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トランプ圧勝で終わった米国大統領選の結果が世界経済、貿易、株式、債券市場に及ぼす影響

2024.11.11

2024年11月5日に投開票が行なわれたアメリカ大統領選挙は、ドナルド・トランプ元大統領の勝利に終わった。この結果に対して、金融市場は、経済成長を促す政策の実施とインフレ率の上昇を見込む形でトランプ氏の勝利に反応した。

そんなトランプ氏の大統領復帰が米国経済や世界貿易、株式および債券市場、そしてエネルギー転換にどのような影響を持つのか。シュローダー・インベストメント・マネジメントから分析リポートが届いているので、同社リリースを元に概要を紹介する。

引き続き米国経済はソフトランディングを達成するとの見方を維持

■ヨハナ・カークランド グループCIOコメント

米国大統領選挙におけるトランプ氏の勝利を受けて、シュローダー・マルチアセット・チームでは株式に対する強気姿勢を変更する考えはなく、特に米国株式に対する選好姿勢を維持する方針です。

トランプ氏は前政権時、ダウ工業株30種平均のパフォーマンスを大統領としての成功のバロメータとして着目していました。

引き続き、米国経済はソフトランディングを達成するとの見方を維持しています。財政政策は引き続き支援材料となるでしょう。

主要なリスクは貿易への影響であると考えています。トランプ氏は直に声明を発表するでしょう。短期的には、保護主義的な姿勢は米ドル高を招くほか、米国以外の経済成長を阻害する要因となる可能性があります。関税引き上げによる影響を相殺するために、中国当局は緩和的な政策を継続すると考えます。

一方、欧州株式については、米国政府による関税強化の影響に加え、政治的な観点から選好姿勢を弱めています。

債券については、インカムの源泉という伝統的な目的のために保有を維持する方針です。但し、財政悪化に対する懸念が高まったため、債券のポートフォリオにおける分散機能は再び低下する可能性がある点には留意する必要があると考えます。

より広範な視点では、ハードランディングに向かうリスクが低減したとみる一方、トランプ氏が主導する関税強化や財政政策の影響によりインフレが再燃するリスクが高まったと考える。

最悪のシナリオは、候補者により「選挙結果は無効である」と主張されることと考えていましたが、このシナリオは免れられたことで、一連の大統領選に関する不透明感が低下した。

経済への影響:トランプ氏の勝利は、米国経済にとってリフレ要因となるだろう

■米国シニアエコノミスト ジョージ・ブラウン氏

接戦が予想された米国大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏が民主党のカマラ・ハリス氏に圧勝する結果となった。米国政治の歴史の中で、再選に失敗した後に再び大統領に返り咲くのは史上2人目だ。

残る唯一の疑問は、共和党が上院と下院の両院で過半数を獲得するか。共和党は上院で過半数を獲得していたが、下院はカリフォルニア州とニューヨーク州で接戦が繰り広げられており、どちらの党が多数派を獲得するかが焦点となっている(当レポート発行時点)。

しかし、下院でも共和党が過半数を獲得すると考えられる。ポリマーケット(ブロックチェーンベースの予測市場)では、上下両院とも共和党が占める、いわゆる「レッド・スイープ」の確率は90%以上となっており、東海岸各州における大統領選投票終了時の35%程度から大幅に上昇している。

そのため、トランプ氏は政策を推進するにあたり、優位な立場にあると考えます。トランプ氏は、さらなる減税や規制緩和に加え、関税引き上げや移民規制の強化などを公約として掲げており、これらは米国経済にとってリフレ要因となると考えられます。

よって、今月末に公表する予定の最新のマクロ経済見通しにおいては、前回の公表時に市場コンセンサスを上回っていた2025年の経済成長率見通しをさらに引き上げることを検討している。前回の経済見通しは当時の選挙動向を参照し、ハリス氏が米国大統領選挙に勝利し、上院と下院で多数派が異なる「ねじれ議会」を想定したものだった。

インフレは長期化する可能性が高まったため、シュローダー・エコノミスト・グループでは、米連邦準備制度理事会(FRB)が示唆したほどの金融緩和を実施することはないという確信を強めている。シュローダー・エコノミスト・グループでは米国の中立金利は3.50%程度と想定している、トランプ氏の政策により、FRBは政策金利を3.50%以上に維持する必要があると考えている(中立金利とは、安定的で予測可能な経済成長とインフレを実現するための制約的でも緩和的でもない政策金利を示す)。

 

債券:米大統領選挙は利回り上昇とドル高継続の可能性

■債券ストラテジスト ジェームス・ビルソン氏

共和党が上下両院および大統領のポジションを奪取し、「レッド・スイープ(上下両院ともに共和党が占めること)」となる可能性が高まった。今後市場では、財政緩和とトランプ流の通商政策の影響がさらに織り込まれると予想する。

一方で、今回の大統領選挙の結果に関わらず、米国経済成長を示すマクロ経済指標は直近すでに非常に堅調であることは重要なポイントと考える。この点を考慮すると、トランプ政権で想定される財政緩和政策が実行された場合、FRBが掲げる物価安定に向けた政策運営が更に困難となり、経済は「ノーランディング・シナリオ(インフレが粘着性を維持し、金利水準がより長期的に高位となる状況)」に向かうリスクが高まると考えられる。

