メンバーシップとはどのような能力なのか、よくわからない方もいるのではないでしょうか。一人ひとりのメンバーが自身の役割を把握し、チーム全体に貢献する能力を指します。本記事では、メンバーシップとリーダーシップ・フォロワーシップとの違いや、高めるメリットを解説します。
目次
メンバーシップとは?
メンバーシップとは、組織に属するメンバー各自が自身の役割を把握し、主体的に行動してチーム全体に貢献する行動や能力を指します。自分自身に与えられた役割を果たすだけでなく、ほかのメンバーをサポートすることもメンバーシップに欠かせない要素です。
メンバーシップが高められた組織のメンバーは、指示を受けてから行動するのではなく、主体的・積極的に行動するため、成果を上げやすいという特徴があります。
組織には、メンバーのほかに「リーダー」「フォロワー」という役割も必要です。組織の目標を達成するためには、リーダーシップやフォロワーシップ、メンバーシップの3つが発揮されなければなりません。
メンバーシップとリーダーシップ・フォロワーシップは、次のような違いがあります。
役割 |
必要な能力 |
具体的な行動 |
|
メンバーシップ |
自身の役割を果たす |
貢献力・影響力 |
自主的・積極的に取り組む |
リーダーシップ |
規範となり、組織やチームをまとめる |
指導力 |
意思決定を行う |
フォロワーシップ |
リーダーや組織を支援する |
サポート力 |
健全な批判・提言を行う |
それぞれどのような違いがあるのか、詳しくみていきましょう。
■ リーダーシップとの違い
リーダーシップとは、組織やチームをまとめ、目標達成に向かって導いていく能力や行動のことです。指導力・統率力という表現を使うこともあります。
リーダーシップはチームや組織に働きかけて目標達成に導くことを指すのに対し、メンバーシップはチームや組織の一員として、自身の役割を自覚しながら成果をあげることです。
両者は役割や求められる能力、働きかけの対象が異なります。
■ フォロワーシップとの違い
フォロワーシップとは、組織やチームが成果をあげるため、積極的にリーダーや組織の支援を行う行動や能力のことです。リーダーの意志決定に対してアドバイスや意見を与えたり、リーダーに代わってチームをサポートしたりする役割があります。
フォロワーシップはリーダーや周囲のメンバーに働きかけ、リーダーの支援をメインに行います。これに対しメンバーシップの異なる点は、組織・チーム全体に働きかけ、組織全体に貢献することです。
メンバーシップという言葉が使われるシーン
メンバーシップは、ビジネスや商品・サービスの会員など、さまざまなシーンで使われます。
ただし、意味合いは使われるシーンごとに異なります。
ここでは、メンバーシップが主に使われるシーンの意味をみていきましょう。
■ ビジネス
ビジネスにおけるメンバーシップは、「組織の一員として与えられた役割を果たし、組織全体に貢献する」というメンバーシップ本来の意味で使われます。
会社組織では、社員がメンバーシップを高めることで自己に与えられた役割への理解を深め、自発的に行動したりほかのメンバーに協力したりしながら目標達成に向けて取り組みます。
メンバーシップを高めた社員は同じ目標を共有して一体感を強めるため、目標達成の実現を早められるでしょう。
■ 看護
看護の分野におけるメンバーシップは、チームで目標を共有し、各メンバーが協力し合って患者に対して効果的な医療を提供するという意味です。
これは、日本看護協会が発表した看護実践能力を育成するためのプログラムである、「看護師のクリニカルラダー」にある「協同する力」に該当する内容です。
看護師の仕事は1人では完結せず、メンバーシップが欠かせません。各自がチームの一員であることを自覚し、メンバーシップを理解した行動をとることが求められます。
■ 商品・サービスの会員
メンバーシップには、組織やクラブなどの構成員、もしくはその資格や地位という意味もあります。この意味から、メンバーシップは商品・サービスの会員という意味で使われる場合もあります。
会員という意味でメンバーシップを使う例として代表的なものが、動画配信サービスのYouTubeです。YouTubeでは、特定のチャンネルごとの有料サブスクリプションサービスとして、「YouTubeメンバーシップ」を提供しています。
