2024年11月1日、期待感に塗れた大作が公開される。その名も『十一人の賊軍』。本記事では、ひと足さきに試写会で本作を観た筆者が、その魅力を届けようと思う。
ただその前に、「期待感に塗れ」ている理由を語っておきたい。本作は、「⽇本侠客伝」シリーズや「仁義なき戦い」シリーズなどで一世を風靡した脚本家·笠原和夫が、1964年に執筆したという幻のプロットをもとにした物語だ。実に60年の時を経た映画化となる。メガホンを取るのは白石和彌監督。そして企画·プロデュースは紀伊宗之、脚本は池上純哉。映画ファンならピンと来た人もいるだろうが、大ヒットヤクザ映画『孤狼の血』チームの面々である。
また、主演は山田孝之と仲野太賀の二人。その脇を、尾上右近、鞘師里保、佐々木宝、千原せいじ、岡山天音…と実力派が固める。これは期待するなというほうが難しい。
(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会(以降同様)
“実力派”だらけの賊軍たちは、どんな物語を見せてくれるのか…!
日本史上最大の内戦·戊辰戦争。新政府軍に勝利をもたらした、とある藩の裏切り
本作の舞台は1860年代後半。戊辰戦争のさなかである。新潟にある新発田藩は、旧幕府派から新政府軍(官軍)への寝返りを密かに画策していた。その中心にいるのが、老中·溝口内匠(阿部サダヲ)だ。しかしそんな折、旧幕府派の奥羽越列藩同盟軍が新発田に出兵を求めて軍を率いて押しかけてくる。一方、新政府軍も新発田に向かってきており…。
官軍先方総監督府·参謀を務める山縣狂介(玉木宏)は、物語の大局を動かすキーパーソンだ。
両軍が新発田で鉢合わせしては、城下が戦火に包まれてしまう。そこで考案されたのが、街外れの砦を死罪を受けた者たちで構成した賊軍(山田孝之ほか)と、藩士から成る決死隊(仲野太賀ほか)で守護し、新政府軍を一時足止めする作戦だった。
賊軍に与えられたミッションは、奥羽越列藩同盟軍が城下から引き上げるまで新政府軍の進軍を砦で止めること。「成功の暁には無罪放免」と言い渡された罪人たちは、命を賭けた危険な作戦を遂行できるのか。新発田藩の重鎮、奥羽越列藩同盟軍、新政府軍、そして11人の賊軍、それぞれの思惑と執念が絡み合う壮絶な戦いが描かれる。
砦における肉弾戦と、溝口を中心とした城下での知略戦。この2軸の展開が『十一人の賊軍』の最大の特徴だ(その分、上映時間は155分と長いのだが)。
新政府軍から砦を死守する賊軍たち。数々の命懸けの死闘が繰り広げられる。
罪人たちの戦いの行末は? “人間”を浮き彫りにする覚悟の物語
東映の意欲作であること、そしてキャストやスタッフから、どうしても巨大な戦場における大スペクタクルな作品を想像してしまう。しかし、本作は極めて“小さな”物語である。戊辰戦争全体で考えれば重要な局面ではあるのだが、ここで言っているのはそういうことではない。
筆者は、その小ささこそが本作のキーポイントだと思う。まずは舞台。激しいアクションや目を見張る殺陣もあるが、戦いが巻き起こるのはあくまで小さな砦だ。また、城下での知略戦も室内やお白洲で繰り広げられる。数百人規模の大激突!などという描写はまったくない。だがそれこそが、人間の覚悟を描く「十一人の賊軍」の魅力なのだ。
そして、さまざまな立場の、さまざまな人間の思惑が錯綜して物語が進行していくのだが、いずれも規模は異なれど「自分の世界を守る」ことに終始している。それを際立たせるために、主要キャラクターのドメスティックでパーソナルな問題を粒立てて描写していると思う。たとえば政は、新発田藩士に襲われた妻の復讐をして罪人となった。賊軍となって以降も、故郷に残した妻と再会するためだけに行動する。その目的のためには裏切るし、逃げもする(本当にすぐ逃げる)。
これらの“小ささ”が、政、鷲尾兵士郎(仲野太賀)、溝口ほか登場人物の人間性と葛藤、そして覚悟を浮き彫りにしていた。だからこそ、賊軍と新発田藩のいく末から目が離せなくなる。
自分の世界を守るためなら狂気にも走る溝口。その覚悟たるや恐ろしい。
ぶつかり合う賊軍の政と決死隊の鷲尾。賊軍内はもちろん、決死隊内も一枚岩ではない。
本作は、慌てふためいて走る政の足元からはじまる。惨めにも映るその姿を、映画のラストまで覚えておいてほしい。戦いの末、賊軍たちが向かう先とは? “人間”の覚悟の物語。『十一人の賊軍』は一見の価値ありだ。
<作品情報>
映画『十一人の賊軍』
公開日:2024年11月1日(金)
監督:⽩⽯和彌
脚本︓池上純哉
出演:⼭⽥孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師⾥保、佐久本宝、千原せいじ、岡⼭天⾳、松浦祐也、⼀ノ瀬颯、⼩柳亮太、本⼭⼒、野村周平、⽥中俊介、松尾諭、⾳尾琢真、柴崎楓雅、佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松⾓洋平、浅⾹航⼤、佐野和真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、⽊⻯⿇⽣、⻑井恵⾥、⻄⽥尚美、⽟⽊宏、阿部サダヲ、ゆりやんレトリィバァ
原案:笠原和夫
(C)2024「⼗⼀⼈の賊軍」製作委員会
【公式サイト】
https://11zokugun.com
文/関口大起