有名な天文学・物理学者、ガリレオ・ガリレイが残した言葉のひとつに「自然は数学の言葉を使って書かれている」というものがある。数や図形、言語は、古くから社会生活を営む基盤とされてきたが、多くのものが数値化される現代において、データを的確に把握する、数量感覚の重要性はさらに増している。これを裏付ける事実のひとつとして、実は今、中学受験を検討する教育熱心な保護者たちの間で〝暗算〟がトレンドになっている。ここ最近、2ケタ同士のかけ算を取り扱う暗算ドリルが続々と登場しているのだ。
広く言われるように、算数や数学は、問題を自ら考え、自らの力で解いたときの楽しさ・喜びを味わうのに最適な教科のひとつだ。計算問題はその最たる例で、幼少期に暗算で速く正確に計算できれば、それが成功体験になり、算数・数学を好きになるきっかけになる。つまり、暗算を繰り返すこと自体が、複雑な情報を頭の中でスムーズに処理する、数量感覚的な経験値を高めることに繋がるのだ。そして、数ある暗算ドリルのなかで大きな話題を呼んでいるのが、小学生向けの暗算ドリル『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』である。
子どもの〝好き〟を応援したい中学受験を目指す小学生の親
今年3月、大手中学受験塾・日能研の池袋校にて『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』の著者・岩波邦明医師による特別授業が開催された。特別授業に参加したのは、新小学4年生、新小学5年生を中心にした男女54名。『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』で実際に問題に挑戦する形式で、2ケタ同士のかけ算全8100パターンに対応する岩波医師が考案した暗算メソッド「あゆみ算」に挑戦してもらった。
特別授業の参加者をみると「算数が好き」「算数が得意」と答えた子どもが多かったのだが、保護者はどんな思いで子どもを参加させることを決めたのだろうか。当日実施したアンケートによると、参加理由の項目で目立ったのは「子ども本人が暗算に興味を持っていたから」「計算のケアレスミスが少なくなってくれれば」という回答だった。
他方で、「自分(保護者)自身が教科書通りの計算方法しかやってこなかった。いろいろな考え方があることを子どもたちに知ってほしい」「計算のおもしろさに触れて、算数は楽しいと思ってほしい」という答えも印象的だった。中学受験に限らず、受験生にとって算数や数学が鬼門であることは、昔から変わらない。そして残念なことに、幼い時に芽生えてしまった数に対する苦手意識は、大人になってからもつきまとう。
これについて岩波医師は、算数オリンピック、数学オリンピックへの出場経験のある自身の過去をふり返り、「〝難しい〞よりも先に〝楽しい〞という体験ができたことが、算数や数学に夢中になるきっかけになりました」と語る。そして何を隠そう、この「あゆみ算」は〝(大人でも難しい)2ケタ同士のかけ算が暗算で解けた! という魔法のような体験〟を通して、算数・数学嫌いな子どもたちの助けになりたい、という思いが開発の原動力になっているという。
岩波邦明さん。医師・現役スタンフォード生。1987年生まれ。東京大学医学部卒。在学中に暗算法「岩波メソッド ゴースト暗算」を、2023年に新たな暗算メソッド「あゆみ算」をそれぞれ開発。著書は66万部を超えるベストセラーに。
参加した子どもの100%が〝「あゆみ算」をマスターしたい〟と回答
特別授業を終えた参加者たちの感想は上のグラフのとおり。参加者の4割が〝難しかった・かなり難しかった〟と回答する中で、参加者全員に「マスターしたい」と言わしめるに至った感動の瞬間は、46×34の計算をひっ算で解き直した検証のタイミングで訪れた。
岩波医師曰く、「あゆみ算」は自身がスタンフォード大学院コースでAIを学ぶ中で触れたアルゴリズムの仕組みからヒントを得た暗算メソッドだ。答えの1ケタと10のケタを導き出したら、それまでの過程を一旦忘れ、次のケタを導き出す計算に取り掛かる。頭の中に浮かべる数字の数を常に4つ以下に留めることで、脳へかかる負荷を減らし、かつ最小ステップで2ケタ同士のかけ算の答えを暗算で導き出せるようにしているのだ。
詳しい計算方法は『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』に譲るとして、計算の解き直し後に飛び交った「どうして解けるの?」「計算のメカニズムが知りたい!」という歓声は、ひっ算と違ったやり方でより速く正確に答えが導き出せる「あゆみ算」との出会いが〝魔法のような体験〟であった何よりの証と言える。
