経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)から、需要側施策によるエネルギー転換の加速化について解説したレポート「Turbocharging the Energy Transition by Boosting Customer Demand」が発表された。本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
世界の一次エネルギー消費は2015年以降、63エクサジュール増
パリ協定が採択された2015年以降、世界全体の一次エネルギー消費は63エクサジュール(※)増加した(図表1)。エネルギー供給側の取り組みによって、増加分のうち32エクサジュールは低炭素発電(水力・原子力)や再生可能エネルギー(風力・太陽光など)由来の消費となっている。一方、化石燃料由来の消費も計31エクサジュール増加した。
※エクサジュール(=EJ)はエネルギーの単位。1ジュール(J)の10の18乗を意味する。1EJは原油23.88メガトンに相当。
エネルギー転換を大幅に加速させるためには、化石燃料由来のエネルギーから低炭素エネルギーへの転換という供給側の施策(再エネ化、低エミッション化、ゼロエミッション化等)を推進することに加え、需要側である顧客企業や消費者に対し、環境に優しいだけでなく、経済的またはその他のメリットを訴求し、電化を働きかけることが重要だ。BCGが「自動車の普及」「ライドシェアの普及」など過去の需要側主導の製品・サービスの転換を分析したところ、需要側施策を行なった場合、供給側施策だけを行なった時よりも、転換が速いことがわかった。
「住宅・商業ビル」「輸送」「低~中温の熱を使用する製造業」で早期にインパクトをもたらす可能性
需要側施策によるエネルギー転換は、「住宅・商業ビル(データセンター含む)」「輸送」「低~中温の熱を使用する製造業」の3つの分野で早期にインパクトをもたらす可能性がある。
理由としては、脱炭素化に必要な技術がすでに商業的な規模で利用可能であること、政府の政策やインセンティブが整備されていることなどが挙げられる。これらのセクターは、世界のエネルギー需要の60%、温室効果ガス排出量の3分の1を占めている。
レポートでは、需要側施策によるエネルギー転換の加速化の事例として、インドにおける住宅用太陽光発電(図表2)、欧州・米国における電気自動車、欧州におけるヒートポンプを取り上げている。
これらの技術による2035年までの削減量は、2023年の世界のエネルギー関連排出量全体の4%に相当する計1.5ギガトン(CO2換算)にのぼる可能性がある(図表3)。
■コスト面の競争力と付加価値、パフォーマンスの高さが顧客を引き付ける
レポートではさらに、65件以上の革新的なエネルギー関連製品の調査にもとづき、サステナブルな製品・サービスを需要側(顧客企業・消費者)にとって魅力的なものにする4つの要素を特定している。
・優れた経済性:初期費用の安さや総所有コストの低さ、リセールを含む価値の保証など
・高い製品性能:現行の製品にはない機能がある、壊れにくい、アップデートが容易であるなど
・卓越したユーザー体験と利便性:設置にストレスがないことや、エンドツーエンドのサービス提供など
・ポジティブなブランドイメージとストーリー:専門用語を避けた分かりやすいコミュニケーションにより、サステナビリティと強くリンクしたブランドイメージを伝える必要がある
レポートの共著者でBCGロンドン・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、Ekaterina Sycheva氏は次のように述べている。
「顧客は、グリーンな製品やサービスを強く求めています。しかし同時に、その意欲を行動に移すための、サステナビリティだけではない魅力的な提案も欲しているのです。この需要を取り込むために、企業は、コスト面の競争力に優れ、高い付加価値があり、卓越したパフォーマンスを発揮する製品やサービスをつくり出す必要があります」(ボストン発、2024年9月3日)
関連情報
https://www.bcg.com/publications/2024/advancing-the-energy-transition-with-customer-demand
構成/清水眞希