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研究で明らかになったデートで観ると距離が縮まる映画のジャンルとは?

2024.11.10

ネットフリックスなどのストリーミング配信のかつてない普及と充実で映画は一人で観ることがますます増えてきたともいえるが、そうであるがゆえに映画館で映画を観ることは考えられている以上にソーシャルな体験であることが最新の研究から届けられている。映画を一緒に観る体験で他者との精神的結びつきが深まるのだ。

一緒に映画を鑑賞することで精神的結びつきが深まる

コメディやホラーやサスペンス、あるいはアクションやラブロマンスなどの優れた映画は観る者に笑いや恐怖、喜びや悲しみなどさまざまな感情を引き起こす。これは音楽ライブやスポーツイベントでもたらされる高揚感や感動とはまた違った複雑な感情的体験といえるだろう。

こうした複雑な感情的体験を一緒に共有することでも、人々は精神的な結びつきを強められるのだろうか。

仏・高等師範学校の研究チームが今年10月に「Royal Society Open Science」で発表した研究では、実験を通じて初対面の同性の人物と一緒に映像コンテンツを視聴することで、精神的結びつきが深まることを報告している。

18歳から35歳の健康なフランス人122名が参加した実験では、参加者は面識のない同性のペア61組にランダムに分けられて、ペアで3つのビデオ(映像作品)を鑑賞した。3つのビデオの中には強い感情を引き起こすものもあり、また鑑賞中にペアはお互いの姿が目視できることもあれば、カーテンで仕切られてお互いの姿が見えないこともあった。

鑑賞中には参加者の生理的反応(心拍数、呼吸数、皮膚伝導度)が測定され、鑑賞後にビデオについての印象や、一緒にいた人物に対する心証などを報告した。

収集されたデータを分析した結果、感情的なビデオは淡々としたマイルドなビデオよりも強い生理的反応を生み出し、さらにビデオを見ながらお互いの姿を見ることができたケースでは感情がより強く引き起こされたと評価する傾向がみられた。

そして感情がより強く引き起こされたビデオを視聴したことで、一緒にいた人物への精神的結びつきが強まったと報告する顕著な傾向がみられたのである。つまり感情を強く揺さぶられる映画を一緒に観ることで、初対面の人物であってもソーシャルな絆が生まれるのである。

またペアがお互いの姿を見ることができたかどうかは、映像作品に対する肯定的または否定的な感情には影響しなかった。つまり作品の評価と共有体験は別物であることになる。

研究チームは「たとえ見知らぬ人との短い交流であっても、他の人と一緒に激しい感情を経験することは、社会的関係の出現と社会的グループの形成に役割を果たすことを示唆しています」と今回の研究を結んでいる。

たとえば公共の場所や飲食店で放映されているテレビ番組などの印象的なシーンを共有することで、たまたま近くに居合わせた面識のない人物と感想を交わしたりすることがあったりもする。これも映像がきっかけで初対面であっても相手に親近感が高まったがゆえの現象なのだろう。映像の持つ力があらためて確認される研究である。

デートで観るに相応しい映画ジャンルは?

デートで映画館に行くというのは今も定番だとは思うのだが、今回の研究に基づけば同じ映画を同じ場所で隣り合って観る体験は精神的結びつきを深める意味できわめて有効なレジャーということになる。

しかし具体的かつ個別的なケースでは、たとえば初デートで映画館に行ったのだが、まだ知り合ったばかりの仲なのにずっと大人しく隣同士で座っていなければならない状況で緊張してしまったり、むしろ少し気まずい感じになってしまったという話を聞いたりもする。

また一説では映画は会話が封じられた2時間であることから、お互いをもっと知り合う必要のある時期のカップルにとってもったいない時間の過ごし方であるとの指摘もあるようだ。お互いに忙しい社会人であればなおのこと、2時間を暗がりの中で黙って過ごすのは無為無策であるかもしれない。

では映画館はデートに相応しくないのだろうか。今回の研究では、感情がより強く引き起こされる映像作品ほど、一緒に鑑賞した者との精神的結びつきが強まっていることが報告されているのだが、ということはより強い絆を築くには、より強く感情が惹起される映画を観ればよいことになる。

そこで注目されるのが観客の鼓動を高鳴らせ背筋を凍らせるホラー映画だ。

発達心理学者でホラー作家のサラ・コレ氏は米メディア「The Conversation」に寄稿した記事で「友人と暗闇の中で座って怖い映画を見たり、デートの相手とお化け屋敷の迷路を通り抜けたりすることは、社会的つながりを強化するのに役立ち、健康にも良いことです」と説明する。

コレ氏によれば、一緒に激しい恐怖体験を経験すると、個人間の絆が強まり、それはホラー映画鑑賞のような意図的に制御された恐怖体験でも同様の効果を作り出すという。

恐怖のストレスにさらされると、心理学者が「世話と友情(tend-and-befriend)」システムと呼ぶものが起動し、保護と安心のために社会的で感情的な絆を作りはじめるということだ。このシステムはいわゆる「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンによって主に制御されており、オキシトシンのレベルが上昇すると人はよりソーシャルになって利他的行動で人的交流を促進しようとするのである。

絆を深めたい人物と次に一緒に映画館に行く際は、文芸作品やラブロマンス、ドキュメンタリーやホームドラマのような淡々とした映画よりも、ホラー映画やスリラー映画を選んでみてもよさそうだ。

※研究論文
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.240048

※参考記事
https://www.theguardian.com/education/2024/oct/30/experiencing-intense-emotions-with-others-makes-people-feel-more-connected-study-finds
https://theconversation.com/some-people-love-to-scare-themselves-in-an-already-scary-world-heres-the-psychology-of-why-240292

文/仲田しんじ

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