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トランプ大統領再選がもたらす「残酷な結末」とは?ウクライナ、中東情勢が大国の利害調整の犠牲になる可能性

2024.11.11

トランプ再選がもたらす「残酷な結末」

トランプ氏は民主党の経済政策を批判しつつ、「自分ならインフレの悪夢を終わらせることができる」と豪語してきた。

財政赤字を拡大させ、関税を引き上げながら、いかにしてインフレを終わらせると言うのか。一見すると矛盾しているように見える組合せだが、妙案がないわけではない。それは、紛争の解決を通じたエネルギー価格の低下によるインフレ圧力の抑え込みだ。

■「財政拡張や高関税」と「インフレ抑制」を両立させるウルトラC

トランプ氏は再選された暁には、「ウクライナでの紛争を24時間で解決する」と言ってきた。もちろん、24時間という期限は誇張としても、仮にウクライナ情勢が早期に解決に向かう場合、輸出が止められている安価なロシア産の化石燃料が西欧諸国に流れ込む可能性か出てくるため、原油価格には下押し圧力がかかることにとなりそうだ。

また、パレスチナ情勢やイランとの対立が緊張緩和に向かうなら、中東産原油の供給懸念が和らぐことで、同様に原油・エネルギー価格の低下に大きく貢献することとなるだろう。

自動車を主な交通手段とし、全館空調の大きな家が多い米国は、エネルギーを猛烈に消費する社会だ。このため、エネルギー価格の下落はインフレ圧力の低下に加え、光熱費を除く可処分所得を引き上げることで景気浮揚の効果も期待できる。まさに、1粒で2度おいしい政策と言えるだろう。

良いことずくめに聞こえる地政学リスクの緩和だが、当事者にとってハッピーであるかは別問題かもしれない。

というのも、トランプ氏は「最優先でウクライナ支援を停止する」と明言しているからだ。現在、膠着状態にあるウクライナ情勢では、欧米諸国から送られる最先端の武器が、ウクライナ側の抵抗をギリギリで支えている。

もし、米国が軍事支援を停止した場合、ウクライナは武器や兵站(へいたん)を絶たれて苦境に立たされるとともに、同国の東部地域はロシア領の緩衝地帯となる可能性が高まる。

このような形での地政学リスクの緩和や解消は、ウクライナ国民やその支援者にとっては受け入れがたい「残酷な結末」と言えるが、米国からの支援が絶たれれば、こうした決着も受け入れなければならないかもしれない。

一方、中東情勢も大きく動く可能性がある。現在、イスラエルはガザ地区でのハマス掃討作戦と同時に、ヒズボラを始めとする武装勢力や、それを支援するイランと対峙している。

こうした紛争・緊張状態は、米大統領の交代をきっかけに大きく動く可能性がある。

■米国の政権交代をきっかけに急展開してきた国際紛争

1979年にイランで起こったイスラム革命の際に発生した「米国大使館人質事件」は、イラン革命政府が人質の解放要求を無視し続けた結果、事件は長期化。

そして、民主党のカーター大統領から共和党のレーガン大統領に交代した直後、1981年1月、444日ぶりに電撃的に解決した。

また、実に20年間続いた泥沼のアフガン戦争は、2020年の大統領選挙で民主党のバイデン大統領が政権を奪取した翌年、2021年8月に終結した。

これまで米国の政権交代は、こじれた外交関係がほぐれるターニングポイントとなることが少なくないのだ。

■トランプ再選で窮地に立たされるイラン

一方で、イラン側にも米国との緊張緩和を求める強い動機がある。

まず、親イスラエルとされるトランプ政権はバイデン政権と異なり、イスラエルによるイランの核施設や石油施設への攻撃を制止するとは限らない。

また、今年の7月、イランの大統領就任式に出席するためテヘランを訪れていたハマス最高幹部のハニヤ氏が、イスラエルのピンポイント攻撃により暗殺された。

さらに、10月26日未明には、イスラエル空軍機100機が空爆によりイランの防空システムを無力化するとともに、民間の犠牲者を殆ど出すことなくイランのミサイル工場など軍事施設3か所をピンポイントで破壊したと報じられている。

AIを始めとする最新のテクノロジーで武装したイスラエルの軍事的優位は圧倒的で、「米国の抑え」が外れれば、石油施設、インフラ設備、核施設に留まらず、イランの指導者さえも高精度誘導兵器の標的となってもおかしくない状況にあるとされている。

■猛烈な通貨安で困窮するイラン国民

さらに、イラン政府を追いつめているのが、経済制裁による困窮と国民の不満の高まりだ。

現在、イランのインフレ率は通貨安もあって年率30%を超えているが、2016年にトランプ氏が大統領に選出されて以降、イランの通貨リアルの対ドルレートは1ドル3.7万リアルから2020年10月には32万リアルまで下落したと報じられている。

そして、足元ではさらにリアル安が進み、約69万リアルまでドル高リアル安が進行している(いずれも実勢レート)。

前回のトランプ政権ではトランプ氏の娘婿でユダヤ系米国人のクシュナー大統領上級顧問を中心に、エルサレムへの米大使館設置を始めとする強硬な中東政策が推し進められた。

そして、今回のトランプ氏の大統領再選により、イランはさらに強硬な中東政策に直面する可能性がある。

こうして考えると、イラン側も振り上げたこぶしを不本意な形で下ろさざるを得ない、「残酷な結末」に追い込まれつつあるのではないだろうか。

まとめに

トランプ氏の大統領再選を受けて、金融市場では米長期金利の上昇と円安ドル高が進むこととなりそうだ。また、株式市場については、短期的にはトランプ氏の勝利が追い風となる一方、長い目で見るとハイテク株を中心に下押し圧力がかかりかねないため注意が必要だろう。

トランプ新政権は、高インフレに激昂する世論への配慮から、エネルギー価格を引き下げるためウクライナや中東でのディールを強力に推し進める可能性がある。

そして、トランプ氏の大統領再選により進められる、地政学リスクの緩和やエネルギー価格を引き下げるための紛争解決策、いわゆるトランプ流「ディール」は、大国の利害調整の犠牲となる当事国にとっては「残酷な結末」となるように思えてならない。

関連情報
http://www.smd-am.co.jp

構成/清水眞希

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