日本人の平均寿命が伸びた。厚生労働省が2024年7月26日に公表した「令和5年簡易生命表」によれば、令和5年の平均寿命は、男性「81.09年」、女性「87.14年」となり、どちらも前年より上回った。前年より上回ったのは男女とも3年ぶりのこと。
これから長い人生を存分に楽しみたいものだが、そのためには健康をどれだけ長く保てるかが重要だ。今回は、長寿の鍵となる栄養素や、長寿食といわれる和食に多い「魚」をうまく美味しく取り入れるための方法を紹介する。
長寿の鍵となる栄養素は「タウリン」と「イソフラボン」
世界各地の長寿地域に足を運び、現地の食事と健康の関係を調査した京都大学名誉教授の家森幸男氏は、長寿の人に共通する傾向として「タウリン」と「イソフラボン」という 2 つの物質の摂取量が多いことを発見した。
タウリンは、主に牡蠣やイカ、タコなどの魚介類に多く含まれる。細胞から健康を維持するのに必要であり、長寿につながる栄養素といえるようだ。イソフラボンは、大豆に多く含まれる。
数々の研究結果から、タウリンにはアンチエイジング効果、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、肥満と高脂血症予防、筋肉機能の維持、脳への影響などさまざまな健康効果が確認されている。
特に魚食の多い海に囲まれた日本は恵まれており、長寿を十分に目指せる環境にある。
長寿食材「魚」を美味しく取り入れるアイデア
しかし、魚介類を好き好んで食べる日本人はそう多くはない。
大正製薬が2024年7月、全国の20代以上の男女1000名を対象実施したインターネット調査によると、「魚やイカ・タコ・貝類などの魚介類を積極的に摂るようにしている」という人は全体の半数以下(46.5%)との結果に。
なぜ「積極的に摂らない」のか。その理由としては「値段が高いので」(241名/1000名中・以下同)がトップとなり、次いで「調理が面倒・調理の仕方がわからないので」(134名)、「嫌いだから・好きではないので」(73名)となった。こんな積極的になれない魚食。何とか美味しく手軽に取り入れられる方法はないだろうか。
そこで魚を楽しむプロであり、釣りアンバサダーである株式会社ウオー代表取締役 中川めぐみ氏にアイデアをもらった。
1.ファストフィッシュを取り入れる
「近年では『ファストフィッシュ』などと呼ばれる、気軽に魚を食べられる商材が増えています。下味がついており、手軽にレンジで調理ができたり、骨や皮がすべて取り除かれていたりと、調理や食事、片付けまで手間や時間をかけずに魚食を生活に取り入れやすくなりました。スーパーやコンビニにもそういった商材が数多く並んでいるので、まずはここからスタートするのもおすすめです」
2.ハーブや薬味を利用する
「生臭さが気になる方は、ハーブや薬味を使ってみてはいかがでしょうか。煮たり焼いたりはもちろん、買ってきたお刺身にハーブや薬味、野菜をのせて、オリーブオイルとレモン、岩塩などをかけるだけで、まるでお店でいただくような豪華な一品になります」
3.マグロのサクを味噌で料亭の味に
「赤身のマグロなどは生のサクで購入し、全体に味噌(お好みでみりんなど甘味を追加)を塗ってキッチンペーパーを巻き、軽くラップで包んで冷蔵庫で2-3時間置くだけで、料亭の味に早変わり! 味噌を軽く洗い流して水気を拭いたら、お好きな厚さに切って食べてみてください。くさみや余分な水分が抜けて、濃厚で上品な旨味を楽しむことができます。からしを付けて食べるのもおすすめです」
4.丸魚を加工してもらう
「もう一歩進みたい方は、調理場のあるスーパーや魚屋さんに行ってみましょう。お料理上級者しか購入しないと思われる“丸魚”ですが、実は調理場のあるお店では大抵、無料で加工してもらえます。『塩焼きにするので、鱗と内臓だけとってください』『三枚おろしでお願いします。頭と骨も出汁をとりたいので持ち帰ります』などお料理の内容や調理方法を伝えれば、プロがさばいてくれます。お店によって三枚おろしまで、刺身までなど無料でお願いできる幅があるので確認しましょう。調理の幅が広がり、生ゴミもほとんど出ないので、より多様な食べ方を気軽に楽しむことができます。