会員であるメンバーにはチャンネルとのつながりを強化するためのさまざまな特典が付与され、独占的な体験が得られるという仕組みです。
参考:デジタル大辞泉
メンバーシップを高めるメリット
ビジネスにおいてメンバーシップを高めると、次のようなメリットを得られます。
・当事者意識を養う
・組織の一体感が向上する
・従業員エンゲージメントが高まる
・業績アップにつながる
それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
■ 当事者意識を養う
メンバーシップを高めることで、当事者意識が養われます。当事者意識とは、物事や課題を自分の責任と捉え、主体的に関わる意識のことです。
メンバーシップが低い状態にあると自身の役割を自覚できず、仕事も受け身になりがちです。上司からの指示を待つ状態になり、仕事への責任感も希薄になるでしょう。
チームで仕事をするという意識も薄く、ほかのメンバーをフォローすることもありません。また、当事者意識が低いと目標を「他人事」として捉え、達成を諦めるのが早いという特徴もあります。
メンバーシップの向上により当事者意識が養われれば、指示を待たず主体的に行動できるようになります。事業活動の活性化と生産性の向上につながるでしょう。
■ 組織の一体感が向上する
メンバーシップが高まることで、メンバー同士が互いにサポートし合う関係が構築され、組織の一体感が向上します。個人のみでは達成できない目標も、メンバー同士が協働することで、相乗効果を発揮して実現の可能性が高まるでしょう。
一体感が強くなれば、トラブルが発生したり困難な状況に直面したりしたときも、全体が協力し合って解決を早められます。
一体感を持つことで、社員一人ひとりのモチベーションも上がります。各自が意欲的に働くようになり、サービス品質の向上にもつながるでしょう。さらに、顧客満足度や売上のアップも期待できます。
■ 従業員エンゲージメントが高まる
メンバーシップの向上で当事者意識が芽生えれば、従業員エンゲージメントが高まります。
従業員エンゲージメントとは、従業員が自社や仕事に対して愛着心を持ち、貢献意欲を持つ心理状態のことです。従業員エンゲージメントが高いほど、企業と従業員の絆が強まります。
エンゲージメントの高い従業員は職場環境や自己への評価に満足しており、自社の方向性に共感しているという特徴があります。
メンバーシップを高めることで、従業員の「満足度」「成長度」「共感度」が高まれば、結果として従業員エンゲージメントが向上することになるでしょう。
エンゲージメントの向上は、従業員の離職防止につながることもメリットです。
■ 業績アップにつながる
メンバーシップが高い組織・チームは、従業員一人ひとりが自分の役割を自覚して意欲的に取り組みます。各自の能力が最大限に発揮されるため、結果として業績向上につながるでしょう。
メンバーシップが低く、個々の従業員が自分の成果のみを考える環境では、組織全体の目標達成は困難です。メンバーが支え合い、互いに協力し合うメンバーシップが高まることで、誰もが働きやすく成果を上げやすい環境が作られます。
メンバーシップが高い組織はコミュニケーションが活発であり、情報共有がスムーズに行われます。その結果、革新的なアイデアも生まれやすくなり、新しいビジネスを創出する原動力となるでしょう。メンバーシップの向上は、企業が持続的に成長するために欠かせないものといえます。
メンバーシップを高める方法
メンバーシップを高めるためには、まず、従業員一人ひとりがメンバーシップとはなにかについて理解することが必要です。
ここでは、メンバーシップを高める方法についてみていきましょう。
■ メンバーシップについて理解を深める
メンバーシップという言葉に馴染みのない従業員も多いため、まずはメンバーシップへの理解が必要です。
メンバーシップとはどのようなものか、高めることがなぜ重要なのかを周知させましょう。メンバーシップについて知識はあっても、その重要性を理解していなければ、十分に浸透させることはできません。
資料の配布やメールでもメンバーシップについて周知することはできますが、より理解を深めるためには、研修やセミナーなど、時間をとって伝えることが効果的です。
