渋谷ハロウィンは、毎年のようにその様子が注目されている。
しかし、それはどちらかといえば悪い意味での注目だ。2018年の「軽トラ横転事件」以来、渋谷ハロウィンには負のイメージが定着してしまった。現にこのイベントは自然発生的なもので、地元の商店街が主催しているというわけでは全くない。
渋谷区ははっきりと「ハロウィン目的で渋谷には来ないでください」と言っている。だが、それでも人がやって来る。その現象を、我々は見たままの姿で受け止める必要があるだろう。
たとえば、2022年あたりまでの渋谷ハロウィンには生配信のYouTuberが数多く訪れていた。それが徐々に姿を消し、代わりにTikTokライバーが目立つようになった。それはなぜか?
パンデミック只中の渋ハロでは……
筆者は2020年の渋谷ハロウィンを、小学館とは関係のないメディアのライターとして取材した。
2020年といえば、COVID-19が人類に牙を剥いた年。筆者はその年の2月までインドネシアに滞在していたが、騒動が予想以上に拡大したのを見て日本に緊急帰国した。3ヶ月ほどでまた舞い戻るつもりではあったが、それからインドネシアに再渡航できたのは3年後である。
そんな2020年の渋谷ハロウィンは、マスクを着用しながらもコスプレ姿でハチ公前広場を歩く人や、「マスクは効果ない」という主張を訴える政治団体のメンバー、そして多くのYouTuberが自撮り棒にカメラを装着しながら参上していた。
名の知れたYouTuberもいれば、チャンネル登録者数が100人もいない無名のYouTuber、外国人YouTuber、そして敢えて名は出さないが犯罪行為をしたためにYouTubeからBANされた「迷惑系」もいた。その迷惑系に突然殴りかかって喧嘩に持ち込み、それをライブ配信して視聴者を得ようとする新たな迷惑系YouTuberも現れた。
この2020年を中心とした前後2年は、良くも悪くもYouTuberが存在感を発揮していた時代と言えよう。
TikTokが定着させた「縦型配信」
しかし、2023年に巨大な地殻変動が発生する。
それは「TikTokの台頭」と、それに伴う「縦型配信の定着」だ。
YouTubeとTikTokの最大の違い、それは「縦か横か」だった。YouTubeはスマホ画面を横にして、初めてフルサイズで視聴することができる。しかし、TikTokの動画は当初からスマホ画面を縦にしたまま、つまりスマホの保持の仕方を一切変えないままフルサイズで視聴することができるのだ。
保持している手の親指でスワイプもできるため、複数本の動画を短時間でサッと視聴できる。横画面の動画よりも遥かに手軽なのだ。
悪い言い方をしてしまうと、動画がファストフード化したのである。
縦型動画の特徴
縦型動画は、横型のそれよりも多くの視聴者を集めることができる。
実際にYouTubeでゲーム実況動画を配信している筆者の実感からすれば、チャンネル登録者数3,000人の段階で配信する横画面動画の視聴回数は、せいぜい数百。上手く行けば2,000回や3,000回に達することがあるものの、残念ながら「いつものパターン」では1,000回も視聴されないのが現実だ。
ところが、縦型動画では公開後1時間で数百回再生、数日後に5,000回再生に到達するということも珍しくない。縦型動画は、横型動画の10倍程度の再生回数をもたらしてくれると考えて間違いないだろう。
もちろん、それはライブ配信でも同様だ。
縦型動画で稼げるか?
TikTokがYouTubeを脅かす存在になった理由、それは他の動画配信サービスよりもいち早く縦型動画を確立したからだろう。
その上で、TikTokでも動画に対する収益化プログラムが整備され、広告収益やいわゆる「投げ銭機能」も設けられた。すると、ライブ配信者はそれまでのYouTubeからTikTokに移るようになったのだ。
ただし、縦型動画の広告収益は横型動画よりも遥かに単価が安いことにも言及しなければならない。「縦型動画は、横型動画の10倍程度の再生回数をもたらしてくれる」と上述したが、それと引き換えに広告収益の単価は10分の1程度という認識でいいだろう。だが、それを補えるほどの視聴者からの投げ銭(YouTubeで言うところのスーパーチャット)があれば、やはり縦型動画のほうが割が良いのだ。
「迷惑系」が消えた2024年
そのような背景から、2024年の渋谷ハロウィンではYouTuberよりTikTokライバーのほうが明らかに目立っていた。
しかしそれは、YouTuberが完全にいなくなったという意味ではない。実はYouTubeも、遅ればせながら縦型画面によるライブ配信機能を去年から導入している。ライブ配信者の中には、 YouTubeで縦型と横型両方の配信を行なっている人も。無論、両方とも内容は全く一緒だ。
また、これは縦型・横型の話とはあまり関係のないことだが、今年2024年の渋谷ハロウィンを訪れたライブ配信者は優しく律儀な人が多かったように思える。
実は今年の渋谷ハロウィンも、筆者は取材目的で訪れている。仮装をしたライブ配信者に「写真を撮らせてください」と声をかけると、誰しもが快く応じてくれた。2020年のように、他の配信者に殴りかかったりその様子を撮影したり……という者はまず見かけなかった。
「犯罪行為を配信すると即座にBANされる」というのは、もはや常識として定着している。2020年から2024年までの間、「迷惑系」や「私人逮捕系」はことごとく姿を消していった。それを見た他の配信者は、「自分は決してああいう配信者にはならない」と感じているようだ。
渋谷ハロウィンからは、こうした「時代の移り変わり」を観察することができる。
文/澤田真一