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最新調査が示唆するのは「食」への無関心化?食のエンタメ化から〝食事のための食事〟を求める時代へ

2024.11.24

社会情勢と私たちの食生活は密接に関係をしている。

分かりやすい例はやはりコロナ禍だろう。外出の自粛や三密回避が推奨された社会において、私たちは食生活のあり方の変化を余儀なくされた。友人や同僚との食事をする機会は大きく減り、家族や個人で自由に食事を楽しむ文化ができた。「おうち時間」や「黙食」といった言葉も流行した。

「食」は〝社会を写す鏡〟である。

つまり私たちの食生活の現在地を理解することは、社会の変化を読み取るヒントとなる。

そして、その目的で行なわれているのが「食生活に関する生活者調査」だ。

「日本の食生活の『今』を知り、『これから』を共創する」を掲げる国内電通グループのプロジェクト「電通 食生活ラボ(以下、食ラボ)」が実施する大規模調査である。

その最新版、「食生活に関する生活者調査2024」が発表された。

食生活のトレンドと共に、背景にある社会の動向についても見ていきたい。

坂井田直幸さん
株式会社電通
第4マーケティング局 リレーションクリエーティブ1部
コミュニケーションプランナー
PR思考×CR思考の掛け合わせを考え方の軸として、商品開発プロデュース、ブランディング、コミュニケーションコンセプトの規定、クリエイティブはじめ、コンテンツの企画・演出など、様々な領域のプランニングをしている。2023年より電通食生活ラボの代表を務める。

三井知佳さん
株式会社電通
第1マーケティング局 マーケティングコンサルティング1部
シニアマーケティングコンサルタント
クライアントのマーケティング/事業の機会発見と課題設定、LTV最大化を目的としたブランド活動の再構築、顧客体験設計と実装、商品/サービス開発などの戦略プランニング業務に従事。食ラボではフードアクセシビリティをテーマに研究・コンサルティング活動をしており2018年から3年かけて実施した定量定性調査より2020年に「0.5食」を提唱。

「料理が面倒」が6割、「料理好き」は2割弱…料理を楽しむ余裕がなくなってきている

――昨年は「好きなものを選んで食べたい人が9割」との調査結果を発表して話題になった「食生活に関する生活者調査」(以下、「食生活調査」)ですが、今年の調査結果はいかがでしたか?

坂井田:「食生活調査」は、この3年間は調査パネルを変えずに調査を続けています。今年の調査結果からも、経年の変化はしっかりと現れていると感じています。

三井:コロナ禍ほど、食生活にパラダイムシフトは起こってはいませんが、個人的には興味深い結果です。景気状況から昨年と引き続き「節約」が大きなテーマではありますが、その中での生活者の考え方も少しずつ変化しているように思います。

――それは楽しみですね。では早速、本年の「食生活調査」結果ではどのようなトピックに注目しているのか教えてください。

坂井田:まずはやはり「料理をするのを面倒に感じる人」が約6割という結果と、「料理をするのが好きだ」と考える人の割合が16.8%と年々、低下している点でしょう。

※「食生活に関する生活者調査2024」より

※「食生活に関する生活者調査2024」より

生活者としては、値上げや物価高騰などの背景から料理が楽しいという感情よりも、必要に迫られて料理を仕方なくしているという気持ちが顕在化していますね。

また、年々減少している項目に「おいしいものは一人でなく、誰かと一緒に食べたいと考える人」や「家族との食事は、ストレス緩和になると考える人」といった割合も挙げられます。

※「食生活に関する生活者調査2024」より

※「食生活に関する生活者調査2024」より

――「おいしいものは一人でなく、誰かと一緒に食べたいと考える人」は、昨年の調査結果で「自分の好みのものを選んで食べたい」と感じる人が多かった点とも通ずるものがありますよね。私はてっきり、コロナ禍を経て周りと合わせる食事から、自分で自由に選択する食事を社会が容認するようになった、とポジティブに受け止めていたのですが、「料理が面倒」や「料理が好きではない」という割合が多いとなると、必ずしもそうではない気もしますね。

坂井田:他人主体の食事から、自分主体の食事をしてもいいと社会が変わってきているというのはその通りだと思います。社会の許容度が拡大してきているという変化は確かにありますよね。

しかし、その一方で、長引く値上げの波や物価高騰をはじめとする社会環境の変化から「生活者が他人を思いやる余裕がなくなってきている」という感情変化も引き起こしている気がします。

三井:そうですね。私は、生活者が食事をエンタメ文脈で捉えるのではなく〝食事のための食事〟と捉えるようになってきていると考えています。栄養を摂取するための食事を求める人が増えてきて、食への向き合い方が根源的な方向へシフトしているのでは、と。

これまで、食は「コミュニケーション」「自己実現」「承認欲求」「映え」など様々な意味合いが付与されてきましたが、本来の目的である栄養摂取を大事にする傾向が戻ってきているのかもしれません。

坂井田:調査結果からも、「『我が家の味』がある」と考える人の割合は減少傾向にあります。これは、生活のデジタル化や食事の簡便化が進む中で、家庭料理の伝統が薄れつつあることが影響しているかもしれません。例えば、調理の時短を意識する人が増え、メニュー用調味料やミールキットの利用が一般的になってきています。

※「食生活に関する生活者調査2024」より

――日本全体で、食への関心が低下しているということが示唆されているわけですね。原因となるのは節約(経済的負担)ですか?