メンバーシップへの理解とともに、組織に貢献するためには、組織がどのような方向を向いて進んでいるかを把握することも大切です。
そのため、メンバーシップについて伝える場面では、組織の理念やビジョンについてあらためて理解を促す必要があります。方向性がわかることで、自分がするべきことはなにかを考えられるでしょう。
■ 自分の役割を把握する
メンバーシップへの理解が浸透したら、メンバー各自が自分の役割を把握することが必要です。自分の役割について理解が曖昧では、なにをすればよいかわからなくなり、仕事が一部のメンバーに偏ることもあるでしょう。そのため、責任の所在も明確になりません。
役割が明確でないと、雰囲気で各自が業務を分担するという状況になる可能性があります。そのような状態では、「面倒な仕事はやらずに楽な仕事だけする」というケースも出てくるでしょう。
仕事を押し付けられた従業員には不満が蓄積することになり、組織の一体感を形成するのが難しくなります。
メンバーシップを高めるためには、各自の役割を文書化するなど、明確にする機会を設けることも必要です。
役割が明確になることで、その仕事に対して責任を自覚し、主体的に取り組めるようになるでしょう。
■ メンバー間の相互理解を促す
メンバーシップを高めるためには、メンバー同士が互いを理解することも大切です。メンバー間の相互理解は自然発生を期待するのではなく、組織側が機会を設ける必要があります。
効果的な方法のひとつに、社内イベントの開催があげられます。イベントを通じて、社員一人ひとりの考え方や価値観を理解できるでしょう。
社内イベントの一例は、次のとおりです。
・スポーツ大会
・ゲーム・ワークショップ
・オンライン交流会
スポーツ大会の開催は、メンバーシップの醸成に効果的です。運動会を始め、野球やサッカーなど、チームに分かれて得点を競い合うスポーツは、メンバー同士の一体感を高める効果が期待できるでしょう。
ゲームやワークショップであれば室内で開催でき、スポーツが苦手な従業員でも気軽に参加できます。
テレワークを導入している会社であれば、オンライン交流会でも相互理解を促せるでしょう。オンラインによる飲み会やお茶会、ランチ会など、従業員の都合に応じて開催することで、普段は交流しにくい従業員同士の親睦を図れます。
長時間の交流会に参加するのが難しい従業員がいる場合は、定期的に短時間のオンライン交流会を設ける方法もおすすめです。
■ チームのコミュニケーションを活性化させる
日頃からメンバーがコミュニケーションを図れるような仕組みを作ることも、メンバーシップの醸成に役立ちます。社内イベントも、コミュニケーション活性化の施策のひとつです。
さらに、社内コミュニケーション活性化として、次のような施策が効果的です。
・社内報
・従業員アンケート
・1on1ミーティング
・クラブ・サークル活動
・グループウェアの導入
社内報は、社内の出来事や連絡事項を発信するツールです。社内新聞や冊子、イントラネットなど、さまざまな形式があります。定期的な発行により、従業員の相互理解や情報共有を促します。
社内でイベントやさまざまな活動、従業員の表彰などを発信することで、従業員同士の会話を促進し、社内コミュニケーションの活性化につながるでしょう。
社内コミュニケーションの活性化に、従業員アンケートを活用する会社も多くあるようです。アンケートにより現状の課題を明らかにすることで、有効な施策を講じられます。
1on1ミーティングとは、上司と部下が定期的に1対1で対話を行うことです。主に、部下の育成を目的に行われます。定期的に実施することで、相互理解と信頼関係が深まり、部下は抱えている問題や悩みを上司に伝えることで不安を解消できるでしょう。
社内サークルや部活動も、社内コミュニケーションの活性化につながります。共通の趣味を持つ従業員同士が交流できる場を作ることで、コミュニケーションのハードルも下がるでしょう。
グループウェアは、社内の情報共有やコミュニケーションを円滑にし、業務を効率化するソフトウェアです。
メールやスケジュール管理など、業務に必要な機能が1つのシステムに統合されています。これらの機能を通じて業務がスムーズに進行し、社内コミュニケーションの活性化に貢献します。
メンバーシップ型雇用とは?
