日本語の「餅(Mochi)」が英語として通じるほど、アメリカで餅ブームが起こったのは一昔前。今では餅アイスクリームや、日本のミスタードーナツのポン・デ・リング(餅ドーナツ)に見た目がそっくりの、カリフォルニア州発祥のチェーン店「モチナット(MOCHINUT)」など、アメリカでの「餅」人気は続いています。ちなみに、アメリカ人の餅の発音は「モーチー」で、モーを強調してチーを伸ばすのが特徴。見た目も可愛くてフォトジェニックなフルーツ餅の魅力をたっぷりとご紹介します!
あまりの可愛さにかじるのをためらってしまうフルーツ餅。(写真提供:おかん)
アメリカ・ユタ州で人気上昇中のフルーツ餅
筆者の住むユタ州で今、人気上昇中の「餅」があります。それはフルーツ餅です。「そんなの昔からあるでしょ!」「いちご大福みたいなやつでしょ?」という反応が返ってきそうですが……今回ご紹介するフルーツ餅は、フルーツと生クリームを餅で包んだもので、それだけでも十分美味しそうですが、口に入れるのを思わずためらってしまうほど可愛いのです。
そのうえ、ふわふわとした食感をしっかり残しながらも、保存料や酸化防止剤を使わない質にもこだわったフルーツ餅。
まるでキャラ弁のふたを開けたときのような感動と、作り手の心を感じるほっこり感があるこのフルーツ餅ですが、それもそのはず!アメリカにある多くの日本レストランのオーナーが外国人である中、このフルーツ餅の生みの親は日本人女性。ユタ州で日本食レストラン「おかん(Okan)」を経営するめぐみさんに、今回お話しを伺いました。
日本に住んでいたときは、保育園生の息子のために毎日キャラ弁を作っていたそう。お母さんの愛が詰まったキャラ弁のように、丁寧な手間がこのフルーツ餅には入っているのです。
賑やかな日本料理のメニュー写真がひときわ目を引く看板と、オーナーのめぐみさん。
イチゴだけではなく、ブルーベリーやみかん、メロンなどバリエーションも豊富です。お店前にあるメニュー看板の、パステルカラーの餅の写真を見ながら、ついつい全部注文したくなる筆者。アメリカではインパクトの強いショッキングカラーの色鮮やかなお菓子が多い中、こういう優しいパステルカラーを見ると、なぜか落ち着く人もきっといるのでは?ひと口噛めばモチモチした食感とフルーツの甘酸っぱいジューシーさが、絶妙なコントラストを生み出します。
フルーツ餅の誕生秘話
そんな見た目も愛らしく、看板の中でもすぐに目がいくフルーツ餅ですが、売り出し当初は全く見向きもされなかったそう。
餅の中身のフルーツはバリエーションも豊富。(写真提供:おかん)
めぐみさん自身が餅好きで、お店のメニューにもぜひ餅を入れたいと思い、日本の京都の有名な和菓子の八つ橋からアイディアをもらい、餡入りのお餅でスタートしました。でもそれがどんな食べ物か、聞いてくるお客さんさえ最初はいなかったそうです。
体にもやさしい、質にもこだわったフルーツ餅を、どうやったらお客さんに興味をもってもらえるのか?目を向けてくれるのか?
アメリカ人の夫の意見も取り入れながら、約一か月間、試行錯誤してついに生まれたのが、この可愛いキャラクターが目を引くフルーツ餅だったのです。
お客さんの大半はアメリカ人
冒頭でも述べたように、今ではアメリカのあちこちで広がる餅ブーム。都市部のショッピングセンターに行けば必ずと言っていいほど、「モチナット(MOCHINUT)」があるので、ユタ州でも餅はかなり浸透しているとばかり思っていたのですが……オーナーのめぐみさんの話は意外なものでした。
「ここにフルーツ餅を買いに来る大半のお客さんが、アメリカ人なんですよ!」
見た目が可愛いので興味津々で「これ何?」と質問してくるお客さんに「餅ですよ」と伝えると、今度は「餅って何?」という質問が飛んでくるそうです。
実際に食べたアメリカ人女性の評価に「程よい甘さで、口の中で噛んだときに、まるで雲をかじっているようだった」という感想があったとか!雲をかじった人なんていないのは分かりますが……口に入れたときの柔らかいふわふわ感が、十分伝わってくるぴったりな表現ですよね。
筆者が訪れたこの日、ちょうど隣の席で「おかん」のカツサンドを食べている男性客がいたので話しかけてみました。
快く写真撮影にもOKしてくれた、カリフォルニア州出身でユタ州在住7年の陽気なジェフリーさん。
多国籍料理が好きだというジェフリーさんですが、中でもオーセンティックな日本料理と韓国料理(昔からの伝統的な作り方や味を守って作られた、いわゆる「本物」の料理)には目がないそう。質問にも笑顔でハキハキと答えてくれました。
取材のために筆者が購入した、イチゴとキウイのフルーツ餅。
「どっちが良い?」と聞きながら、購入した餅のひとつを彼にプレゼントして、初めて食べるフルーツ餅の率直な意見を聞いてみました。さて、気になる味の感想は?
迷わずイチゴの入った餅を選び、カツサンドをまだ食べ終わってないのに早速試食、そしてカメラに向かって中身までこうして見せてくれました。
まるで、アメリカの食に特化した専門テレビ番組「フード・ネットワーク」に出てくるプロの料理人のように、細かく丁寧に感想を述べてくれたジェフリーさんですが、そんな陽気な彼の言葉を、筆者が彼になりきって訳すと…。
「実は、餅は食べたことがあるんだ。餅アイスクリームさ!でも僕は歯が敏感だから、餅アイスクリームは噛んだ瞬間に歯がしみて、正直にいうと味を楽しむどころじゃないのさ。」
「でもこの餅は、冷たくも硬くもなく、ふわふわ柔らかくて美味しいね!中身はイチゴだけじゃなくて、生クリームが入っているのはちょっとびっくりしたけど、バランスが最高だ。」
体に優しい自然派食品が好きな人へもぴったり。(写真提供:おかん)
お値段は米ドルで一個5.80ドル(1ドル150円で計算すると、日本円で870円)。アメリカのスーパーで売られている5号くらいのシンプルなホールケーキが12ドル前後(1800円前後)なので、このフルーツ餅は高級菓子ともいえるかもしれません。それでもリピーターがいるほど人気は衰えることなく、筆者が取材で訪れたのはまだお昼時間でしたが、すでに残り僅かな状態でした。
お値段以上の価値がある、作り手の手間と心がこもった可愛いフルーツ餅。ユタ州を訪れる機会があれば、ぜひ食べてみて下さいね。
文/トロリオ牧
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでスーパーの棚入れ係やウェイトレス、保育士など様々な職種を経験した後、アメリカ政府の仕事に就く。パンデミックをきっかけに「いつ死んでもOK!な生き方」を意識するようになり、17年間務めた政府の仕事を2023年に辞職。夫婦でRVキャンプを楽しむのが最高の癒しじかん。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員