学びや人格形成にとって大切な場所であるはずの、「学校へ行かない(行けない)」子どもの増加が止まらない。2024年10月31日に発表された文部科学省の調べによると、昨年度、全国の小中学校で30日以上欠席した不登校の状態にある子どもは、34万6482人。前年度と比べて4万7000人あまり、率にして15%多く、11年連続で増加して過去最多となっている。
入学後3週間で小学校に行かなくなった子どもと共働き夫婦の葛藤
そんな不登校児童がいる共働き夫婦のリアルな日々を記録した書籍『せんさいなぼくは小学生になれないの?』(沢木ラクダ著、小学館発刊、定価1,760円・税込み)が話題を呼んでいる。
『せんさいなぼくは小学生になれないの?』
(沢木ラクダ著、小学館刊、定価1,760円・税込み)
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本書では、著者であるノンフィクションライター・沢木ラクダさん一家が直面した付き添い登校の日々や子どもの居場所探し、そして、日本の不登校を生む社会環境の一部がリアルに描かれている。子どもにどのように声がけし、どう向き合っていくか、試行錯誤を経てたどり着いた専門家からのアドバイスや不登校支援制度なども掲載されている。
「HSC(Highly Sensitive Child)=ひといちばい敏感な子ども」とは?
5人に1人いるといわれるHSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子ども)。
子どもが小学校入学後に不登校になるまで、沢木さんはこの言葉すら知らなかったという。
HSCとは心理的特性で、外交性、協調性などと同じパーソナリティの一つと考えられている。“繊細さん”とも言われ、近ごろ注目を集めている。日本の不登校の8~9割はHSCではないかという指摘もある。
HSCに詳しい精神科医・明橋大二さんによると、病気や障がいではなく、あくまでも気質や性格の特性という。
【HSC 4つの性質】
1.深く考える
2.過剰に刺激を受けやすい
3.共感力が高く、感情の反応が強い
4.些細な刺激を察知する
よくある傾向に
•すぐにびっくりする
•服の布地がチクチクしたり、靴下の縫い目や服のラベルが肌に当たったりするのを嫌がる
•驚かされるのが苦手ある
•しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある
•親の心を読む
など23の項目があり、沢木さんのむすこさんは13項目が当てはまった。
人より強く不安を感じたり、周辺環境に敏感に反応したり。「よくも悪くも環境の刺激に強く反応するHSCは、刺激の多い学校での集団生活には合いにくい部分が少なからずあり、子どもによっては生きづらさにつながってしまうこともあるようです」と沢木さんは言う。沢木さんのむすこさんは、入学式の会場に入れず、その後も行きしぶりがつづく。そして、無理な引き離しをきっかけに、3週間後には学校に行けなくなる。
※エレイン・N・アーロン「ひといちばい敏感な子」(明橋大二訳、青春出版社、2021年)参照
「登校刺激」のプレッシャーに注意
共働きで忙しい沢木夫妻にとって、小学校入学と同時に始まった「行きしぶり」は生活にかかわる。これは不登校の子どもをもつ親の多くにある悩みだろう
子どもに行きしぶりがある場合、不登校支援の現場では、子どもが何に困っているのかを理解して支えるのと同時に、「登校刺激」は避けることがすすめられる。「登校刺激」とは、親が登校をうながすプレッシャーをかけること。刺激を減らすため、思い切って学校を休ませたり、登校の話を担当する親を決めたり、筆談にしたり、学校の話は本人がするまでしないなど。工夫することで、エネルギーを回復したり、緊張やストレスを緩和できることがわかっていったと、沢木さん。どうしても在籍している学級が合わない場合は、子どもに合った学びの場を探してゆくことになる。
「学校に行かない」という選択肢をとる子どもが少なかった時代とはちがい、いまは民間のフリースクールやオルタナティブスクールなどが増えている。だが、私立学校並みの学費がかかり、身近にはないことも多いのが実情だ。身近に利用できる公的制度には、不登校支援員、通級指導、特別支援学級、教育支援センターや学びの多様化学校、放課後等デイサービス、校内サポートルームなどがある。「毎日いられる居場所はないことも多く、支援はまだまだ手薄です」と沢木さんは言う。
学校の不登校支援は声をあげないと利用できない?
本書では、不登校支援にかかわるさまざまな制度も紹介。沢木さん夫婦が学校側と進めた話し合いの様子も紹介されている。
「日本の福祉や行政サービスは、申し出ないと支援が受けられないとよく言われます。学校も同じで、『校長先生や教頭先生といきなり話すなんて気が引ける』と思う必要はありません。困っていたら保護者から積極的に話すことをおすすめします」と沢木さん。
むすこさんは相性のよかった個人運営のデイスクールに通いながら、不登校支援員が対応できる週1日だけ学校に登校。一家で「頼れるものは、すべて頼る」を実践し、2年生から特別支援学級に転籍すると、先生たちの手厚い支援も受けられるようになり、むすこさんの日々はふたたび輝き出した。
安心して行ける居場所を
沢木さんは、不登校の子どものツラさを「本当は学校に行きたい気持ちはあるのに、行ける場所がない」と表現する。ただ「学校に行きたい」といっても、在籍している学校やクラスの環境が合わなくてとても苦しんでいる。子どもたちは、教室環境などが自分に合った、“安心して行ける居場所”がほしいと切実に感じている。そのニーズに柔軟に応えてくれる制度が不足していることが、子どもたちを学校から遠ざけている側面があるという。
また、不登校への対処がむずかしい背景に「子どもがリアルタイムでは『学校に行きたくない』理由を自ら明確には説明できないこともある」と続け、「行きしぶりは子どものSOSのサイン。子どもの味方として子どもを支える視点が大事と今はわかります」とも。
大人が思うよりも、子どもの感情はずっと豊かで、ずっと複雑で、ずっと繊細だ。簡単には言語化できない感情がある。さまざまな情報があふれ、生き方も多様化する時代だからこそ、大人も子どもも誰もが自分らしく生きられる社会の姿を見つめ直す必要がありそうだ。
ライター/ニイミユカ
『せんさいなぼくは小学生になれないの?』(小学館)
著/沢木ラクダ 定価:1,760円(税込)
入学後3週間で小学校に行かなくなったHSC(ひといちばい敏感な子ども)のむすこと親の葛藤を綴る日記ドキュメント。5人に1人いるといわれるHSC=繊細さん。不登校の8~9割はHSCではないか、ともいわれています。学校に行きたくても行けない子どもの心情、共働きの親が抱える葛藤、時代に合わない学校の教育環境……。付き添い登校のなかでみえてきた、学校のいまをノンフィクションライターがリアルに描く潜入記。夫婦が試行錯誤しながら情報収集した、専門家からのアドバイス、不登校支援制度なども掲載。
■【目次】(抜粋)
・親は教室で付き添いをするべきか
・HSCってなに?
・通いつづければ、慣れるの?
・子どもとの信頼関係、どうつくる?
・放課後の居場所を求めてさまよう
・学校に行きたいのに、行く場所がない
・「大人の正しさ」が持つ凶器性
・1年遅れの学校探し
・「学校行かない宣言」の真相
・安心すれば、子どもは自ら離れていく
沢木ラクダ
異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、編集者、絵本作家。出版社勤務を経て独立。小さな出版社を仲間と営む。ラクダ似の本好き&酒呑み。子どもの小学校入学時に付き添いを行い、不登校になる過程を克明に綴った日記ドキュメント(「毎日新聞ソーシャルアクションラボ コマロン編」連載)が反響を呼ぶ。
https://x.com/sawaki_rakuda