今年7月、広島県・世羅町にある『せらワイナリー』で世界初となる〝バラの香りがするワイン〟の瓶詰めが行なわれた。真っ赤なバラ「ミスターリンカーン」由来の酵母が用いられているのが特徴。同酵母は福山大学の久冨泰資教授がミスターリンカーンからの分離採取に成功し、発酵性の高さを解明したものだ。
バラ酵母醸造ワイン
そもそもなぜバラの酵母を用いたワインが産まれたのか? 福山市は戦後復興の頃から〝ばらのまちづくり〟を進めてきたことで知られている。そんな同市から2013年、福山大学で酵母の研究をしている久冨教授のもとへ「バラの酵母をもとにした名産品を作ってほしい」との依頼が来たそうだ。
その後、久冨教授は市内に咲く50品種のバラを集めて、約1300株のバラ酵母を採取。最も高い発酵性を示したのが、ミスターリンカーン由来の酵母だった。
「ミスターリンカーン由来の酵母は、昔からパン製造や酒造りに使われてきた酵母と同定(同じような性質)であり、食品や飲料に活用しても安全性に問題ないと考えられたことも、ワインの開発を進めるうえで幸運でした。酵母には『パン酵母』『清酒酵母』といった種類がありますが、ミスターリンカーン由来の酵母を解析してみた結果では、正真正銘の『野生のバラ酵母』に該当する、非常にレアなものということもわかりました。我々が『リンカーン酵母』というニックネームをつけて、各国際科学誌の定期刊行物でも発表しています」
リンカーン酵母を活用した〝バラの香りがするワイン〟は、ただ単にバラの香料を入れたワインとは異なる。グラスに注いですぐに香ってくるわけでもない。
「バラの香りのもととなるβ-フェネチルアルコールは、香水のように揮発するタイプの物質ではありません。液体の中に溶けた状態で存在するので、口に含んで転がすたびに、豊かな香りを楽しむことができるんです」
今年7月に瓶詰めしたワインは、来年1月に福山市内で発売予定。大きな話題を集めそうだ。
【DIMEの読み】
久冨教授によると、流通している酵母の中には素性不明なものが持ち込まれることも多く、その点、学術的に証明されたリンカーン酵母は、世界的にも注目される可能性も。世界進出も夢ではない。
全ゲノム情報によるリンカーン・バラ酵母の系統図
50品種のバラを検証!リンカーン・バラ酵母は発酵性と安全性が高いことを発見した
ミスターリンカーン
第16代アメリカ合衆国大統領のリンカーンにちなんで名づけられたミスターリンカーンは、病気が少なくて大輪の花を咲かせる、人気が高い品種だ。リンカーン・バラ酵母が高い発酵性を持つことから、食品と相性がいい。
2025年1月に出荷!セラアグリパーク『ローズマインド』
バラの香りがする『ローズマインド』は今年7月、地元産ぶどう100%のワインを醸造販売する『せらワイナリー』(広島県・世羅町)が醸造。2025年1月には市内の特産品を取り扱う『ぬまくま夢工房』などで発売予定だ。
取材・文/高山 惠