魚屋さんには旬のさまざまな魚が並んでいて、聞けば美味しい食べ方や調理法も教えてもらえるので、通うとクセになりますよ!」
5.外食でトレンドの魚料理を発掘
「外食でも魚料理のバリエーションが増えています。『焼きうお』という、まるで焼肉のようにお刺身を1枚ずつ炙(あぶ)って数種のタレ・薬味でいただくものや、「魚串(うおくし)」という、焼き鳥のように一口大に切られた魚が串に刺されて炭火で焼かれたものなど、なじみがあるのに新たな美味しさに出会えるお店が出てきているので、ぜひチャレンジしてみてください」
6.魚版BBQで盛り上がる
「魚食を『食』だけでなく『体験』として楽しむのはいかがでしょうか。例えばホームパーティーやBBQなどのイベントで、みんなで盛り上がれる魚料理を出してみる。手軽なところでは手巻き寿司がありますし、実は干物をベースにしたアクアパッツァはもともと旨みが凝縮しているので、フライパンで焼いて、そこにあさり、トマト、調味料、水などを加えて煮るだけでお店のような深みと旨みのある華やかなメイン料理になるんです。友人や家族とお魚を囲めば、いつもより楽しく美味しい魚食体験ができるはず」
7.釣り&実食
「さらにアクティビティ感を強めるならば、釣りもおすすめ。ハードルが高いコアな趣味だと思われがちですが、実は全国各地にはレンタル・レクチャーサービスを備えた初心者歓迎の釣船がたくさんあり、気軽に始められます。
自ら釣った魚は、鮮度抜群で思い入れもあるので、びっくりするほど美味しいです! 私も釣りが大好きで、アジからスタートして今ではマグロやノドグロなど、自分が食べたい旬の魚を各地へ釣りに行くほどハマっています」
8.漁師の推し活をする
「推し漁師活動という楽しみ方もあります。これはアイドルの推し活のようなもので、“この漁師さんの獲った・育てた○○が美味しい!” “この漁師さんの資源管理の取り組みがカッコいい!”など、推したい漁師さんを見つけて推し活するもの。やがて、その海産物の旬や地域による違いまで意識するようになり、『今年はいつもより脂がのっていて美味しいね』『旬のはじまりと終わりで、こんな違いがあるから調理方法を変えてみよう』など、どんどんマニアックな楽しみ方ができるようになってきます。最近は通販サイトやWebメディア、イベント出演などを通して自分自身や自慢の海産物についてPRする漁師さんも増えているので、探してみるのも楽しいですよ」
魚食というとなんだか味気ないイメージもあったが、これらのアイデアを聞いているとなぜか美味しい魚を食べたくなってきた。ぜひ魚とうまく付き合いながら、長寿を目指そう。
【取材協力】
医師 家森幸男氏
1937年 京都市生まれ。京都大学大学院修了。医学博士。同大学名誉教授。現在、武庫川女子大学健康科学総合研究所 国際健康開発部門部門長、(公財)兵庫県健康財団会長、健康加齢医学振興財団理事長。脳卒中ラットの開発に成功、脳卒中が栄養で予防可能なことを実証し、WHOの協力で世界61地域を40年かけて健診。24時間尿の分析で大豆や魚介類の常食が生活習慣病を少なくし、「適塩和食」で健康寿命延伸の可能性を検証。 ジョージアから分析のため持ち帰った発酵乳を企業の協力を得てホームメイドのヨーグルトとして食環境改善に貢献。ベルツ賞(1993)、紫綬褒章(1998)、杉田玄白賞(2004)、瑞宝中綬章(2012)などを受章、『大豆は世界を救う』(法研)、『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)、『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)他、著書多数。
中川 めぐみ氏
株式会社ウオー 代表取締役/釣りアンバサダー
1982年富山県生まれ。GREE・電通で新規事業の立ち上げ、ビズリーチで広報などに関わる。その間に趣味としてはじめた釣りの魅力に取り付かれ、2018年に「釣り × 地域活性」事業で独立。釣りや漁業を通して日本全国の食、景観、人、文化などの魅力を発見・発信することを目指し、各地で観光コンテンツの企画やPRの仕事に従事。 また漁業ライターとして、釣りや漁業を起点とした情報の執筆を行う。水産庁や環境省、富山県などの水産に関わる委員も務める。
文/石原亜香利