2020年、新型コロナウイルスの影響で初めてのオンライン開催となった東京ゲームショウ。2021年には関係者向けに一部リアル開催がされたものの一般客は2020年に続き、オンラインでの参加となった。そこで用意されたのが「東京ゲームショウVR会場」だった。
VR会場はリアル会場に行くことのできない多くのユーザーに支持され、その後、終息を見せないコロナ禍の中、東京ゲームショウはVR会場を継続した。ポストコロナ禍にあたる今年はVR会場から「東京ゲームショウデジタルワールド」に名前を変えた。
この背景には、ユーザーのバーチャル空間への認識や楽しみ方が変化していることが要因の一つに挙げられる。メタバースやVRなど言葉を変えながら進化する3D空間の可能性について、2021年から毎年「メタバースに関する意識調査」を実施する電通のメディア・コンテンツ・トランスフォーメーション室イマーシブメディア開発部の名切さんと、出資先と共に「東京ゲームショウデジタルワールド」にも関わる電通イノベーションイニシアティブR&D推進チームの小田さんに話を伺った。
名切元晴さん
株式会社電通 メディア・コンテンツ・トランスフォーメーション室(MCx室)
イマーシブメディア開発部 UXプランナー/プロデューサー
電通入社後、複数企業のマーケティング支援をする中でデジタル領域の開発プロジェクトを多く経験。コンシューマー向けのサービスを展開する子会社に立ち上げ時から参画し、開発責任者としてサービス運営をした経験を持つ。2023年よりイマーシブメディア領域でのマーケティング支援を行う。
小田岳史さん
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブR&D推進チーム
シニア・マネージャー
電通入社後、グループ内のR&Dユニット・電通イノベーションイニシアティブ(DII)、CVC・電通ベンチャーズに所属。主にエンターテインメント/メディア・コンテンツ/XR/ゲームなどの領域で、新領域投資及び投資先支援、電通グループ各社と連携した事業開発をリード。
リアルの代替としてはじまった東京ゲームショウVR会場
――東京ゲームショウではバーチャル空間を使った取り組み「東京ゲームショウ VR会場」があります。どのようなものでしょうか。
小田:東京ゲームショウのVR会場は2021年にコロナ禍で幕張メッセでの開催ができなかったことをきっかけに始まりました。当初からリアル会場と同じことをするのではなく、バーチャル空間ならではの楽しみ方をユーザーに提供してきたのですが、特に2021年は東京ゲームショウのオフライン開催ができない中で、オフラインの代わりの場所を目指す目的が大きかったと認識しています。
――バーチャル空間ならではの楽しみ方とはどのようなものだったのですか。
小田:当時も幕張会場と同じ体験を提供するか、バーチャルならではの体験を提供するかという議論はありましたが後者を選びました。体験全体にRPGのようなゲーム性を持たせることに加え、ゲームで使われている3Dモデルを用いた間近での体験や演出を提供するところからスタートしています。
@CESA
――その後も、VR会場は2022年、2023年と開催され、今年2024年には「東京ゲームショウデジタルワールド」と名前を変えながらも継続して行われています。この4年で、どのような変化がありましたか。
小田:バーチャル空間ならではの楽しみ方を幕張のリアル会場に来られないユーザーに提供したいという本質的な目的は変わっていません。ただ、2021年はゲーム企業だけの出展でしたが、2024年にはゲーム会社以外の企業の数も増え、参画企業の数も2倍近くなっています。
一方で、ポストコロナでは来場者数の伸びも一服しています。
――だからといってバーチャル空間の価値がなくなったとは思いません。バーチャル空間が‶リアルの代わり〟からバーチャルならではの価値がより求められるようになったという転換点ということですよね。
小田:そうですね。企業や団体がリアルの代替としてバーチャル上でイベントを行なうフェーズは一巡したかなと感じています。コロナも一服してオフラインの体験が盛り返しを見せている現在、単純にリアルの代わりにバーチャル空間でイベントを行うだけではユーザーにとっての価値にはなりません。
バーチャル空間ならではの価値がよりクリアに求められてくる時代になってきているのではないでしょうか。
今年、出展した各企業様もユーザーにバーチャルならではの楽しみを提供しようとしていました。個々の事例は様々ですが、その結果、来場者の平均滞在時間は昨年よりも30分ほど増加し、より深いエンゲージメントを得られています。
これはつまり、バーチャルならではの体験を追求することで、これまで以上の満足度を感じてもらえることを意味しています。
@CESA
これからのバーチャル空間には何が求められるのか?そのヒントとなる「イマーシブメディアに関する調査」
