カプコンの2025年3月期上半期の売上高は2割を超える減収で折り返しました。これは昨年6月にリリースし、累計販売本数が400万本を突破したヒット作「ストリートファイター6」の反動に見舞われているためで悪いことではありませんが、売上高は期初に掲げていた計画も下回る結果となっています。
しかし、カプコンは通期計画の変更はしていません。2025年2月に発売予定の大型タイトル「モンスターハンターワイルズ」ヒットを見据えてのことでしょう。
高評価でも大ヒットとはならない完全新作の難しさ
2025年3月期上半期の売上高は前年同期間比24.7%減の564億円、営業利益は同38.7%減の207億円でした。
カプコンは今期に入って「祇(くにつがみ):Path of the Goddess」をリリースしています。本作は完全新作の意欲作で、パッケージ販売はしないという異例の販売手法がとられました。プレイヤー数は50万人を突破したものの、収益貢献は限定的でした。
カプコンは上半期の売上高を570億円と予想していましたが、564億円でわずかに届かない結果に。要因の一つとして、「祇(くにつがみ):Path of the Goddess」が想定よりも伸びなかったことがあるでしょう。
「祇(くにつがみ):Path of the Goddess」のメタスコアは80。主力ゲームの一つである「モンスターハンターライズ」のPlayStation5版が87であることを考えても、決して悪い数字ではありません。
独特の和の世界観も手伝って没入感の高いゲームですが、大ヒットには結びつきませんでした。ここに新作開発の難しさが滲み出ています。
しかし、2025年3月期通期の売上高は前期比8.3%増の1650億円、営業利益は同12.1%増の640億円を予想。1割程度の増収営業増益を見込んでいるのです。下期で1000億円を超える売上高を叩き出し、巻き返しを図ります。
※決算短信より筆者作成
その中核にあるゲームこそ、世界中のファンが待ち望む新作「モンスターハンターワイルズ」です。
累計販売本数が1億円を突破するタイトルを2つ保有するカプコン
モンスターハンターシリーズは、累計販売本数が1億300万本を超えるお化けタイトル。カプコンは爆発的なヒットに期待できるシリーズを2つ持っています。モンハンはその一翼を担っており、もう一つが「バイオハザード」です。こちらの累計販売本数は1億6000万本を突破しています。
成長戦略においては、2作のような主力タイトルに経営資源を集中し、高収益リピート策として息長く収益貢献する体制を整えるとしています。カプコンは毎期営業増益10%増という高い目標を掲げており、9期連続でそれを達成。今期で10期目。節目の年となるだけに、今期の達成は外せないでしょう。
全体戦略として投資をすべきタイトルを絞り込み、その周辺で新規IPの創出や「ストリートファイター」「ドラゴンズドグマ」などの過去作品の続編の開発を進めています。
2桁増益を連続で達成しているのは、メリハリを利かせた戦略をとっていることも背景にあるでしょう。
カプコンは昨年4月に日本最大級の広さを持つモーションキャプチャー設備を備えた「クリエイティブスタジオ」を新設していました。高性能カメラ150台を設置し、10人同時収録やフルパフォーマンス撮影を行えるというもの。モンスターハンターの新作にもその技術が活かされているとすれば、期待感は一層高まります。
マーケティング強化でファンの裾野を広げる
「モンスターハンターワイルズ」は、ヨーロッパ最大のゲームの展示会であるgamescom 2024の「gamescom award 2024」において、最多受賞の4冠を達成。受賞した一つの「Best Sony PlayStation Game」においては、発売から24時間で300万本を販売したバンダイナムコエンターテインメントの「ドラゴンボール Sparking! ZERO」もノミネートされていました。しかし、モンハンの新作が押しのけて受賞しています。
©CAPCOM ※画面は開発中のものです。
「モンスターハンターワイルズ」の特徴の一つが、サポートハンターの導入。これはモンスターと戦う中で救難信号を出すと、助っ人が駆けつけてくれるというもの。
モンスターハンターは、オンラインで他のプレイヤーと一緒にクエストを楽しむことが醍醐味の一つ。一方で、一人で気兼ねなく楽しみたいというニーズもありました。サポートハンターはその声に応えるべく、「モンスターハンターライズ:サンブレイク」で導入した“盟勇”に近いシステムを導入し、更に使い勝手をよくしたものになるようです。
「モンスターハンター:ワールド」は2018年1月に発売されたタイトルですが、2025年3月期上半期に170万本を販売し、カプコンの全タイトルの中でトップに立ちました。拡張パックである「モンスターハンターワールド:アイスボーン」も140万本を売っています。足元でモンハンワールドブームが起こっているのです。
これはカプコンが意図的に仕掛けた部分が大きいでしょう。2024年6月の「CAPCOM JUNE SALE」にて「モンスターハンター:ワールド」を67%オフの986円で販売するキャンペーンを実施したのです。7月にも「モンスターハンターワールド:アイスボーン」を25%オフで販売するセールを行いました。
新作発表前にファンを取り込もうとマーケティングを強化しているのは明らか。それがファン同士のコミュニケーションの活発化に繋がり、新作への期待感にも繋がっています。
カプコンの下半期には大注目でしょう。
文/不破聡