メンバーシップという言葉が使われている用語に、「メンバーシップ型雇用」があります。メンバーシップ型雇用とは、業務内容や勤務地を限定せずに雇用契約を結ぶ採用手法です。
あらかじめ人材を採用し、あとから仕事や役割を決定します。新卒で社員を総合職として一括雇用する場合に採用される手法であり、企業の社風に適した人材を、長期にわたって育成するという目的があります。
■ ジョブ型雇用との違い
メンバーシップ型雇用と比較される採用手法に、ジョブ型雇用があげられます。ジョブ型雇用とは、まず業務内容や勤務地などの条件を決定し、雇用契約を結ぶ手法のことです。
職務内容を明文化した、職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて雇用契約を結ぶ手法であり、原則として記載されていない職務への配置はできません。
メンバーシップ型雇用は、広範囲な知識と多角的な視点を持つ人材であるゼネラリストを育成したいときに適した手法です。
これに対し、ジョブ型雇用は特定の分野に深い知識や技術を持つスペシャリストの育成に適しています。
■ メンバーシップ型雇用のメリット
メンバーシップ型雇用を採用することで、状況に合わせた人材配置や人事異動がしやすいというメリットがあります。幅広い業務に適用できるため、急に欠員が発生したときも、他部署から人員を補充しやすいでしょう。
新卒一括採用で雇用した人材を長期的に育成することで、「組織の一員である」という意識が芽生えやすくなり、会社に対する愛着心が生まれて従業員エンゲージメントの向上にもつながります。
長期間、同じ組織内で働くことでメンバー同士の絆が深まり、メンバーシップを高めやすくなるのもメリットです。協力し合いながら業務を進めることで、生産性も高まります。
メンバーシップ型雇用は終身雇用を前提とした日本独自の雇用システムであり、終身雇用制の崩壊とともに、ジョブ型雇用へ移行する企業が増えるという状況がありました。
しかし、近年は再びメンバーシップ型雇用が注目を集めています。メンバーシップ型雇用で採用された人材は、幅広い分野のスキルと経験を身につけており、変化の激しい時代においては、人事異動や転勤が容易にできる方が雇用を維持しやすいためです。
■ メンバーシップ型雇用のデメリット
メンバーシップ型雇用には、デメリットも存在します。
成果とは関係なく年功序列で従業員の給与が毎年昇給するため、実際に成果を上げていない従業員にも高額な給与を支払わなければならないという点です。給与だけが高くなり、成果を上げられない従業員が増えることは、経営の大きな負担となるでしょう。
メンバーシップ型雇用を重視している会社では、仕事の評価が昇給に直結しない場合もあり、仕事へのモチベーションが失われやすい傾向にあります。
「成果を上げなくても給与が上がる」、あるいは「成果を上げても給与が上がらない」という状況は、従業員が働く意欲をなくす可能性もあるでしょう。優秀な人材は仕事が評価されないことでやりがいをなくし、早期離職につながるケースもあります。
また、メンバーシップ型雇用の人材育成では総合的なスキルを身につけていくため、スペシャリストが育ちにくい点がデメリットです。特定の分野に優れた専門性の高い人材が必要なときは、新たな求人が必要になります。
メンバーシップ型雇用を採用している会社は、テレワークを取り入れにくい点もデメリットです。担当業務が決められていないため、新しい業務が発生した際は上司が指導しなければなりません。テレワークの環境では業務の割り振りや指導は難しく、業務の進行が滞ります。生産性の低下にもつながるでしょう。
メンバーシップとは自己の役割を果たすこと
メンバーシップはメンバー各自が自己の役割を果たし、組織全体に貢献する行動や能力のことです。
メンバーシップを高めることで、一人ひとりに当事者意識が養われ、組織の一体感が向上します。従業員エンゲージメントが高まり、結果として業績アップにつながるでしょう。
従業員のメンバーシップを高めるためには、各自がメンバーシップについての理解や、従業員間の相互理解を深めることが大切です。社内コミュニケーション活性化など、会社側からの積極的な施策も必要になるでしょう。
構成/須田 望