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パンクの心配もなし!サステナビリティと安全性を両立させた次世代タイヤ「AirFree」が秘める大きな可能性

2024.10.29

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

AirFree」は、ブリヂストンが2008年から開発がスタートした、空気充填の要らない次世代タイヤ。

第1世代は(下記画像左)、車重は200kg程度、超低速の時速6km以下というシニアカーに類する一人乗りのスローモビリティ向けのタイヤとして開発を開始し、2013年からは第2世代(同中央)として、車重が500kg程度、時速45kmの低速一人乗りのモビリティ向けとして開発を進めた。

そして昨年から出光興産と共創して実証実験を行っているのが第3世代(同左)。将来のモビリティ社会を見据えた、車重が1000kg程度、時速60km程度の中速2~4人乗りの超小型EV向けとして開発を進めている。

地域社会の足を支える空気の要らない次世代タイヤ「AirFree」

「AirFreeは当初から将来のモビリティ社会を見据えた新たなイノベーションとして挑戦をしてきました。その中核に据えているのがサステナビリティです。第1~3世代のいずれも、将来の地域社会のモビリティを支えるというミッションを掲げ、環境に配慮したコンセプトで開発を進めています」(株式会社 ブリヂストン ソリューション開発第2部長 岩淵芳典氏)

高齢化や過疎化、労働力不足など地域交通が課題となる中で、今後、地域社会で必要とされる小型で低速、自動運転が可能な「グリーンスローモビリティ」(後述・以下グリスロ)が注目されている。

AirFreeが掲げる提供価値は、安心安全、サステナブルな技術で地域社会のモビリティを支えるということで、グリスロとの親和性が高い。

AirFreeは空気の充填が要らないタイヤであるため、従来のタイヤと比べて省メンテナンス。空気の代わりに側面の青色スポークで荷重を支え、パンクなどの空気圧に起因する故障も発生しないことから“移動を止めない”メリットがある。

そしてもう一つのメリットがサステナビリティ。空気入りタイヤはゴムや金属コード、有機繊維、金属ワイヤー等様々な素材の高度な複合体。一方、AirFreeは路面に接するゴムと、荷重を支える熱可塑性樹脂のスポークによるシンプルな2ピース構造となっている。

路面に接するゴムの部分は摩耗すればリトレッド(新しいトレッドに交換して再利用する)を行い、樹脂部分は破砕してペレット原料化し繰り返し使うという、サーキュラーエコノミーを大前提としたシンプルな2ピース構造としている。現段階で暫定的に目標にしている樹脂部分の耐久性は10万km程度。

「技術が進化することによって、第1、第2世代のデザインコンセプトからの変更もありました。例えば、素材であれば当初は非常に固くて頑丈な素材を使っていましたが、第3世代では、強くてしなやかな素材の開発に成功しました。

頑丈に作っていた構造に対しても、適切にひずませることで乗り心地なども改良しています。素材を活かした接地の最適化とひずみの制御、さらに機械学習によるデジタルの仮想空間の中で数多くの試作を繰り返して、最適化した形状のデザインを導き出しました」(岩淵氏)

グリスロのような小型で低速のモビリティは、周囲から見えやすい視認性の高さが安全の向上につながるため、カラーに関しては、交通事故が多発する薄暮時に視認性を最大化させる色として『Empowering Blue』を採用。暗くなると青や緑などの短波長色が明るく見え、赤などの長波長色が暗く見える“プルキンエ現象”を考慮して選定した。

AirFreeは2026年の社会実装に向けて開発を継続しており、現在は公道での実証試験を行っている。2030年以降はグリスロだけでなく、小型EV車を主体とした様々なモビリティへの実装も視野に入れた事業へ成長させることを目指す。

発表会には、グリスロの導入を積極的に行っており、今後AirFreeを装着した試験車両に参加を検討している滋賀県東近江市、富山県富山市、群馬県みなかみ町、東京都杉並区の4自治体が出席し、AirFreeを装着した車両の試乗走行を体験した。

2021年4月から道の駅「奥永源寺渓流の里」を拠点とした自動運転サービス「けい流カー」を実施している、東近江市の担当者は試乗の感想をこう語った。

「従来のタイヤと比べてもほとんど違和感がありませんでした。少し荒れている道路は樹脂とゴムなのでノイズがあるかと想像していましたが、普通のタイヤとほとんど変わらない感覚でした。

安定した走行性を実感しましたし、自動運転サービスやメンテナンスフリーという点も非常にグリスロと親和性が高く、まずはグリスロで検証を重ねていくのがベストだと感じました」

ゆっくりと短距離の移動に価値を見いだす「グリーンスローモビリティ」

「グリーンスローモビリティ」とは、時速20km未満で公道を走ることができるEV車を活用した小さな移動サービスで、その車両も含めた総称を指す。

「グリーンスローモビリティ」の名付け親で、グリスロに関する調査・研究を行っている、東京大学 三重野真代准教授がグリスロの魅力や価値について語った。

現在は移動の形が多様化されており、従来型の大量高速輸送が求められる公共交通だけでなく、高齢者の増加やワークライフスタイルの変化による地域内の短距離移動、観光地におけるツーリスト向けの短距離移動のニーズが増えている。グリスロはこうしたモビリティの多様化の中で生まれた。

