ある調査によれば、既婚者と比べ、未婚者のほうが死亡リスクが高く、特に独身男性は独身女性よりも圧倒的に死亡リスクが高いとされる(※1)。高齢化に伴い、孤独死の問題も増加の懸念がある。警視庁がまとめた推計によれば、日本では約6万8千人の高齢者が、独居状態で死亡しているという。男性は特に孤独死リスクに直面していると言える。
※1 Ikeda A, Iso H, Toyoshima H, et al. Marital status and mortality among Japanese men and women: The Japan collabor ative cohort study. BMC Public Health 2007; 7:73
このような背景から、高齢者の婚姻状況を改善することが一つの手立てとなると考えられている。その中で、「ハハロル」という、高齢者向けマッチングサービスを自ら立ち上げた精神科医がいる。どのような狙いがあるのか、また今後の対応策について話を聞いた。
50歳以上向けのマッチングサービス開発の経緯
「ハハロル」は、超楽長寿株式会社より2024年9月4日に正式リリースされた、50歳以上のためのマッチングサービス。利用料は女性は無料、男性は4,500円/月~。
AIが利用者のプロフィールや趣味、価値観、ライフスタイルなど、多岐にわたる項目を分析し、価値観のマッチングやプロフィール設定などを補助してくれるAIアドバイザーなど、50代向けならではの設計で、最適な相手を見つけやすくしている。恋人や結婚相手に限らず、友人探しにも活用されているという。
特徴的なのは、同社の代表が精神科医であること。自ら開発に取り組んだ、その背景とは?
物部 真一郎氏
超楽長寿株式会社代表取締役 兼 精神科医
2010年高知医科大学卒業後、精神科医として勤務。2015年スタンフォード経営大学院卒業(MBA)。2014年エクスメディオ社創業。2019年同社売却、2020年代表退任。2023年超楽長寿株式会社設立、代表取締役社長就任。
「2020年、64歳の父親を残し母親が他界。父は京都で突然一人での生活をはじめました。一人になった父はすでに定年退職をしており、一気に老け込んだように見えました。私は精神科医として、多くの一人暮らしの高齢者が認知症など心身の健康が害されていく現状を目の当たりにし、課題感は感じていましたが、近くで抑うつ的になっていく父を見ていると悲しく思いました。同時に、医学的に孤立・孤独というものはヘビースモーキングと同程度以上に健康リスクであることがわかったのです」
物部氏は、こんなデータを目にした。高齢者のひとり暮らしは孤独や孤立のために死亡率が毎年1.3倍高くなり、認知症の発症率が2倍になるというものだ。また「孤独・孤立対策推進法(2023年6月公布、2024年4月施行)」の検討が進んでいるとの報道を見た。
医師であり、起業家である自分がヘルスケアの領域でできることは何かを考えた末、社会的孤立の解消をテーマとした会社を立ち上げることに決めた。高知大学医学部(旧高知医科大学)出身ゆえに縁のあった高知県に高齢世代のマッチングサービスに関する事業が採択され、高知県室戸市で実証実験を行った結果、高齢世代のマッチングサービスは課題解決になると確信できたという。
「社会との繋がりの種類が多いことは、禁煙や運動よりも長寿に効果的(※2)とされています。そこで、孤独・孤立の解消をサポートするだけでなく、適切な医療的サポートを提供することで高齢者がより長く、より楽しく過ごせる社会作りをサポートしたいと考えました。この目的を達成するために、まず、社会的孤立状態を未然に防ぐための友達・恋人などが探せる仕組みとしてマッチングサービスを始めたのです」
※2:Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLoS Medicine 2010; 7(7): e1000316.