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公共交通機関の完全キャッシュレス化で日本より数歩先をいくASEAN諸国のリアル

2024.11.24

日本では、ついに「完全キャッシュレス決済」の路線バスの実証実験が始まった。

これは国土交通省が主導する全国的な取り組みで、18事業者の29路線が選定されている。今現在はあくまでも実証実験段階であることに注意は必要だが、それでも「現金お断りの路線バス」が登場した出来事は日本のDX化に少なからぬ影響を与えるだろう。キャッシュレス決済とそれを提供するプラットフォームは、今や我々の生活に欠かせないものである。

しかし、ASEAN諸国は既に数歩先の未来へ突入している。公共交通機関、それも重要路線を中心に完全キャッシュレス化が実現しているのだ。

インドネシア・ジャカルタでは空港バスが完全キャッシュレス化

インドネシアの首都ジャカルタ。その郊外にあるスカルノ・ハッタ国際空港は、行政区画で言えばジャカルタ首都特別州ではなくバンテン州である。ジャカルタ中心部からは、バスで1時間30分ほどの距離だ。

市内とスカルノ・ハッタ国際空港をつなぐバスは、国営DAMRI社が運営している。そして、このDAMRI社の空港バスは今年2月1日から完全キャッシュレス化に踏み切った。

チケットの購入窓口で対応する決済手段は、クレジットカード、デビットカード、QRコード決済、そして、e-Money。このe-Moneyとは、インドネシア国内の銀行がそれぞれ発行している非接触型決済カードの総称である。公共交通機関の乗車だけでなく、買い物や高速道路の料金所でも利用できる「インドネシア版交通系ICカード」だ。

QRコード決済は、インドネシアでも日本と同様複数のサービスが存在する。GoPay、OVO、DANAなどである。しかし、インドネシア政府が各社共通QRコードQRISの普及を推し進めたため、「GoPayのコードはあるがOVOのそれは見当たらない」ということは今では起こり得ない。

実証実験は必要ない?

この空港バスの完全キャッシュレス化、そしてQRコード決済の共通統一コード導入にも言えることだが、インドネシアでは「実証実験」という段階を踏まえず「◯月◯日に完全キャッシュレスに移行します」と周知して、その日程通りに本サービスを展開する。

これが日本であれば、期限付きの実証実験を複数回重ねてようやく本サービス……ということになるだろう。「キャッシュレス決済に慣れていない高齢者もいらっしゃるから」と言われ、結局は現金決済を併存させるということも考えられる。そんな日本に比べたら、インドネシアはある意味で中央政府が強権的に振る舞うことができ(この表現は適切ではないかもしれないが)、キャッシュレス決済に不慣れな高齢者への対処は「十分な説明をしていく」で済ませてしまうのだ。

マレーシアでも完全キャッシュレス化の流れが

そしてこの流れは、隣国マレーシアにも及んでいる。

マレーシアKTMB(鉄道公社)は来年1月1日から、クランバレー(首都クアラルンプールを中心にした都市圏)や地方都市部で「チケット購入の完全キャッシュレス化」に踏み切る決断を下した。システムの移行期間中(今年末まで)は引き続き現金を受け付けるものの、それが過ぎたあとは現金の取り扱いを停止するという。

この移行期間を利用して、障害者と高齢者に完全キャッシュレス化に対する説明を行うとしている。

マレーシアKTMBも、インドネシアDAMRI社と同様「長期にまたがる断続的な実証実験」は行わずに完全キャッシュレスを達成する見込みだ。これは敢えて言えば、ゲーム業界の「早期アクセス(アーリーアクセス)」の概念に近いかもしれない。

オンラインで配信できる現代のコンピューターゲームは、たとえバグだらけであっても後から修正できる。また、ユーザーに不具合を発見・報告してもらう効果も発生する。そうした概念を導入すれば、断続的な実証実験を重ねるよりも結果として早く仕組みを構築することができるのだ。

「国民の若さ」が表れる分野

ASEAN諸国と日本には「住民の若さ」という相違点がある。

ここでは、インドネシアの首都ジャカルタの人口における世代間の比率を挙げよう。

今年7月9日に配信された現地メディアANTARA Newsの記事によると、ジャカルタの人口の46%がミレニアル世代(25歳から39歳まで)とZ世代(10歳から24歳まで)だという。一方X世代(40歳から54歳)は22%に過ぎない。ジャカルタは、若年層が大半を占める大都市なのだ。

となると、社会的発言権は高齢者よりも若者のそれのほうが遥かに強く大きいのは目に見えている。「スマホやキャッシュレスが苦手な高齢者もいらっしゃるから」という理由で、公共交通機関の完全キャッシュレス化に躊躇するようなことはまずない。

これはたとえば、ライドシェアにも同じことが言える。

GojekやGrabといった東南アジアの人気ライドシェアサービスは、常に若者の心に訴えかけるプロモーション戦略を実行する。筆者はGojekが台頭し始めた2015年の光景をよく覚えているが、アニメやゲームのイベントには必ずGojekの宣伝ブースが設けられていた。「スマホアプリでバイクタクシーを呼び出せる」という点をひたすらPRし、それが若者に受け入れられたのだ。

一方、少子高齢化の止まらない日本では「若者にも高齢者にも扱えるライドシェア」を標榜する。一見全ての世代に配慮しているようだが、いざその方針を実行すると結果として高齢者に寄り添った仕組みになっていく。なぜなら、若者は高齢者の好むものを決して使おうとはしないからだ。自分が20歳前後だった頃を思い出せば、その理屈は難なく理解できるだろう。国交省や全国自治体が導入しようとしている「電話で呼び出せるライドシェア」は、まさにその好例である。

「国民の加齢具合」は、こうした面からもよく観察できるのだ。

【参考】
DAMRI社
NasionalDaily
ANTARA News

文/澤田真一

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