時速20km未満で走行するEV車は、ゴルフカートタイプとバス型タイプがある。ゴルフカートタイプは開放感があり乗降しやすいので景色を楽しむ観光にも向いており、バス型は座席を対面にすることも可能。普通免許で運転ができるので(※11人乗り以上の車両の場合は中型免許が必要)、長く歩くのが困難な高齢者の日常生活の足や、観光周遊といった地域内単距離移動に最適な交通手段となる。

「グリスロは中途半端な乗り物ではないかと言われたこともあります。数百mから2~3km程度の距離を、自転車程度のスピードで、地区内しか移動しない。乗り合いにしてもどんな使われ方をするんだ?と疑問に思う方も多くいます。

運転免許を返納したり、歩行が困難になった高齢者、観光地で歩き続けるのは疲れるといったニーズに対応するのがグリスロです。コミュニティバスや乗り合いタクシーよりもさらに先の場所である地域交通のラストワンマイル、今まで元気だったときは歩けたところに対する乗り物なのです。

グリスロの走行実績は2022年度末現在(国土交通省調べ)で全国130自治体、うち38地域で本格運行が始まっています。現在では50地域ほどで本格運行に入っています。

グリスロは地方の乗り物だと思われがちですが、地方部だけでなく東京都内各所でも運行や実証実験を行っており、来月からは杉並区が運行を始めます。各メディアでも取り上げられ、全国的にも注目されています」(三重野氏)

グリスロにはメリットが多くあり、そのひとつが今までになかった移動手段であるということ。小型のコミュニティバスでも入れなかった狭い道でも走れる、ドライバー不足が問題になる中で、高齢者も運転しやすいグリスロは地域の人がドライバーを担うことができる、開放的な乗り物であるため観光客用の料金が取れる付加価値が生まれるといったメリットがある。

またグリスロはガソリンを使わないEV車を使用するため、静かでにおいもなく、空気が清潔という環境面でのメリットや、ガソリンスタンドがない地域でも使える利点もある。

「人と車の関係性を考えたとき、時速40kmの車が通れば止まるのは人です。時速30kmだと車と人の関係がほぼ対等になります。時速20kmといえばマラソン選手と同じスピードで人が出せる速度ですから、歩行者がいても車が人を見て止まることができます。つまり、時速20km未満は、車中心から人中心に転換できる速度なのです。こうした安全面からも、自動運転の車両でグリスロを使っているケースが多くなっています。

さらにグリスロの最大のメリットはコミュニケーションツールとしての機能です。車内でドライバーと乗客が話をしたり、写真を撮ったり、車外の歩行者ともコミュニケーションできます。ドライバー不足だと言われている中でもグリスロのドライバーは、お客さんと楽しく話をしながら感謝される仕事だと、積極的にドライバーを希望される方もいます。グリスロはコミュニケーションがいろいろな形で発生する“乗って楽しい公共交通”と言えます」(三重野氏)

一方、グリスロの課題として車両価格の高さ、速度差が大きいため一般の車両が多い大きな道路では走れない、冷暖房がなく乗り心地も含め車のような快適性がないといった点が挙げられる。

「従来のバスや自動車と同じ使い方ができないことや、便数や乗車人数も少ないため採算性の面でも課題はあります。それらに関しては、SDGs・脱炭素の価値、観光や生業、買い物や福祉といった、まちの装置として多くの人に共感してもらえる使い方をすることで、収支の改善につながる仕組みを作っている自治体も多くあります。

AirFreeについてはグリスロの観点からも大きな期待が持てます。グリスロは山間地や離島など道路状況が整っていないところも走っていますので、パンクレスはまさにグリスロの特性に合ったタイヤです。

また、視認性の高い青色のデザインや安心安全だけでなく、動く景観といえるグリスロのモビリティとバランスよくマッチしてデザイン性を高めてくれます。

サステナブルで安全、低速といった面もグリスロの特性と合致しますので、サステナビリティの観点からもグリスロの価値を高める先導となり得るタイヤであると期待しています」(三重野氏)

【AJの読み】空気の入っていないタイヤでありながら安定性のある走行に驚き!

小平市にあるブリヂストン 技術センターで行われた自治体の試乗会に筆者も参加させてもらい、AirFreeを装着した軽自動車で敷地内のコースを試乗した。

時速20km~50kmまでの速度で、直線やスラローム、カーブ、悪路と様々な条件を備えたコースを2周してもらった。直線部分では時速40km以上で走行したが、揺れや不安定さはまったく感じない。

悪路についても空気入りタイヤとさほど変わらない揺れで、空気が入っていないタイヤだと言われなければ、普通のタイヤとの違いをまったく感じさせない乗り心地だった。

接地面のゴムと樹脂のスポークでできているタイヤで、ここまで安定性のある走りになるのかと、正直かなり驚いた。

社会実装に向けては、エアレスタイヤに関する法整備やコスト面などの課題もあるが、開発と併せて、これらの課題解決を含めたビジネスモデルの構築を進めていくという。

取材・文/阿部純子

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