「G」=ゲレンデヴァーゲンのルーツは1926年に誕生した「G1」からスタートしている。その当時の開発コンセプトは「すべての道を、確実に、快適に、そして安全に走破する」というもので、これは現在のスタイリングのベースになった1979年式はもちろん、現行モデルでも変わっていない。
ついにハイブリッドモデル、EVが登場
最近ではSUVの仲間に入れられがちだが「Gクラス」はクロスカントリー4WDというジャンルのクルマだ。ライバルは、ランドローバー「ディフェンダー」、ジープ「ラングラー」、トヨタ「ランドクルーザー250」が挙げられる。「Gクラス」のこだわりはこのスタイリングだ。1979年にデビューした当時とほぼ同じデザインを踏襲している。実に45年間も同メーカーはフルモデルチェンジとは一切言わず、アップデートという言葉で、新しい「Gクラス」を紹介した。その新型「Gクラス」は本社の開発チームと、メルセデスAMG社が協業してサスペンションなどを開発。乗り心地とハンドリングは飛躍的に向上した。
そして2024年7月「Gクラス」はさらに進化した。時代の流れに合わせてこれまでも進化してきたが、ついに、ハイブリッド化を採用したのだ。さらに、10月には電気自動車(EV)のGクラス、「G580 with EQ Technoloy」も発表された。EVの「Gクラス」に関しては、別の機会に試乗レポートを書くことにしたい。
今後、もしEVが主流になるとしたら、今回の「Gクラス」は最後のエンジン搭載モデルになるかもしれない。そんな思いを抱きながら、メルセデスAMG「G63 Launch Edition」(ローンチエディション)の試乗に出かけた。ここで新しくなった「Gクラス」のバリエーションを紹介しておこう。
ラインナップは「G450d」と「G63」で、前者はメルセデス・ベンツ「G450d Launch Edition」が正式名称になる。直6、3.0Lディーゼルターボエンジンを搭載、マイルドハイブリッド仕様で、2110万円。そして、メルセデスAMG「G63 Launch Edition」3080万円がある。パワーユニットはV8、4.0Lガソリンツインターボ+マイルドハイブリッドだ。いずれLaunch Editionではなく、ノーマル仕様も発売される予定だが、車両本体価格は現時点では発表されていない。
試乗したのは「G63」だがAMGナイトパッケージが標準装備となっているので、外観は縦方向のバーグリルをはじめバンパーやドアミラー、スペアタイヤリングなどがすべてブラックになると同時に「G63」では初採用のAMGカーボンファイバーエクステリアパッケージも装備されている。ホイールは21インチのアルミが標準だが、22インチの鍛造アルミも用意されている。試乗車は21インチ、285/45Rサイズのピレリのタイヤ「スコーピオンゼロ」を装着していた。
内装もハンドルはAMGパフォーマンスステアリングを装着。コックピットディスプレイは専用のディスプレイスタイルで、コントロールスイッチもAMGドライブを採用している。インテリアトリムはAMGカーボンファイバーで、ナッパレザーのシート、ダッシュボード、ルーフハンドルが装備されているという仕様だ。
パワーユニットはV8、4.0Lガソリンツインターボだが、AMG本社の技術者が「1人、1エンジン」で生産され、585PS、850Nm+48V電気システムにより20PS、200Nmのモーターが電動ブーストとして作動する。実際にスタートすると、出足の動きはマイルドで、旧型のように唐突に動き出さない。モーターの力が活かされ、約2.6tの車体はスムーズに滑り出すようにスタートする。
3t近い車体が爆走する姿は大迫力
もちろんそこからの加速は、AMGスピードシフト9速ATのDレンジ、C(コンフォート)モードで4秒台後半を実測した。カタログ値の0→100km/h加速4.4秒に迫るタイムを公道上でも可能にする実力の持ち主だ。それにしても3t近い車体が爆走するのは大迫力だった。
今回の改良モデルはパワーユニットだけでなく、サスペンションにも手が加えられた。電子制御の油圧式スタビライザー、ダンパー内に2つの油圧バルブを設けた電子制御アクティブダンピングシステムを採用したことで、コーナーや車線変更でのロール抑制と、バンプ時の上下動の抑制が向上。Cモードでのハンドリングは常に重めの操舵力だが直進性とコーナーでのロールの抑えは向上している。
S(スポーツ)モードではハンドルの重さはさらに増し、コーナーでの戻しも強くなるが、動きのシャープさは旧型より向上している。
ステアリングの特性は、AMG DYNAMIC SELECTで選択した5つのモードで変化させることができる。全体の動きとしては、これまでの「Gクラス」よりシャープになり、走りのスムーズさが向上しているように感じた。
これだけ全体を時代の動きに合わせているのだが、ずっと変わらないのが、ドアの開閉音と感触。薄く、重いドアを閉めた時の「ペシャッ」という音に近く、しかも思い切り閉めないと半ドアになってしまう。あの感触は、旧型から乗り換えることができた幸運なオーナーも「Gクラス」に乗っているという実感をもつ瞬間に違いない。
天才設計者で自らも乗用車を制作したエットール・ブガッティ氏が、W.O.ベントレーの大きくて重い6Lスポーツカーを評して「偉大なる蒸気機関車」と言ったことになぞらえれば、この「Gクラス」は「偉大なるトラック」と言えるかもしれない。このようなクルマが富裕層の間で人気が高いという日本は特殊な市場なのかもしれない。
■関連情報
https://www.mercedes-benz.co.jp/passengercars/models/suv/g-class/amg.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博