日本中で外資系ホテルの開業ラッシュが続いている。そのラインナップは、富裕層向けのラグジュアリーホテルからビジネスホテルまで幅広い。ホテル業界の激変、その背景とは――?
外資系ホテルが日本各地に進出
マリオット・インターナショナルやIHGホテルズ&リゾーツ、アコーなどの外資系ホテルが、かつてないスピードで日本各地に進出している。外国人に人気の高い京都エリアでは、2024年以降だけで『シックスセンシズ 京都』『バンヤンツリー・東山 京都』『ヒルトン京都』とオープンラッシュが続き、さらに2025年以降も『カペラ京都』『コートヤード・バイ・マリオット京都駅』の開業が控えている。
外資系ホテル急増の理由を、ホテル・レストランの専門誌『月刊HOTERES』編集長で、『ホテルビジネス』などの著書を持つ林田研二さんはこう分析する。
「まず、背景にあるのは、インバウンド需要の拡大です。コロナ禍の終焉や円安の影響で、日本は過去最多の外国人旅行者数を記録しており、外資系ホテルにとってはビジネスチャンスとなっています。それを受け、国の政策として、2030年までに訪日外国人を6000万人に増やし、消費額を15兆円にするという目標を掲げています。そこで、富裕層誘致のため、間取りの広い客室を設ける場合はビルの容積率を緩和するなどの規制緩和も積極的に行なっています」
2億人が支える会員プログラムの存在
外資系ホテルが日本に進出する上で、よく採択されるのがMC(マネジメントコントラクト)方式。これは、不動産を所有する日本企業が運営会社にホテル運営を委託し、運営委託料を支払う手法だ。年間300泊以上ホテル泊を実践するホテル評論家の瀧澤信秋さんに、MC方式が増える理由を聞いた。
「MC方式なら、外資系ホテルは不動産リスクを取らずに事業展開しつつブランド拡大もでき、運営会社に運営委託料も入ります。一方、オーナー側はノウハウがなくてもホテルを手掛けられるメリットがある。さらに大きいのが、各ホテルチェーンの会員プログラムの存在です。2億人近い会員数を誇るチェーンもあります。外国人旅行者にとっても外資系の会員プログラムは魅力があり、会員数も多く、系列ホテルに宿泊する傾向が強い。すなわち日本でも外資系ホテルは外国人旅行者の予約流入が期待できることになります」
ラグジュアリーホテルが開業ラッシュ
東京では、2024年3月、森ビルが手掛ける麻布台ヒルズに『ジャヌ東京』が開業。アマングループが世界12か所で展開予定のジャヌプロジェクトの第一弾としてオープンした。都内ホテル最大級の約4000平方メートルのウェルネス&スパ施設を備える。
アッパーミドル市場と地方への進出もカギ
外資の開業ラッシュは、都心のみならず地方にも及んでいる。
「自治体からすれば、世界的な外資系ホテルが進出してくれれば、土地の名前を世界的に知らしめてくれるなど宣伝効果も期待でき、誘致に積極的です」(瀧澤さん)
さらに、興味深いのが、外資系ホテルチェーンがターゲットとするのは富裕層だけではない点だ。例えば、マリオットは2024年から日本10都市に、価格帯が手頃な宿泊特化型の『フォーポイント・エクスプレス・バイ・シェラトン』を新たに展開する。
「各外資系ホテルは、宿泊特化タイプへ参入することで、日本のビジネスホテル市場戦略も想定しているのでは」(瀧澤さん)
国内ホテルも負けてはいない。
「国内で先陣を切るのは、やはり星野リゾートです。新たにシティホテルブランドの『OMO(おも)』を展開するなど、より幅広い層の取り込みを行なっています」(林田さん)
競争が進むホテル業界。新たなキーワードとして、瀧澤さんが挙げるのが「ウェルネス」だ。
「世界的な健康志向の高まりを受け、ジムやプール、スパを設置したり、オーガニックな食事やアメニティにフィーチャーするホテルが増えています」
〝宿泊〟以外の価値が、今後のホテルには求められていきそうだ。
ハイアットは高級旅館を開業予定
ハイアット初の高級温泉ブランド『吾汝 ATONA』は、由布、屋久島、箱根の3地域で開業後、日本全国へ展開予定。
取材・文/藤村はるな