今年8月、全国の中高生が対象の探究コンテスト「自由すぎる研究EXPO2024」(主催:トモノカイ)の最終結果が発表された。
全国から3857件もの応募作品がある中、香川県の高松第一高等学校に所属する二人の女子高生が考えたフードデリバリーアプリが金賞(DIME賞)を受賞した。
「どんな人でも使いやすく、気軽に食事を楽しむことができる」をコンセプトに考えられた本研究は、DIME編集部も驚かせる〝ビジネスプラン〟でもあった。
一体、なぜ、これほどまでの研究が誕生したのだろうか。
受賞者の高松第一高等学校の西田彩乃さん、木村心愛さんの二人に話を聞いた。
西田彩乃さん(左)と木村心愛さん(右)。二人とも高松第一高等学校に通う3年生
金賞(DIME賞)『「どんな人でも使いやすく、気軽に食事を楽しむことができる」フードデリバリーアプリの研究』とは?
タイトル:「どんな人でも使いやすく、気軽に食事を楽しむことができる」フードデリバリーアプリの研究
概要:視覚障害者の方もストレスなく利用できるフードデリバリーアプリ『EAIT』(読み:イート)及び『EAIT』に導入する生成AIがユーザーの気分に合わせて食事の候補を提案してくれるシステム『EAIT SELECT』や視覚障害者専用容器『コネクト』の考案。そして市場分析や『EAIT』の収支計画まで考えられた複合的なビジネスプラン研究
審査員コメント:視覚障害者でも気軽に使えるフードデリバリーという視点も素晴らしいですが、きちんとビジネスとして成立させていくための具体的な事業計画まで考えていることも選出の大きなポイントとなりました。インクルージョンという言葉もよく聞くようになりましたが、誰ひとり取り残さずに社会をどうアップデートしていくかは、これから大きなテーマになっていくと思います。ぜひ実現目指して頑張ってください。
本研究の詳細はコチラから
https://app.box.com/s/bq8x43vbgg0uauu7ikmfwx9bv0gbr2ue
「ビジネスモデルまで発展できるテーマ選び」が一番の苦労
――金賞(DIME賞)の受賞、おめでとうございます。お二人の研究については、審査員でもあるDIME編集長も「これほど見事なビジネスプランを考えられているのは本研究だけであり、大変素晴らしい」と絶賛しております。
二人:ありがとうございます!
――それでは、まず本研究が誕生したきっかけを教えてください。
西田さん:学校で視覚障害者について勉強する機会があったんですけど、困っていることや課題については教えてもらったのですが、どうすればその課題を解決できるのか、どのような取り組みがあるのかというところまでは学べなかったんです。それで個人的に調べてみようと思ったのがきっかけです。
木村さん:視覚障害者の方たちの課題の中に、ご飯を食べるのが難しいという話があったんです。直接、お話を伺いに行ったりして、当事者の声を集めてみると、料理をするのはもちろん、外食や今回の研究でフォーカスをしたフードデリバリーサービスにも課題があるんだなというのが段々と分かってきて、テーマが決定しました。
――お二人の『EAIT』は昨年の政策金融公庫が主催する「高校生ビジネスプラン・グランプリ」の100選に選ばれていたかと思います。一年以上も同じテーマで研究する中で一番大変だったのはどのようなポイントですか?
木村さん:一番最初のテーマ選びが一番大変でした!(笑)
西田さん:ね(笑)。やりたいことが多すぎて全然決められなかったよね。
木村さん:どんどん迷宮入りしていったよね(笑)。
――ということは『EAIT』以外にもテーマの候補があったんですか?
西田さん:はい。例えば、私たちの高校で自転車通学でヘルメットを被ろうという運動があった時に、「なぜヘルメットを被らないのか」を課題にして、「折りたたみ髪型が崩れないヘルメット」が面白いんじゃないかって二人で話してたんですけど……。
木村さん:予算とか収益性を考えると、ね。
西田さん:そうそう!ユーザーが少なすぎてビジネスモデルまで持っていけなかったネタはたくさんありました。
――なるほど。「高校生ビジネスプラン・グランプリ」の経験からビジネスまで一本化してテーマを考えていたんですね。アイデアをビジネスモデルにまで転化して研究を発展させていたのは唯一無二の魅力があり、本当に面白い研究内容だと感じます。
誰でも使える機能を考えることで、ビジネスとして成立させた
――いまトレンドの生成AIを取り入れた『EAIT SELECT』のシステムも面白いですよね。しかし、これは対話型AIというより少し前に流行った……。
木村さん:そうです。『アキネイター』です(笑)。
『EAIT SELECT』のイメージ。臨床心理士を目指す木村さんが当事者にヒアリングをして課題を見つけたことで生まれた
――なぜ『EAIT SELECT』の機能を考えたのですか?
