グローバル株式市場:法人税減税と規制緩和が米国株の下支えとなる可能性
■グローバル株式ヘッド サイモン・ウェバー氏
イールドカーブの上昇が続けば、株価水準に影響を及ぼし始めると考えているが、小幅な業績成長を背景に米国株式についてはポジティブにみている。
一方で、トランプ氏の勝利が企業の利益率のマイナス要因となるリスクもある。中国からの輸入品に依存している一部のセクターでは、関税が利益率に逆風となる可能性があるからだ。また、移民規制の強化が予想されるが、これは特に消費財や建設部門における賃金上昇につながる可能性がある。
これらはインフレにつながる可能性があり、このような環境下では、需要を減退させることなく価格を引き上げる価格決定力を有する企業が有利となり得るが、需要が破壊されるというシナリオも考えられる。
米国企業にとっては、トランプ氏が提案した法人税の減税は追い風となることは明らかだ。規制緩和は米国株式にもプラスに働くと考えており、特に大手銀行や、大型ハイテク企業以外の人工知能(AI)等のテクノロジー分野にとってプラスに寄与するとみている。実際に、米国の技術的リーダーシップを維持するための規制緩和によってイノベーションが下支えされる可能性が高いトランプ次期政権下で、構造的な投資テーマはさらに前進する可能性がある。
トランプ政権下における反トラスト法は、ハリス政権と比べ、より自由放任主義的な競争政策に戻る可能性が高いと思われる。例外として考えられるのは、大手テクノロジー企業やソーシャルメディアプラットフォーム企業だ。副大統領候補であるJ・D・ヴァンス氏は、一部の企業は分割されるべきであり、他の大手テクノロジープラットフォームは明らかにリベラル・バイアスがあると考えており、これに対処する必要があると明言している。
トランプ大統領の関税に関するスタンスは深刻だが、交渉戦術でもある。関税の実際の実施については慎重に見極める必要がある。すべての輸入品、あるいはすべての中国からの輸入品に大規模な一律関税が適用されれば、インフレ率はほぼ間違いなく上昇し、個人消費は影響を受けるだろう。
エネルギーおよび気候政策は、両候補の間で最も明暗が分かれた問題のひとつ。トランプ大統領の下で、米国が気候変動に対する世界的な取り組みから外れることは間違いないとみている。主要な気候変動テクノロジーをめぐる米国のバリューチェーンへの企業投資は後退する可能性が高く、エネルギー転換が引き続き加速する世界の他の地域に焦点が向けられるだろう。
2016年は、トランプ氏が勝利するとはだれも予測していなかったため、市場は意表を突かれる形となった。しかし、今回は、投資家は数か月前からトランプ大統領の政策の影響を織り込んでいた。さらに、2016年の最初の動きは必ずしも持続的なものではなかった。その最たる例がクリーンエネルギー・セクターだ。インフレ抑制法が成立したにもかかわらず、2020年から2024年にかけてのバイデン政権下でのパフォーマンスは、2016年から2020年にかけてのトランプ政権下でのパフォーマンスよりもはるかによいものでした。
ここでのポイントは、政治や政府だけが市場を動かす要因ではないということ。中期的に一般的に市場を動かす要因となるのは、株価水準、景気等のサイクル、競争、の組み合わせだ。
エネルギー転換:グリーン・インセンティブは失われる可能性があるが、再生可能エネルギーのコストは維持されるだろう
■シュローダー・グリーンコートCEO、北米担当 デビッド・ボイス氏
過去15年間で、風力発電と太陽光発電の発電コストは大幅に低下し、現在では化石燃料から電力を生産する際の変動コストと真っ向から競合している。コストの観点から、電力会社にとって再生可能エネルギーは、当然の選択となっている。
ドナルド・トランプ次期米大統領は、クリーンエネルギー産業への経済支援の打ち切りを示唆しているが、インフレ抑制法(IRA)を一方的に廃止するのは難しいと思われる。グリーン税制優遇措置の撤廃には米国議会の支持が必要だが、IRAがもたらしてきた広範な景気刺激策を考えると、新大統領は支持を得られない可能性がある。
グリーン・エネルギー・プロジェクトに関する私たちのデータ分析によれば、IRAの成立以降、共和党支持者が多い州では50%以上の新規雇用と設備投資を創出したのに対し、民主党支持者が多い州では20%であることがわかった。
それにも関わらず、トランプ大統領は、税額控除を受けるための資格に関する規則を厳格化したり、グリーン・エネルギー・プロジェクトに対する助成金や融資の実施を凍結したりするなど、大統領令を通じて気候変動関連法案を妨害する可能性があるため、クリーンエネルギーへの移行が減速する可能性が考えられる。
トランプ大統領は、何千人もの連邦職員の役割を再分類するスケジュールFを復活させる可能性もある。そうすることで、トランプ大統領は米環境保護局(EPA)などの主要政策機関の人事に対して大きな影響力を持つ可能性がある。第1次トランプ政権ではEPAの予算を削減し、規制活動を制限した。政府のこうした分野は、さらなる削減の影響を特に受けやすいだろう。
■グローバル・リソース株式 ファンドマネジャー アレックス・モンク氏
トランプ政権の政策は、よりインフレにつながる可能性が高いとみている。資本コストは、持続可能なエネルギー・プロジェクト開発とクリーン・エネルギー商品に対する消費者需要の重要な原動力だ。したがって、投資の減少、プロジェクトの継続的な遅延、消費者の電気自動車や屋上ソーラー、ヒートポンプのような主要技術への乗り換えが期待よりも遅れる可能性があることは、多少なりともリスクがあるのは間違いないと考えられる。
共和党が政権を掌握するかどうかは、政策の観点からは短期的な不確実性をもたらすが、インフレ抑制法などの主要なイニシアチブが全面的に廃止されるリスクは低いとみている。
さらに、エネルギー転換の原動力は政策だけではなく、この分野の企業にとっての市場は米国だけではありません。世界的なエネルギー転換の長期的な原動力は、1. コストと技術の改善、2. 持続可能なエネルギー商品とサービスに対する消費者と企業の需要の拡大、3. 長期的な政策支援、の3つあると考えている。この観点から、米国の政策情勢の変化がポジティブではないことは間違いないものの、この分野への投資を促す他の力の強さを過小評価してはならないと考える。
最後に、エネルギー転換関連のセクターの株価水準は、混乱や変化をすでに織り込み済みとみている。
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構成/清水眞希