徴といえます」
SFを〝すこし・ふしぎ〟と解釈した有名なエピソードも、藤子・F・不二雄という作家を語るうえで欠かせない要素だろう。
「日常に片足をつけつつ、非日常の冒険を楽しむそのバランス感覚は藤子・F・不二雄先生ならでは。そして、科学的な目線で物事を捉える冷静さと、ハートフルな物語を描ける情熱の両方も持ち合わせているのです。本書には参加いただいた先生方のアンケートページがあるのですが、様々な形でその思いを語ってくれているので、是非読んでいただきたいです」
9年越しに制作が実現した「幻のマンガ」も収録
実際に制作を進めていく中でマンガ家たちが語った藤子・F・不二雄への愛は、担当編集の想像を超えていた。コロコロコミックで『運命の巻戻士』を連載している木村風太さんは、大学生時代、図書館に『藤子・F・不二雄大全集』が全て揃っていたそうだ。
「デビュー作から全て読んだそうで、『運命の巻戻士』にもその影響を強く感じられます。今回オファーするにあたって、同じ時間移動による人命救助がテーマの『T・Pぼん』などをベースにしたトリビュートを打診しようと考えていたのですが、向こうも最初からそのつもりだったようで、最初の打ち合わせでネームまで持ってきてくれたんです」
木村風太さんのトリビュート作品『運命のT・P』は、『運命の巻戻士』の主人公・クロノとT・P隊員が協力して人助けを行なうお話だ。
デビュー作『映像研には手を出すな!』で人気を博している大童澄瞳さんが本作で手掛けた収録作は、実に9年越しの念願が叶ったものだった。
「実は『映像研には手を出すな!』の前に、『ドラ娘』というドラえもんを題材にした連載企画を考案されていたんです。主人公の女の子は人付き合いが苦手なんだけど、大好きなドラえもんを通じて友達を増やしていくというお話です。当時は企画が実現しなかったのですが、僕もそのことを覚えていて、今回お声がけしたところ『正式に描ける時がついに来たんですね』と快諾いただきました」
タイトルこそ『ドラ娘』とは異なるものの、収録作に登場する主人公の女の子は当時の設定そのままだ。
「『映像研には手を出すな!』の主人公の浅草みどりに似ているので、SNSで『浅草氏か?』と言われているんですが、実は浅草氏より先に生まれているキャラクターなんです」
収録作『ねがい星の災難』のほぼ全ページに、何かしらの形で『ドラえもん』にまつわる説明が組み込まれている。9年間温め続けた大童さんの思いを存分に浴びられる作品だ。
「トリビュート作品+原作アンソロジー」の構成が楽しい
本書を制作するにあたり、担当編集はマンガ家たちには10ページ前後で作品を作ってほしいと依頼した。
「実際に『ドラえもん』を制作したときと同じくらいのページ数で描くことで、余分なものを削ぎ落とすFイズムを表現していただきたいという狙いがあります」
一方で、内容には制約を設けず、各マンガ家に一任したそうだ。
「トリビュートなので、作家としての個性や藤子・F・不二雄先生への愛を自由に表現してもらわないと意味がありません。ただ、藤子・F・不二雄先生がご存命だったとして、直接見せられる作品を描いてほしいとはお伝えしました」
本書はトリビュート作品の後に参加作家へのインタビューを挟む形で、モチーフとなった原作マンガも収録されており、「1話で2度美味しい」つくりになっている。
「まずは『トリビュート作品を楽しむ』。その後に、『参加作家へのインタビューやモチーフにした原作を読んだうえで、もう一度トリビュート作品を読み直す』。こうした読み方をすると、参加作家の意図や思いが作品にどう反映されているのかを楽しむことができるでしょう」
本作に参加したマンガ家たちは、いずれも群雄割拠のマンガ界で長らく最前線で活躍している。
「今回参加されている”Fの遺伝子”を受け継いでいる先生方の作品は、トリビュートということを抜きにしてもどれも面白い作品ばかり。これまで藤子・F・不二雄作品にあまり触れてこなかった方でも、きっと楽しめる作品だと信じています」
『藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE』は、全国の書店やAmazonなどのネットショッピングで購入可能だ。藤子・F・不二雄の魅力、そしてそれに魅せられた人気マンガ家たちによる、ここでしか読めない珠玉の作品たちを是非味わってほしい。
【書籍情報】
『藤子・F・不二雄トリビュート&原作アンソロジー F THE TRIBUTE』
本コミックスには以下の2大要素が詰まっています!
●Fトリビュート
藤子・F・不二雄に大きな影響を受けた豪華な執筆陣による、色とりどりのトリビュート作品。各漫画家の新たな一面も発見できます!
浅野いにお 『ドラえもん』
石黒正数 『エスパー魔美』
今井哲也 『ドラえもん』
奥浩哉 『パーマン』
大童澄瞳 『ドラえもん』
木村風太 『T・Pぼん』
小玉ユキ 『キテレツ大百科』
真造圭伍 『ドラえもん』
高橋聖一 『イヤなイヤなイヤな奴』
高松美咲 『チンプイ』
とよ田みのる 『ポコニャン』
モリタイシ 『パーマン』
山口つばさ 『流血鬼』
山本さほ 『ドラえもん』
吉崎観音 『ドラえもん』
渡辺航 『ドラえもん』
※本書のための完全書き下ろし作品8本と、
『Fライフ』3号(2014年)掲載の作品8本の計16本!
●F原作アンソロジー
各参加漫画家が、トリビュートしたいほど好きな藤子・F・不二雄作品をセレクト!藤子・F・不二雄の珠玉の作品集としても楽しめます。
さらに執筆陣全員のインタビュー記事も掲載!
国民的漫画家・藤子・F・不二雄の魅力をさまざまな角度から掘り下げます
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取材・文/桑元康平=すいのこ