ドアのあるところには鍵があり、その鍵は今の時代なら簡単にスマートロックに置き換えることができる。
スマートロックにするとどうなるのか、どんなメリットがあるのかを知るには、従来の鍵だとどんな困りごとがあるのか、スマートロックがその困りごとをどう解決するのかを知るのが早道というわけで、実際にあった鍵のトラブル事例をピックアップ。「あるある」と頷いたら、そろそろスマートロックを検討すべきタイミングかもしれない。
鍵の困りごと「紛失」
鍵のトラブルといえばまず思い浮かぶのは、外出の際、鍵を忘れたり、鍵を失くしてしまうこと。失くしたらドアを開けられないだけでなく、失くした鍵が悪用されないように、ドアについているシリンダー錠を交換する必要も生じる。出入りする人が増えれば、その数だけ鍵も増えて、また紛失のリスクも高くなってしまう。
・実例1 賃貸住宅で鍵を紛失
たとえば賃貸住宅では、鍵の紛失によってかかるコストは、基本的にはなくした住民が負担する。業者に開けてもらうのにもコストがかかるし、シリンダー錠を交換する場合は、数万円の出費を覚悟しなければならない。
スマートロックでは、スマートフォンや生体認証、ICカード、暗証番号の入力、遠隔操作など、様々な方法で鍵を開けることができ、そもそも物理的な鍵を持ち歩く必要がない。ICカードの場合は鍵同様に紛失のリスクがあるが、電子的にデータを書き換えられるため、万が一紛失してもドアについている錠を交換する必要はない。
鍵の困りごと「閉め忘れ」
閉め忘れもよくある鍵のトラブル。オートロックでなければ、ちゃんと閉めたかどうかは本人の記憶が頼りだ。
・実例2 閉め忘れが気になって楽しめない旅行
ちゃんと閉めたかどうか、記憶があやふやで心配になり、せっかく出かけた旅行が楽しめない。あるいは、閉め忘れを確認するために、わざわざ長距離を戻るなんていう経験をした人もいるのではないだろうか。
スマートロックではオートロックを設定できるので、鍵を閉め忘れる心配がない。またリアルタイムの開閉管理ができるものでは、鍵が開いているか閉まっているか、状態をいつでも確認することが可能。さらに遠隔操作ができるものは、遠隔から鍵を閉められる。
鍵の困りごと「管理が大変」
鍵には紛失のリスクがあるので、鍵を持つ人が増えるとその管理が大変になる。以下は鍵の管理にまつわるトラブルだ。
・実例3 前の住人が勝手に侵入
賃貸住宅では管理会社が鍵を管理しているが、本来は許可なく作れない合鍵を住人が無断で作ってしまい、トラブルに発展するケースはよくあること。退去後に前の住人が勝手に侵入したというトラブルを防ぐためには、住人が入れ替わる度にコストをかけて鍵を交換するしかない。
・実例4 辞めバイトが店に侵入
人の出入りの激しい店舗などの場合は、さらに鍵の管理が重要になる。辞めたバイトが店に侵入して起こす盗難事件や、飲食店におけるバイトテロなどが後を絶たないからだ。トラブル回避のために、アルバイトに鍵を預けないようにしている店舗も多いが、そうなるとドアの開閉を行なう管理者の負担が増す。店長が一番先に店に来て、最後に帰るなんていうのもよく聞く話だ。
・実例5 介護で預けた鍵が悪用される
誰が鍵を持っているかちゃんと管理していても、防げないトラブルもある。送り迎えのために信頼して預けていた鍵を使って、デイケアサービスのスタッフが空き巣をしていたという事件も記憶に新しい。誰が鍵を持っているかだけでなく、それが適切に使用されているかを管理する必要もある。
スマートロックでは鍵はデータ。データだから簡単に発行できるし、簡単に書き換えて使えなくすることもできる。誰にデータを発行するかも厳密に管理することが可能。加えて誰がいつ鍵を開けたか、閉めたかという履歴を記録することもできる。
鍵の困りごと「受け渡しが大変」
シリンダー錠は物理的な鍵がないと開けられないので、誰かに中に入ってもらうためには鍵を受け渡す必要がある。この世の中にはそんな鍵の受け渡しのために、割かれている時間がどれくらいあるだろうか?以下は鍵の受け渡しにまつわるトラブルだ。
・実例6 植木鉢の下の鍵がなくなった
家族間で鍵を受け渡す方法としてよくあるのが、植木鉢の下やポストの中に鍵を入れておくという方法。いわずもがな、誰かに見つかって悪用されてしまったら、空き巣に入られる危険性大だ。
・実例7 空き物件の鍵が勝手に使われた
空き物件の内覧時に生じる鍵の受け渡しを簡素化するため、ダイヤル錠で開けられるキーボックスなどを使って、鍵を受け渡すというのもよく行なわれていること。だがその管理が適切に行なわれていないと、悪用のリスクが生じてしまう。
・実例8 無人駅の鍵を管理業者に渡すために長距離移動
無人駅の機械室や山小屋の倉庫など、普段は人がいない場所にも鍵はかかっている。もしメンテナンスなどの必要がある時には、管理する人がその場所まで鍵を持って行って、ドアを開けなければならない。鍵の受け渡しのためだけに、長距離移動が必要になることも。
・実例9 民泊の鍵の受け渡しを阻む言葉の壁
民泊施設ではスマートロックが採用されているケースが多いが、その理由で最も多いのが鍵の受け渡しの煩雑さだ。オーナーが近くにいない場合は遠距離移動が必要になるし、宿泊者の都合にあわせて時間を調整するのも大変。複数の施設を管理しているなら、なおさらだ。インバウンドなどの場合は、言葉の壁もあり待ち合わせを相談することさえ一苦労ということもある。
・実例10 店舗のメンテナンスで早朝、休日出勤
日中営業している店舗のメンテナンスは、当然ながら営業時間外に行なわれる。掃除会社やメンテナンス会社に入ってもらうためには、深夜であろうと休日であろうと、鍵を開ける必要がある。これもだいたいは店長の役割で、その負担は増すばかりだ。
・実例11 受け渡しが面倒で利用が伸びない共用施設
マンションの共用施設や、自治体が管理する公共施設などでは、使いたい人が事前に予約して当日鍵を受け取り、利用が終わったら鍵を戻すしくみ。この鍵の受け渡しが面倒で、利用を踏みとどまってしまうという人も多いのではないだろうか。施設利用が伸びないという場合は、鍵がネックになっている可能性もある。
・実例12 いざという時に開けられない避難所
災害時に避難所となるような公共施設の鍵は、多くの場合、市役所などで管理されている。公共施設を開けるには鍵を取りに行かなければならないが、災害時には道が寸断されるなどして、それが簡単にできない可能性もある。せっかく近くに避難できる場所があるのに、開けられないなんて事態に陥る可能性もある。
暗証番号(パスワード)対応のスマートロックなら、物理的に鍵を受け渡す必要はない。一時パスワードを発行して、不要になったら書き換えればいいだけ。電子ダイヤルなら番号を伝えるだけでOKだ。電池式なら電源がないところでも使えるし、通信不要な機種ならWi-Fiのない僻地でも利用可能だ。
次回からはさらに具体的な困りごとから、それをどのように解決したか、スマートロックの導入事例を紹介。困りごとに応じた機種選びも解説する。
取材・文/太田百合子 イラスト/あべさん