お客様目線こそ日本酒人気復興のカギ
萩野酒造がある宮城県は米どころとしても有名だが、宮城県産の日本酒は約9割が高品質の特定名称酒だという。
特定名称酒とは、「純米酒」「吟醸酒」「純米大吟醸酒」などを指し、美味しい酒造りに本気で取り組んでいる県と言っても過言ではない。
萩野酒造も伝統や歴史を守りながら新しい技術を取り入れ、常に進化する酒造りを志している。掲げている酒造りのコンセプトは、『自ら飲んで本当に美味しいと思える酒を少しだけ造る』。
そんな酒蔵が誇る主要銘柄こそ、「萩の鶴(はぎのつる)」、「日輪田(ひわた)」だ。
「萩の鶴は、1840年の創業時からの代表銘柄です。宮城らしいスッキリとした爽やかな味わいで幅広い方に楽しんで頂けます」
「日輪田は、私が蔵入りした2002年からスタートした銘柄で全量生酛仕込み。生酛らしい複雑で深い味わいが特長です。じっくりと味わいたい方にオススメです」
生酛仕込み(きもとじこみ)とは、江戸~明治時代中盤まで主流だった昔ながらの日本酒の造り方。重労働で時間がかかる製造方法だが、様々な微生物が関与する事で独特の味わいが生まれる。現代で採用している蔵は極めて少ないという。
――萩野酒造が酒造りで大切にしていることは?
「とにかく品質第一。少しでも問題があるようなお酒は出荷しない、それ以前にそういった酒を造らないように細心の注意を払ってお酒を仕込んでいます。また、地域に支えられてきましたので、これからも100年200年と続けて地域に貢献して参りたいと考えています」
近年、海外では日本酒人気が高まっているものの、国内消費は落ち込んでいると耳にする。この現状に老舗の蔵元が思うこととは?
「海外の場合、元々日本酒が無かった国に日本酒が普及し始めているので今は伸びていますが、いつかは頭打ちが来るということも考えながら、新しい国や地域も視野に入れて積極的に広げていかなければならないと思います」
「国内での消費が落ち込むのは少子高齢化の影響が大きく、避けようのない事かと思います。そのような中でも、ここ数十年で日本酒の品質は著しく向上し、本当に美味しくなりました。しかし、その美味しさが消費者の方々に届いていないのではないでしょうか」
「弊社のような小規模な酒蔵は広告宣伝も出せず、販売は地酒屋さんに丸投げ。中身が良ければお客さんは勝手に付いてくるだろうという幻想に長年囚われ、お客様目線が抜けていたように思います。ネット販売も普及しましたが、もっとお客様が気軽に手に取れるような市場を作っていかなければならないと思います」
日本酒の未来を担う老舗の思いがここにある。目指すは、さらなる高み。
「地元でも農家さんが減り、休耕田が増えています。そのような田んぼを復活させ、地元米の使用比率をどんどん上げて地元の水と米、人で醸したプレミアムな地の酒を日本のみならず世界に届けたいと考えています」
取材協力
萩野酒造株式会社
8代目蔵元・佐藤曜平氏X
@haginotsuruhei
文/太田ポーシャ