木村さん:視覚障害者の方たちがフードデリバリーサービスを使う時の課題として、メニューを音声で録音をして一つずつ聞いて注文をしないといけないそうなんです。
西田さん:そこにAIと組み合わせれば、自分が考えているメニューを選んでくれる仕組みを構築できるんじゃないかなと考えたのが『EAIT SELECT』だったんです。
木村さん:でも私たちも生成AIはChat-GPTを宿題とか少し使うぐらいだったから生成AIについて詳しく発展させていくことができなかったんです。
西田さん:それで『アキネイター』にした方が簡単にこのシステムを実現出来ると思って、「Yes/No」で質問に答えていくモデルになりました。どれくらいの質問項目があればメニューの提案にまでたどり着けるのか検証はしていないのですが、多すぎると面倒くさくなっちゃうから「お肉の気分ですか」みたいな質問を5問くらいでできたらいいなって思ってます。
木村さん:提案してくれるメニューも一つだけだったら、ユーザーに選択の余地がなくなっちゃうので、5問くらいの質問で最終的に3~5のメニューを提案する仕組みをイメージしています。
それにこうした機能があることは視覚障害者だけじゃなく、健常者の方たちも嬉しい機能なんじゃないかなって思いました。だから『EAIT』は、視覚障害者の方たちに向けて考え始めたサービスなんですが、ターゲットは「どんな人でも」になっていて、そのおかげで収支計画なんかも何とかなった感じです。
プロダクトデザイナーを目指す西田さんは視覚障害者の方でも使いやすいフードデリバリーサービス用の容器『コネクト』のデザインを考えたりもした
偶然から始まった自由研究で大きな学びを得た二人
――改めて、今回の研究を振り返ってみてどうですか?
木村さん:事業の収益プランに関してはどんぶり勘定だったな~って(笑)。もっと改善の余地があると思います。
西田さん:最近、友達がフードデリバリーサービスを使っているのを横から見てたんですけど、選択肢が多すぎて選べない!って思ったので、『EAT SELECT』の機能だけでも、Uber Eatsや出前館に導入されたら良いなって思います。
――お二人は将来、起業家を目指しているんですか?
西田さん:いえ、全然そんなことはないです。私はプロダクトデザイナーを目指しているんですけど、今回の研究を通してAIをプロダクトに導入した製品の研究・開発に携わりたいなって思うようになりました。
木村さん:私は大学では臨床心理を勉強したいなって考えています。特に、こころの病気や精神疾患について興味があるので、大学では研究者の道も視野に入れています。
――お二人の研究は起業家顔負けのビジネスモデルだったので意外です。ところで、「自由すぎる研究EXPO2024」の他の応募者の作品はいかがでしたか?
西田さん:岡山の高校生の方が考えていた『なっとうを片手で食べたい~自助具のデザインと開発~』は、プロダクトデザイナーを目指す私としては完全に負けたな~って思いました。ちょっと悔しいです。
木村さん:しかも一人で考えていて、製品自体もコンパクトにまとめていたのがすごかったよね。
――では最後に、今回の研究を通して得た学びなどがあれば教えてください。
木村さん:今回の受賞のきっかけになった「高校生ビジネスプラン・グランプリ」に私たちが応募したのは学校にあったチラシを見たからなんです。誰かに勧められたわけでもなく、本当に偶然、一枚のチラシをきっかけに始まりました。
二人だけで研究を進めていくのはめちゃくちゃ楽しかったし、めちゃくちゃ難しかったです。本当に色々な学びがあって、貴重な体験ができたと思うので、私たちみたいな‶偶然〟じゃなく、学校教育の仕組みの中で‶必然〟的にみんな経験できる仕組みがあればなって思いました。
西田さん:それも自主的にできるような仕組みだったらいいよね。
「自由すぎる研究EXPO2024」は、応募者がみんな自分たちが面白いと思うテーマを、自分で考えて応募しています。どの応募作品も熱意やこだわりがあって、見ているだけでも楽しかったですし、刺激になりました。私たちももっと頑張らないとな~って思います(笑)。
――いえ、私から見るとお二人の研究は、私たち大人にとっても新しい発見がたくさんあり、とても刺激になりました。改めて、今回は金賞(DIME賞)受賞、おめでとうございました。
取材・文/峯亮佑