毎年10月に改定される最低賃金だが2024年の全国加重平均は、2023年より51円高い1055円となった。
衆議院選挙でも各政党が2020年代に最低賃金を1500円に引き上げることを公約
目標としていた全国加重平均1000円を2023年に達成した政府は、次なる目標として2030年代半ばまでに1500円を目指すことを「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針2024)で示している。
また、2024年10月27日に行なわれた衆議院選挙では、各政党が2020年代に1500円に引き上げることを選挙公約として掲げた。しかし、継続的な賃金の引き上げは、労働者の収入増加による消費の活性化などが期待される一方で、企業側からみると人件費上昇による収益の悪化などが懸念されている。
そこで、帝国データバンクは、最低賃金改定に対する企業の見解について、全国の企業に調査を実施。結果をグラフと図表にまとめて発表した。本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
なお本調査は、TDB景気動向調査2024年9月調査とともに行なわれた。調査期間は2024年9月13日~30日、調査対象は全国2万7093社で、有効回答企業数は1万1188社(回答率41.3%)。
■従業員採用時の最も低い時給は平均1167円、最低賃金時間額を112円上回る
正社員、非正規社員を問わず、従業員を採用するときの最も低い時給を聞いたところ、全体平均は1167円となり、改定後の最低賃金の全国加重平均1055円を112円上回った。
業界別では、『金融』『不動産』がともに1261円でトップとなった。以下、『建設』(1249円)、『サービス』(1208円)、『卸売』(1175円)が続き、5業界で全体平均を上回った。
特に、『サービス』を詳細にみると、「情報サービス」(1374円)や経営コンサルタントなどを含む「専門サービス」(1313円)で1300円を超え、相対的に高い水準だった。
他方、同じ業界でも「旅館・ホテル」(1037円)や「飲食店」(1051円)は2024年の最低賃金1055円を下回る水準にとどまり、業界間だけでなく、同じ業界内でも差が大きいことがわかった。
■都道府県別では「東京都」が1340円で唯一1300円超、地域間での格差が顕著に
正社員、非正規社員を問わず、採用時の最低時給を都道府県別で比較すると、最も高かったのは「東京」の1340円で、全国で唯一1300円を超えた。
以下、「神奈川」(1277円)、「大阪」(1269円)、「愛知」(1208円)、「埼玉」(1205円)と続き、「千葉」(1202円)の5府県で1200円台となった。とりわけ、「東京」においては、改定された最低賃金と採用時の平均時給の差額が+177円と最大だった。
一方で、「青森」(984円)、「秋田」(990円)、「鹿児島」(991円)の3県は最低時給の平均が1000円を下回った。特に、「青森」は改定された最低賃金と採用時の平均時給の差額が最小で、その差額は+31円だった。
なお、「秋田」「鹿児島」も+30円台後半の差額となっており、地方において差額が小さくなる傾向が表れた。
都道府県別の最低時給は、地域間の格差が顕著に表れるとともに、2024年度の最低賃金時間額と採用時の最低時給との間に乖離がみられた。
調査結果まとめ
本調査の結果、従業員を採用するときの最低時給の全体平均は1167円で、2024年改定後の最低賃金の全体平均1055円を112円上回った。
最低賃金での募集では継続的な従業員の確保が難しいため、最低賃金を上回る金額に引き上げざるを得ない企業が多いと考えられる。
また業界間で格差が表れるだけでなく、同じ業界内においても差異がみられた。また、物価の違いなどにより、地域間での格差が顕著に表れ、2024年度の最低賃金時間額と採用時の最低時給との間に乖離が生じていることが確認できた。
物価上昇が続くなかで「従業員の給料を上げることで消費を促す必要がある」といった声がある一方、「130万円の壁を超えないようにするため、労働時間を意図的に抑える従業員が増え、人手不足が加速する」という声も多数寄せられている。
政府は、最低賃金の引き上げを続けるだけではなく、人手不足や価格転嫁への対応、社会保障制度の改定など、企業の経営状況がひっ迫しないよう政策を打ち出していく必要があるだろう。
関連情報
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241023_minimumwage/
構成/清水眞希