シンプルすぎるラベルに不思議すぎる銘柄が記された日本酒を見つけた。
『メガネ専用』、『全員メガネの蔵人で造りました』。
写真だけ見るとメガネの洗浄液に見えなくもないが、これは正真正銘の日本酒。
造ったのは江戸末期に創業した宮城県の老舗、萩野酒造。
「日本酒の日」、「メガネの日」である10月1日に毎年限定販売
杜氏を始め、蔵人全員がメガネをかけていたことから、「メガネの人だけで醸したお酒をメガネの人に呑んでほしい」というメッセージを込め、「日本酒の日」、「メガネの日」である10月1日に合わせて、10年前から毎年限定販売しているという。
ちなみに現在は、同じお酒の新酒の生原酒バージョンも4月に限定で販売している。
SNSでも話題になったメガネ専用日本酒だが、なぜ老舗がこんな素敵な悪ふざけをしてしまったのか?今回、萩野酒造の代表取締役で8代目蔵元の佐藤曜平さんに話を聞いた。
――メガネ専用日本酒が生まれたきっかけから教えてください
「当時、醸造シーズン終盤にまだ使い途を決めていない酒米があったので、これで何かできないか?と考えていました。できれば、「日本酒の日」である10月1日に合わせて出荷したいと思い、色々調べていたら、10月1日は「メガネの日」でもあったんです」
「実は私だけでなく、うちの蔵で酒造りに励んでいる蔵人全員がメガネをかけていたので、『メガネをかけた蔵人が醸した日本酒』というアイデアを思いついたのが始まりです」
誕生の経緯は驚きだった。厳格とさえ感じられる酒蔵のトップが「なによりもウケるのではないか」という柔軟な発想と行動で、話題の逸品を生み出していた。蔵元の心意気に拍手を送りたい気分だ。
「初年以降はメガネ専用に使うお米を毎年確保し、決まった銘柄にはこだわらず、その年の良いと思われるお米を使っています。ただ、メガネ専用のための酒米というものはございませんのであしからず」
――今も蔵人さんたちはメガネの方ばかりなんですか?
「作業上、曇ったりして不便な場所では外したりコンタクトの場合もありますが、基本的に全員近眼か老眼なのでメガネは所持しています。みんな、メガネです」
ちなみに、メガネをかけて酒造りをすると、湯気や湿気で曇ってしまうというデメリットもあらしいが、朝早くからの作業が多く、寝不足になりがちな環境のため仮眠の際にはコンタクトよりすぐに外せるメガネが便利だとか。
コンタクトの人も飲んで欲しい!おまけも付いてる!
メガネ専用と銘打ってはいるものの、「裸眼の方もコンタクトレンズ着用の方にもぜひお試しいただきたい」という萩野酒造渾身の日本酒。もちろん、味にも強いこだわりがある。
「見た目や名前のインパクトだけで中身は普通とかイマイチと思われないように、純米大吟醸と同じように手間暇をかけて丁寧に仕込んでいます。毎年、日本酒のトレンドやその年の米の状態を見て、酸味の強弱や甘さなどの味わいを決めていますが、基本的には酸味を強調してスッキリ感を際立たせた、爽やかな後口が特長です」
そんな日本酒、「メガネ専用」と相性の良い料理も教えていただいた。
「爽やかな酸味がフレッシュトマトとチーズのカプレーゼ、新鮮な魚介類のカルパッチョ等とよく合います。また、アヒージョのような料理の油もサッパリと切ってくれます。一般的な日本酒に比べて酸味が高いので、洋食により合うと思います。よく冷やして、ワイングラスでメガネをかけて飲むのがオススメです」
8代目蔵元の言葉にとても興味を抱いてしまったので、筆者も実際に入手し、飲んでみた。
たしかに爽やかな酸味が特徴的でフルーティーな香りとスッキリとした後味だ。日本酒初心者でも愉しめるかもしれないが、アルコール度数は15%なので飲み過ぎ注意。
ただ、すいすい飲める。そして清々しく酔える。
メガネふきのオマケも嬉しい。