米大統領選でまた、フェイク動画が話題になっている。AIを使って誰もが簡単に写真や映像を生成できる時代に、どうやってホンモノを見分ければいいのか。5年前からその難題に取り組んでいる団体が、「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」だ。アドビなどが中心となって2019年に発足したCAIには現在、SNSの運営会社、生成AIを提供する企業、報道機関、大手テック企業、カメラメーカーなど、3700を超えるメンバーが参加する。
コンテンツに権利者や編集履歴などの情報を埋め込む
CAIが取り組むのは、そのコンテンツが誰のもので、どのように編集されたのか、コンテンツの来歴や信ぴょう性をわかるようにするしくみの社会実装だ。どうやってわかるようにするのか、その技術開発や規格づくりには、標準化団体の「Coalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)」が取り組んでいて、こちらのメンバーには、アドビのほかグーグル、TikTok、OpenAI、Meta、LinkedIn、アマゾン、ソニーなども名を連ねている。
コンテンツに権利者や編集履歴などの情報を埋め込むことができる、コンテンツクレデンシャル機能は、すでにカメラなどにも搭載され始めている。たとえばニコンは、フルサイズミラーレスカメラ「ニコン Z6III」向けに、C2PA規格に対応したコンテンツクレデンシャル機能を追加するファームウェアを開発中だ。10月14日~16日に米国・マイアミビーチで開催されたクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2024」には、ファームウェアが実装された「Z6III」も参考展示されていた。設定で機能をオンにすると、撮影した写真に誰がいつ撮影したものか、権利者の情報が記録される。
コンテンツクレデンシャル機能を追加できるファームウェアを実装するニコンの「Z6III」
既存のデジタル作品に、クリエイターが自らコンテンツクレデンシャル情報を添付できるサービス「Adobe Content Authenticity」も発表されている。添付するコンテンツクレデンシャル情報には、自分のコンテンツを生成AIのトレーニングに使用されたくないという意思表示もできるようになっている。
コンテンツクレデンシャル情報には、SNSのアカウントを紐づけられるほか、生成AIのトレーニングに使用されたくないという意思表示ができる
誰もが安心してホンモノを確認できる未来へ
アドビでCAIの活動をリードするシニアディレクターのアンディ・パーソンズ氏によれば、「Adobe Content Authenticity」は、PhotoshopやLightroom、Premiere Proといった同社のアプリケーションのユーザーでなくても利用可能。添付されたコンテンツクレデンシャル情報は、デジタルフィンガープリント、不可視の電子透かし、暗号化署名されたメタデータを組み合わせた技術によって、たとえばスクリーンショットやカメラによって複写された場合にも、ちゃんと情報が紐づけられ、確認できるしくみになっているという。
コンテンツクレデンシャル情報が添付された写真などのコンテンツを、InstagramなどのSNSにアップすると、そのことがわかるアイコンが表示される
「Adobe MAX 2024」のSneaks(開発中の技術を紹介するイベント)では、コンテンツクレデンシャル情報が添付された写真や動画で、将来どのように来歴を確認できるようになるのかを示す「Project Know How」も紹介された。切り抜きされた動画から元の動画を見つけ出せるだけでなく、動画が改編されていた場合も比較して違いがハイライトされるので、気づくことができるというもの。またデジタルコンテンツがポスターやマグカップ、エコバッグなどプリントされていて、物理的な作品になっていても、それをカメラで撮影すればデジタルデータ同様に、来歴情報を確認できる。
「Project Know How」で紹介された技術。元動画を見つけ出して、簡単に比較。改編された箇所を見つけることができる
物理的な作品になっていてもそれもカメラに映すことで、コンテンツに関する情報を確認できる
パーソンズ氏によれば、C2PAは年末か来年初めにはISO(国際標準化機構)に標準規格として採用される予定とのこと。「Adobe Content Authenticity」も、同時期に無料の公開β版として提供される計画になっている。もっともたくさんの写真や動画が撮影されているスマートフォンへの実装など、まだまだ乗り越えるべきハードルはあるものの、誰もが安心してホンモノを確認できる未来へ、着実に近づいている。
取材協力/アドビ
取材・文/太田百合子