――こうしたメタバース空間のユーザーの楽しみ方や現状について調査していたのが「メタバースに関する意識調査」でしたが、今年からは「イマーシブメディアに関する調査」として名前を変えています。まず、なぜ名前が変わったのか教えてください。
名切:メタバースという言葉は2020年頃から広がりはじめ、急速に人々の認知度が拡大してきた言葉です。しかしながら、過熱しすぎたことも否定できず、一種のバズワードのように認識されてしまいました。市場は拡大し続けているのに、一時のブームにもなってしまたため、ポストコロナ禍以降、メタバースという言葉はオワコンと見られてしまうこともあります。
それに合わせて、人々のバーチャル空間への期待や楽しみ方に変化もしてきています。メタバースに対し現実世界から離れてバーチャル空間に没頭し、生活や恋愛をしているイメージを抱く方もいますが、実際には現実世界の余暇時間に3Dゲーム内で他者との交流を楽しむなど、ユーザーにとってはメタバースという認識もなく利用している方も多いです。
こうした現状を踏まえ、メタバースという言葉を使い続けるのではなく、「イマーシブ」という概念で再定義するに至りました。
――さらに言うと、今回の調査は「イマーシブに関する調査」ではなく「イマーシブメディアに関する調査」となっています。電通はバーチャル空間をメディアと捉えているのでしょうか。
名切:バーチャル空間がメディアとしての価値を持ち始めていると認識しています。SNS然り動画投稿サイト然り、人が集まればメディアとしての役割が機能します。
イマーシブメディア調査でも、10代のバーチャル空間を提供する主なプラットフォームの認知度(主な8サービスのうち、いずれか1つでも知っている割合)は89.8%と、SNSの認知度(主な7サービスのうち、いずれか1つでも知っている割合)の94.8%に肉薄しています。
※電通「イマーシブメディアに関する調査 2024」より
他にも、今回の調査ではイマーシブメディアの平均利用時間にも注目したいところです。イマーシブメディアとSNSそれぞれ、「あなたが直近1ヶ月以内に利用した代表的なイマーシブメディアのサービス、SNS についてお聞きします。あなたがそのサービス、SNS を利用する場合の利用時間は 1 日あたりどれくらいですか」という問いに対する回答結果では、SNSよりイマーシブメディアの方が1サービスあたりの1日の平均利用時間が長かったんです。
※電通「イマーシブメディアに関する調査 2024」より
――現在、企業やブランドはイマーシブメディアをどのように活用してるのでしょうか?
名切:やはり利用者が増えてくるにしたがって、企業の参入が増えてきました。自社ブランドの3D空間を作ることはもちろんですが、単に屋外広告を置いたような空間ではユーザーの楽しみには繋がりません。例えばアパレル系のブランドであれば、自社ブランド商品をイメージしたスキンを利用できるようにして、アクションやスポーツといったゲームを提供するというような事例はあります。あくまでメインはエンタメであり、ブランドの世界観や商品のPRはそこに付随するものという立ち位置です。ユーザーに楽しんでもらえるコンテンツというのは最も重要なポイントだと思います。
――東京ゲームショウの話と同じく、ただ空間を提供するのではなく、バーチャル空間ならではの楽しみを提供することがユーザーに求められているということですね。
名切:はい。いま、イマーシブメディアは各プラットフォームでクリエイターの数がどんどん増えてきています。よりクオリティの高いバーチャル空間が提供されるようになってきているので、ユーザーの期待値もどんどん上がってきています。
ユーザーのイマーシブメディアの楽しみ方の変化に合わせることも含めて、企業がより効果の高いイマーシブメディアの活用ができるよう、企業、ブランド、クリエイターたちを繋げること、そしてそれをユーザーに届けることが、今後の私たちのミッションですね。
※「イマーシブメディアに関する調査2024」に関するリリース:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/1031-010795.html
電通のイマーシブメディアにおけるさまざまな取り組み
・アジア最大級のメタバースアプリ「ZEPETO」に関する代理店契約
※電通ニュースリリース:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0226-010686.html
・テレビ番組連動型のメタバースイベント”メタメタ大作戦”を開催
※電通ニュースリリース:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0531-010731.html
取材・文/峯亮佑 撮影/木村圭司