コンプライアンス意識が高まる昨今、コンプライアンス違反をした企業はSNSでの拡散やメディアの報道により社会的信用を失い、ブランドイメージが低下してしまう。
特に、明確なコンプライアンス違反である行政処分を受けた企業の評判低下は著しく、このような企業との取引が発覚した場合は、取引先の社会的信用も低下する可能性も。
そのため、企業は自社のみならず取引先など関係先企業が社会的責任を果たし法令遵守をしている企業かどうか見極める必要がある。
AI与信管理サービスを提供するアラームボックスは、この度、2023年9月1日~2024年8月31日に官公庁が公表した2,430件の行政処分および行政指導を対象に、根拠となった法令を調査し「行政処分件数ランキング」を集計したので結果をお伝えしよう。
運送業や自動車整備業で違反多数、働き方改革に逆行する法令違反も多発!行政処分件数ランキング
ネット上で公開される行政処分情報を分析した結果、運送業や自動車整備業、建設業など特定業界での業法違反が多数発生していた。
その他には、危険を伴う職務の安全基準を守っていない企業や働き方改革に逆行する労働環境となっている企業のコンプライアンス違反が多発していることが判明。
従業員と顧客の安全を守り、公共の福祉を保つため、特定業界には企業に一定の規制をかける業法が定められており、これにより、過当競争や不適格な事業者が市場に与える影響が抑えられ、安全な事業運営が維持されている。
貨物運送業や旅客運送業では『運行管理』、自動車整備業では『整備基準』、建設業では『資格基準』が求められるが、これら業法の違反が多発していた。
企業は一般的な労働規制だけでなく、業法を正しく把握・遵守し、適正な管理体制を確立する必要がある。
また、働き方改革により労働環境の改善が求められる中、労働安全衛生法や労働基準法などの法令に基づいて定められた安全基準や労働条件に不適切な違反も多数発生していた。
特に、労災事故や違法な時間外労働、賃金の未払いなどがコンプライアンス違反として処分の対象となっている。
いわゆるブラック企業に対する規制が強化されているにもかかわらず、企業が適切に対応できていないケースが多く、対応に必要な人手や原資の不足が懸念される。
1位 貨物自動車運送事業法:504件 主な違反内容:適切な運行管理の欠如、過積載運送の引受けなど
貨物自動車運送事業法は、主にトラックでの運送をおこなう事業者に対して、輸送の安全確保や貨物自動車運送事業の健全な発達のため適切な運営を定めたものだ。
これに違反した処分理由としては、適切な運行管理の欠如、過積載運送の引受けなどが挙げられる。
具体的にはドライバーの体調や酒気帯びの有無を確認する点呼や、乗務等の記録を適切に行っていないため、貨物自動車運送事業輸送安全規則に適していないとして処分の対象となっている事例が多く見られた。また、許可された重量を超えた貨物を運搬した過積載運送も多い。
運送業では、2024年4月から働き方改革関連法で自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されたことによるドライバー不足の発生が懸念されていたが、厳しい納期に対応するために無理な運行計画を組み、結果として違反の多発につながっていると考えられる。
2位 労働安全衛生法: 444件 主な違反内容:安全対策不足による労働災害など
労働安全衛生法は、職場での事故や疾病といった労働災害を防止するために、安全に関するルールや責任体制の明確化を定め、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的としている。
これに違反した処分理由としては、事業者の安全対策不足によるものが多く、高所での作業や重機の扱いなど危険が伴う作業について安全基準を満たさないまま業務を行ったケースが多発していた。
また、これらの違反により労災事故が発生した際に、事故の隠蔽を図って労働者死傷病報告書の未提出や虚偽の報告をしたことで行政処分に至っている例も散見される。
なかには死亡事故に繋がる労働災害も発生しているため、法令に則った適切な安全管理が重要だ。
3位 道路運送法: 410件 主な違反内容:タクシーやバス運転手の乗務時間の超過、指導監督義務違反など
道路運送法は、主にタクシーやバスなどの旅客運送を自動車で行う事業者に対して、輸送の安全確保や公共の福祉の増進に資することを目的に定められている。
これに違反した処分理由としては、運転手の拘束時間及び休日労働の限度超過や、疾病や疲労のおそれがある運転手に運行業務をさせたことが多く見られた。
これらの過労防止関連の行政処分の基準引き上げによって、働き方改革が進んでいるものの、貨物運送業と同じくドライバー不足が懸念される。
また、旅客自動車運送事業者は、運行の安全を確保するために運転手に対して国土交通大臣の定めた適切な指導監督を行わなくてはならないが、これらの指導が適切に行われなかった事業者に対しても行政処分が多くなっていた。
4位 建設業法: 179件 主な違反内容: 無許可での工事請負、技術者の不適正な配置など
