急進的な経済政策を掲げるトランプ元大統領が再選され、国内では過半数割れの与党が政権を維持。世界市場を中国は不景気に喘ぎ、日米の金融政策は正反対……。このような相場環境を、どのように乗り越えていけばいいのか。
そこで三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木久史 氏は最新リポートで、「こんな時こそ賢人のやり方を真似てみる」ことを提案。
世界で最も有名な投資家の一人であるウォーレン・バフェット氏の最近の投資動向を見ながら、今を乗り切る投資のヒントを探っているので、その概要をお伝えする。
オマハの賢人、ウォーレン・バフェット
米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は1930年生まれの94歳で、自身の経営する投資会社バークシャー・ハザウェイを通じて株式投資を行なっている。
バフェット氏が注目される最大の理由は、その抜群の投資パフォーマンスにある。
1990年1月末~2024年10月末までの期間でみると、バークシャー・ハザウェイ社の株価は約90倍に上昇している。この間、MSCI世界株指数は約6.3倍、S&P500種指数は約17.3倍、ナスダック総合指数が約43.5倍の上昇となっており、バフェット氏の投資パフォーマンスの素晴らしさがわかる(図表1)。
バフェット氏の投資は徹底的なリサーチに基づく「長期・集中・割安株投資」として知られている。そんな、バリュー投資の達人とされるバフェット氏の凄みを見せつけたのが、リーマンショックの最中に行った米投資銀行大手ゴールドマン・サックスへの投資だ。
ウォーレン・バフェット氏
■リーマンショックでも逆張りする「鋼のメンタル」
この時期、世界の金融市場は大手投資銀行のリーマン・ブラザーズの経営破綻を受けて大混乱に陥り、MSCI世界株指数のドローダウン(直近高値から安値までの下げ幅)は約60%にも達した。
そんな混乱のただ中の2008年9月24日に、バフェット氏はゴールドマン・サックスの発行する優先株に50億ドルを投資したのだ。金融市場が暴落する中での孤独な逆張りは、まさに「鋼のメンタル」のなせる業と言えるだろう。
その後、政府・金融当局による大胆な金融緩和やなりふり構わぬ資本増強策などが奏功して金融市場は安定を取り戻すが、誰もが尻込みする局面ならではの破格の好条件での投資(利回り10%、ワラント付与など)であったことから、バフェット氏とバークシャー・ハザウェイ社は大きなリターンを上げることになった。
上昇相場で株を売りまくるバフェット
そんなオマハの賢人は、足元でどんな投資行動をとっているのか。バークシャー・ハザウェイ社の2024年7-9月期決算を確認すると、株式ポートフォリオの簿価残高は前四半期比約▲104億ドル減の約781億ドル(約12兆円、以下1ドル=154円換算、除く鉄道、公益、エネルギー事業)となる一方、手元資金(現預金と米短期国債の合計)の9月末残高は約3203億ドル(約49.3兆円)となっており、前四半期末に比べて約18%の増加、前年同期比で約2.1倍に急増している(図表2)。
米国のS&P500種指数は今年だけで約24%、一昨年末から2年弱で約54%も上昇しているが(11月20日現在)、割安株を好むバフェット氏にとっては、魅力的な投資機会を見つけることが難しくなってきているのかもしれない。
■警戒感の表れか、ハイテクや景気敏感からディフェンシブへシフト
次に、米国証券取引委員会(SEC)への申請資料から個別銘柄の動きを見ると、売りで目立つのがアップル(約233億ドル、約3.6兆円)、大手銀行のバンク・オブ・アメリカ(約93.3億ドル、約1.4兆円)、自動車レースのフォーミュラ・ワンの主催会社を傘下に持つメディア企業のリバティ・メディア(約62.6億ドル、約9600億円)だった。
一方、主な買い銘柄は、ピザチェーン世界最大手のドミノ・ピザ(約5.5億ドル、約847億円)に、スイミングプール用建設資材や交換・補修用品の卸売り世界最大手のプール・コーポレーション(約1.5億ドル、約231億円)となっている(株価はいずれも9月末、1ドル154円換算)。
バフェット氏の投資判断はあくまでも個別銘柄の魅力度によるものとされていますが、直近の投資行動からは、ハイテク株の割高感や景気への警戒感が推察できるとともに、経済全般の動向から影響を受けにくいディフェンシブ銘柄や、ニッチな市場の有望企業へ資金を退避させようとする投資スタンスが垣間見られるように思われる。
これらを素直に読めば、株式市場全般について弱気な姿勢とも受け取れるため、注意が必要かもしれない。
日本株に強気のバフェット
米国株を売却しながら手許資金を積み上げ、ハイテク株を売りつつディフェンシブ株を買う、そんな弱気姿勢を想像させるバフェット氏だが、強気なのが日本株だ。
バフェット氏が伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の株式を保有していることは広く知られているが、今後もこうした日本の総合商社や、新たな日本の個別株に、さらに投資を振り向けてくる可能性が高そうだ。
というのも、バフェット氏は主に円建て社債の発行により調達した資金で日本株を購入すると明言しているが、2024年には過去最大となる約5451億円を円建て社債で調達しているからだ(図表3)。
■知らぬが仏?日本の個人投資家の真逆を行くバフェット
新NISAの開始以降、日本の個人投資家は世界株指数や米国株を積極的に買い進めているが、オマハの賢人はその真逆となる米国株売り、日本株の買い増し準備を進めているように見える。
こうしたバフェット氏の動きを一つの参考にするならば、これまでの海外株式一本やりの投資方針を取ってきた投資家の方は、日本株への資金分散を検討しても良いかもしれない。
2024年の海外投資家による日本株現物の売買は、約9412億円(11月8日の週まで)の買い越しにとどまっている。
もし、バフェット氏が今年調達した資金で更に日本株を買ってくるようならば、海外投資家の注目を集めることとなりそうだ。
ちなみに、過去の日本株の上昇局面では、海外の投資家が主導することが多かったことを考えると、その影響は決して侮れないのではない。
■バフェットの処方箋、使用上の注意
こうしたバフェット氏の投資行動を参考にする際に気づいていただきたいのは、具体的な売買の手口もさることながら、投資スタンスやその背景にある考え方のユニークさだ。
例えば、バフェット氏はコカ・コーラ株を1988年に初めて購入して以降、約36年も保有を続けている。株価は毎日上下するものだ。市場は時として大きく上昇したり、数年に1度はめまいがするような下げに見舞われることもある。
そうした値動きから距離を置き、ストレスに動じず、魅力的だと信じる銘柄に集中的に投資し続けることは、並大抵なことではないはずだ。
バフェット氏の投資を参考にする上で最も大切なのは、単に「コカ・コーラ株を買う」ということではなく、「信じたコカ・コーラ株を30年間保有し続ける」という投資姿勢にこそあるのではないか。
まとめに
「困ったときの神頼み」というが、昨今のように難しい局面では「賢人」とされる投資家の振舞いを参考にするのも「あり」かもしれない。最近のバフェット氏の投資行動を見ると、ハイテク株を始め株式市場全般への警戒感が推察できる一方で、日本株については例外的に強気なようだ。
バフェット氏の抜群のパフォーマンスの背景には、個々の投資アイディアもさることながら、その個性的な考え方や強い信念があるのではないか。
そう考えると、こうしてバフェット氏の投資行動を見ていくことは、表面的な売買のヒントを得るだけでなく、わたしたちの投資の考え方を見つめ直す良い機会にもなるはずだ。
◎個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
構成/清水眞希