したがって、今回の選挙結果は、利回りの上昇、中でも米国債のその他地域対比での相対的な利回り上昇、また通貨市場の米ドル高の継続につながると見ており、直近はすでに市場は織り込みが進んでいる。

通商政策に関しては、中期的には不確実性が高いものの、短期的には世界的な貿易サイクルに対する懸念が、欧州を始めとするその他地域への影響に繋がることが考えられ、通貨市場においてユーロ安ドル高が発生すると予想する。

■米国債券チームヘッド リサ・ホーンビー氏

今回の選挙結果を受けた最初の市場の反応として、国債利回りは直ちに上昇し、利回りカーブはスティープ化(短期金利と長期金利の差が拡大)した。米国の景気後退がない限り、米国10年債利回りが、再び3.50%を下回るという可能性は低いと考える。

同様に、これまで歴史が示しているように、一党が全政権を掌握すると、利回りカーブはスティープ化するのが一般的であり、この傾向は続くと予想される。クレジット・スプレッドは選挙結果を受けて大幅に縮小した。これは、市場が企業にとってより好ましい背景(法人税の引き下げや規制緩和の可能性)を十分に織り込もうとしたからだ。

今後、トランプ大統領が政権人事を固め始めるにつれて、特定のセクターへの影響がより明確になると予想される。

他の債券市場への影響はまちまちになると考えられる。エマージング債券市場では、投資適格債とハイ・イールド債のスプレッドは好調に推移している。米国の成長見通しが高まることは、エマージング諸国の成長にとってプラス要素となる一方で、エマージング通貨には圧力が掛かると考える。

トランプ大統領の経済成長促進政策の下で、FRBのニュートラル・レート(中立金利)は上昇しているように見え、短期的には米ドルの上昇が見込める。とはいえ、財政問題を含む米国の長期的な不均衡は、最終的に、長期において米ドルの重荷になるかもしれない。

選挙は時事的な話題ではあるものの、ポジショニングにとっては主要な要因ではない。足元、投資家が直面している重要な課題は、リスクとリターンのトレードオフが大きく変化していることといえる。

具体的には、投資家が求める、あるいは受け入れるリスク対比のリターンは、過去の標準と比べて急激に低下が見られている。企業のファンダメンタルズは十分に下支えされている(おそらく共和党が政権を奪取すればさらに下支えが予想される)ものの、クレジット・スプレッドは過去のレンジにおける最下位10分の1にある。

これは、リスクとリターンが非対称な状況になっており、価格上昇局面よりも下降局面の確率が非常に高いことを示唆したものだ。共和党が政権を奪取する可能性があるということは、不確実性の柱が1本増えることを意味するということだ。本来であれば、これがクレジット・スプレッドに織り込まれているはずだが、足元では織り込まれておらず割高な水準で推移していると考える。

エマージング株式市場:関税がリスクとなる

■エマージング株式ヘッド トム・ウィルソン氏

トランプ氏が大統領に返り咲くことはエマージング株式では、注意深く状況を見守る必要があると考えている。その中で、米国への輸出品に広範な関税が適用される可能性があり、特に中国への関税が大幅に引き上げられる可能性が、新興国にとって最も注目すべきリスクであると考えられる。関税が適用される国は、通貨の下落につながる可能性が高く、特に人民元安になる可能性を含む一方、高い関税が課せられることについて、成長への影響を防ぐために中国の政策対応がより大規模になる可能性もある。

特に中国については、高関税のリスクがどの程度交渉プロセスの始まりとなるのか、また、高関税が課せられるとしてもどの程度まで段階的に導入されるのか等、実際の動向について不透明感も残されていると考えており、今後の状況を注視する必要がある。

貿易関税をはじめとするトランプ次期政権の政策は、米国にとってインフレをもたらす可能性がある。予想される結果としては、米ドル高、インフレ率の上昇、米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の縮小、米国のイールドカーブの上昇等が挙げられる。これらは新興国通貨の重しとなり、新興国の中央銀行の金融政策の制約となる可能性が考えられる。

もう一つの疑問は、米国の外交政策であり、トランプ大統領の下で米国がどの程度孤立主義を強めるかだ。これにより、特定の市場ではリスク・プレミアムが上昇する可能性がある。アジアでは、テクノロジー・サプライ・チェーンにおいて米国の利益にとって台湾は極めて重要であることから、米国の台湾に対するコミットメントが著しく変化することはないと考えている。しかし、米中関係がリスクを悪化させないよう注意深く管理されることが重要だ。

ウクライナ情勢については、トランプ次期政権が早期解決を促す可能性がある。これは、ウクライナの復興の可能性がある一方、和解が長続きしない可能性もあることから、プラスにもマイナスにもなり得るとみている。一つの影響は、欧州の防衛費の継続的な増加が求められると考える。

直後の市場の反応としては、中国株式市場が軟調となった一方、インド株式市場は堅調に推移した。これは予想どおり。インドは他の新興国市場よりもトランプ政策の影響を受けにくいため、当面はポジティブな展開となる可能性がある。中国では現在、市場にはより強力な政策の後ろ盾がある。貿易の不確実性はあるものの、さらなる政策支援等を考慮して、中国については現在の中立的な見方から大きく逸脱する可能性は低いと考えている。

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