三井:原因は節約だけとは限りませんよね。「時短」や「自分本位」も起因していると考えています。どんなテーマの議論でも、現代人は忙しいという論点は必ず挙がります。節約と時短が合わさると、食への優先順位が下がるのは避けられないと思います。

それに加えて、時間も気持ちも共有して生活を楽しくしていこうというシェアの時代から、自分の健康や家計、信条は自分で守るという個の時代にシフトしつつあり、良くも悪くも自分本位が強まっていると見ることもできます。こういった生活者の経済的、生活的、精神的な複合原因が、食に最低限の栄養摂取以外は求めない、いわば食への無関心化の傾向として読み取れるのではないか。こういった原因が食への無関心化への傾向としては読みとれるのではないかと、食ラボでは分析をしているところです。

新しい食との向き合い方を考えさせられる「0.5食」

――ところで、三井さんは「0.5食」という現代のトレンドについても調査をしているとお聞きしていますが、「0.5食」とはどのようなものなのでしょうか。

三井:食ラボが2022年に行なった調査の中に「1日3食きちんと食べているのは、わずか7%」という結果がありました。忙しい生活の中、朝はがっつり食べず、お昼を軽く済ませる、その代わりに間食を多めにとる、という人は多いと思います。私個人の実感としても共感できるところはあり、食ラボでは「食事の時間や手間を十分にかけずに食べる、ちょっとした食べ物や飲み物のこと」を「0.5食」と定義しています。

――具体的にはどういった食事や商品のことを指しているのですか?

三井:わかりやすい例だと、朝ごはんにバナナだけ食べるとか、コンビニで売っている「ゆでたまご」や「サラダチキン」といった食材がダイレクトに商品名になっているような商品です。

「0.5食」の考え方には食事の量だけでなく、自分で足りない食事を理解して、手軽に適切に摂取できるようになればいいなというアクセシビリティの意味合いも含まれています。

日本では20世紀前半からよいものとされた「一日三食」の考え方も、選択肢の拡大や食へのリテラシーの向上で、三食に縛られずとも必要な栄養やカロリーを取れるようになってきます。いま、それを後押しする市場ができ始めていて、知らず知らずのうちに「0.5食」を選択している人も多いかもしれません。

個人的には、自分に必要なものを個人が理解して選べる市場は以前から望んでいたので嬉しい傾向です。

――面白いですね。しかし、先の「食生活調査」の結果を踏まえると、少し違った形で普及することも考えられるのではないでしょうか。

三井:そうですね。理想としては、自分に足りない食品や栄養を理解して〝あえて〟選択をしていくというライフスタイルですが、食に興味がないからとか、経済的な理由からといった‶やむなく〟選択をする「0.5食」の広がりもあり得そうですよね。

坂井田:どうでしょうか。食への無関心化と捉えることができる今回の調査結果も、食生活の効率化を楽しんでいると、ポジティブに受け止めることもできると考えています。「食」が「楽しい」「幸せ」といった情緒的性質から、栄養を摂取するという機能的性質に価値を変えたことで、新たな食の価値を提示できると思っています。

「0.5食」もそのトレンドの中で起こる新たな価値観だと考えられますし、もしかしたら食のカスタマイズみたいなテーマが今後のキーワードになるかもしれませんね。

コロナ禍でみつけた自分なりの食への答えが、‶いま〟になっている

――なるほど。食への関心がなくなっているというのは、食事そのものというよりも、社会が求める食事やエンタメとしての食事に対しての向き合い方の変化かもしれないということですね。「食生活調査」でも料理をするのが面倒と感じる人が半数を超える一方で、「メニュー用調味料やミールキット」にお金をかけたい人が前年より増加していますので、より自分らしい食事を求めるトレンドはありますよね。

※「食生活に関する生活者調査2024」より

坂井田:食に対して、自分本位になってきていることを悪く思う必要はないと思います。それができる手段も増えて、私たちの寛容度も上がってきていることは良いことなので。

バックグラウンドとして、私たちはコロナ禍を経験しています。あの期間は国民全員が社会への向き合い方を考え直す契機になって、その結果、良くも悪くも自分なりの食の在り方への答えを出しました。そこから、コロナ前の日常に戻るはずだったのですが、コロナ前までの当たり前と、新たに見つけた自分なりの答えとのギャップがこのような結果を導き出しているような気がしますよね。「料理は面倒だ、と言ってもいいじゃないか」、「我が家の味、って本当に必要なの?」、「食事は1日3食でなくてもいいのでは?」「食べられる時、食べたいときにそれぞれが食べればいいんじゃないか?」等といったこれまで身近に持っていた固定概念がブレイクスルーされていく方向に現代の食意識が向き始めていることが、今回の調査から特に感じたことでしたね。

三井:そうですね。これから先の10年くらいは、自分本位の食を追求する社会でも根底にある”理想的な食事”像が変わることはないと思います。

一方で、コロナ前の生活を知らない世代がメインストリームになってきたときに本当に自分本位の食で良いのかという不安はあります。これまでの‶理想的な食事〟像がなくなった世代が自分本位で食に向き合ったときどうなるのか、食ラボではしっかりと見守っていきたいですね。

【参考】電通ニュースリリース:電通、「食生活に関する生活者調査2024」を実施

取材・文/峯亮佑 撮影/木村圭司

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