「VUCA」というビジネス用語がある。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を指す英単語の頭文字をとった造語で、AIなどの社会実装によってビジネス環境が大きく変化していることを示す。この予測困難な社会の到来を見据えて2020年3月、文部科学省は学習指導要領「生きる力」を公示。これを機に、中学受験算数の難化が囁かれるようになった。
中学受験は、受験者数が増加傾向にあるなど、競争激化の渦中にあるもののひとつだ。そして高まる受験熱は、新たなトレンドを生んだ。2ケタ同士のかけ算で使える、暗算ドリルが続々登場しているのだ。そんな数ある暗算ドリルのなかで大きな話題を呼んでいるのが、岩波氏が手がけた小学生向けの暗算ドリル『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』(小学館)である。
『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』では、この本で初出となる「あゆみ算」を扱っている。「あゆみ算」とは、最先端のAIを学ぶ現役スタンフォード生でもある岩波邦明医師が独自に考案した画期的な暗算法のこと。
東京大学医学部在学中に開発・出版し、累計発行部数66万部のベストセラーを誇る『岩波メソッド ゴースト暗算』から、およそ12年の歳月を経て開発した最新メソッドだ。
最新メソッド「あゆみ算」では、脳のワーキングメモリに着目している。計算する際に頭の中で扱う数字の数を減らすことで、2ケタ×2ケタの暗算を簡便化。筆算よりも速くかつ正確に2ケタ同士のかけ算が暗算できるだけでなく、「最短の工程で暗算できるから、誰でも簡単にマスターできる」「問題を解くたびに情報処理能力(プログラミング脳)がグングン育つ」など、さまざまなメリットがあるという。
どうして岩波医師は新たな暗算メソッドを開発したのか? そのきっかけは、スタンフォード大の大学院コースで最先端のAIを学ぶ中で「AI開発に数学が不可欠」という確信を得たことにあると話す。
「あゆみ算という2ケタ同士のかけ算を簡単に暗算できる画期的な計算方法を広めたかったというのはもちろんあります。それ以上に私は子供たちに〝算数の成功体験〞を感じてほしいのです。大切なのは、わからないから〝つまらない〞ではなく、わからないから〝おもしろい〞と感じられるかどうか。そのカギとなるのが〝成功体験〞であると私は考えているのです。
同級生たちと比べて算数ができるようになれば、褒めてもらえる。こういった体験を小さい頃にしてほしいのです。もちろん、大人になってから数学への苦手意識を払しょくすることはできます。2ケタ同士のかけ算と微分・積分は、一見直接の関連性がはっきり感じにくいかもしれません。でも、成功体験は違います。成功体験は、微分・積分がわからない時に精神的な支えにもなるのです。
AI 開発にとって、今や数学はなくてはならない知識です。ですから、AIの存在感がますます強くなるこれからの時代に、数学(算数)の重要性はさらに増します。つまり、数学(算数)に対する得意意識は、次世代のビジネスパーソンにとって不可欠なスキルのひとつになると言っても過言ではありません。
スタンフォードでAIを学び始めてから、生成AIは100%数学でできていると言っても過言ではない。そんな確信を得ました。高校数学の分野でいうと、微分や確率、ベクトルですね。数学が生成AI開発の根幹部を支えているのです。数学を勉強しても将来、何の役にも立たない」という言葉をよく聞きますが、数学は世界の最前線を切り開くために必須な知識だと改めて気づきました。
私は医療用の生成AIを開発したいと思い、AIを学んでいます。例えば、医療画像を生成するAIです。X線写真を学習させた画像生成AIがあれば診療、研究、教育など多分野で活用できるようになるでしょう。自閉症の人たちをサポートする対話型AIの開発も考えています。ジョブインタビュー(就職面接)の練習やアドバイスをしてくれるAIがあれば、自閉症の方々の生活を大きく助けることができるでしょうし、そういった医師という仕事に直結する生成AIの開発ができればと、精進しています」
『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』
岩波邦明・著
『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』(小学館)では、2ケタ同士のかけ算全8100パターンに対応する新しい暗算法「あゆみ算」ほか、6つの暗算法「ラッキーあゆみ算」を収録している。