建設業法は、事業者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者の保護と建設業の健全な発達を目的に定められている。
建設業では、土木工事や内装工事、管工事など、工事の種類に応じた専門的な技術が求められる。そのため、対応する許可を取得し、適切な技術者を配置することが必要だが、これらの基準を守らずに工事を請け負った事業者に、行政処分が科されていた。
また、工事現場での安全管理体制の不備による営業停止や、代表者の不法行為による建設業許可の取り消しなどが多く発生していた。
5位 道路運送車両法: 177件 主な違反内容:指定自動車整備事業者の基準違反、車検の虚偽申請など
道路運送車両法は、主に自動車やバイクなどの道路運送車両に関し、所有権を公的に証明することや、安全性を確保するための基準を定めている。
同法に基づいて国から認定を受けた指定自動車整備事業者(民間車検場)は、車検などの自動車整備を行うことができるが、基準に適合する設備および人員配置でなないとして、認定取り消し処分を受けている事例が散見された。
また、整備記録の虚偽記録や、基準を満たさない車両に対して保安基準適合証を故意に発行するなど、車検の虚偽申請によって営業停止になるケースが多発していた。
6位 最低賃金法: 100件 主な違反内容:給与の未払い、最低賃金額以上の給与を支払わなかったもの など
最低賃金法は、労働者に対して最低限の賃金を保証することで労働条件を改善し、労働者の生活を安定させることを目的としている。
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、企業は労働者に対し毎月最低賃金額以上の賃金を支払わなくてはならないと定めているが、最低賃金額に満たない給与を支払っていた企業が行政処分を受けていた。
また、給与の未払いが原因で行政処分を受けた企業の行政処分が多数発生していた。
7位 労働基準法: 84件 主な違反内容:違法な時間外・休日労働など
労働基準法は、労働者が人間らしい生活を送るために最低限必要な労働条件を定めたものだ。
同法では、法定労働時間を原則1日8時間・1週40時間以内と定めており、法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合には、労使協定(36協定)の締結が必要としている。
この36協定を結ばずに残業をさせた企業や、36協定で定めることができる時間外労働時間を超えて残業をさせた企業に行政処分がされていた。
また、その他にも残業代の割増賃金を払わなかった企業や、労働条件を適切に明示しなかった企業にも是正勧告が出されている。
8位 金融商品取引法: 75件 主な違反内容:無登録での金融商品取引の実施、インサイダー取引など
金融商品取引法は、企業の情報開示制度や金融商品取引業者に関するルールを整え、金融商品の発行や取引が公正に行われるようにすることで、資本市場を健全に発展させ、投資家を保護することを目的としている。
同法では、金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができないと定めているが、無登録で投資の勧誘やウェブサイト上に金融商品取引業を行う旨を表示したことで処分を受けている企業が多く見受けられた。
その他には、インサイダー取引や、有価証券報告書に虚偽の記載をした企業などで、課徴金納付命令が勧告されている。
9位 技能実習法: 56件 主な違反内容:認定計画に則らない技能実習の実施、外国人に不法就労活動をさせる など
技能実習法は、技能実習についての基本的な考え方や、国の責任を明確にし、技能実習計画の認定や監理団体の許可制度を設けるもの。
また、入管法や労働基準法、労働安全衛生法などの法律と連携して、技能実習が適切に行われ、技能実習生が保護されることを目指している。
これに基づいて技能実習を行わせる企業は、受け入れようとする技能実習生ごとに技能実習計画を作成し認定を受ける必要があるが、この認定計画に則らない技能実習を行った企業が行政処分を受けることが多く、適切な管理が求められている。
また、外国人の出入国や労働に関する法令に関し不正を行い不法就労活動させる悪質な例も見受けられるため、注意が必要だ。
10位 独占禁止法: 53件 主な違反内容:価格カルテル、入札談合など
独占禁止法は、一部の企業が市場を独占したり、不正な取引制限をしたり、不公正な方法で取引を行うことを禁止するものだ。企業が一部の分野で過度に力を持つことを防ぎ、公正で自由な競争を促進することを目的としている。
これに違反した行政処分の理由としては、公共事業の入札で企業が事前に入札価格や落札企業を決める談合行為や、複数の企業が話し合って商品の価格を決め、価格競争を避ける価格カルテルなどが多く見受けられた。
調査概要
調査期間:2023年9月1日~2024年8月31日
対象データ:インターネット上に公表された行政処分および行政指導のうち、主に中央の官庁や省庁が公表したものであり、処分の根拠となった法令が特定できたもの2,430件
関連情報
https://alarmbox.jp/
構成/Ara