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「親のおひとりさま期」は自分事として捉える契機になる!?人生100年時代におひとりさま期をどう生き抜くか
今、単身世帯が急増しています。総務省が発表しているデータによれば、2040年には単独世帯の割合は約40%に達すると予測されており、特に65歳以上の単独世帯数の増...
今、単身世帯が急増しています。総務省が発表しているデータによれば、2040年には単独世帯の割合は約40%に達すると予測されており、特に65歳以上の単独世帯数の増加が顕著です。核家族が当たり前の日本では、家族と一緒に暮らしていても、子どもが独立したり、配偶者と離別/死別したり、多くの人が「おひとりさま」になる時代なのです。
また、夫や子どもがいてもいなくても、多くの女性に「おひとりさま期」はやってきます。2023年国民生活基礎調査によると、80歳以上の女性一人世帯は急増し、3割を超える実態が浮かび上がりました。
性・年齢階級別にみた65歳以上の者の家族形態
(出典)2023年国民生活基礎調査
実際に「おひとりさま」になった後、どう始末をつけるか。後編では、そのための強い味方の一つ「おひとりさま信託」を紹介します。
誰にも迷惑はかけたくないから
苦労して父母世代の人生100年時代をサポートしている(あるいはサポートした)からこそ、自分のときには子どもはもちろん、自分に近しい人には迷惑をかけたくはない−−。そう思う50~60代の女性は多いはず。その助けになるのは、情報です。
「おひとりさま信託」は2019年末に誕生した、三井住友信託銀行のサービスです。自分の死後、誰に連絡をとり、どんな葬儀をしてほしいか、遺産はどう分けてほしいか……など、元気なうちに決めて手続きしておけば、それを確実に実行してもらえます。
当時の開発チームの一人である正木むつ美さん(三井住友信託銀行 個人業務管理部次長)は、このプロジェクトにかけた思いをこう話してくれました。
「もともとは、人生100年応援団として立ち上げた部署で開発されました。現場スタッフが、日頃から寄せられるお客様の困りごとの声を解決したいと考えたアイデアが、商品化のきっかけでした」
このプロジェクトは、社内コンペでイントレプレナー賞を受賞。さあ、どうしたら世の中にフィットするか。試行錯誤の日々が始まりました。
「銀行的な発想としては、財産を守っていくというのが根本にあります。しかし、50~60代の女性にとって、その時点で数百万円のお金の使い道を確定してしまうことが難しい場合もあるでしょう。それが当人にとって本当にいいのかどうか……。そこで、毎月払い/年払いなどで負担を軽くすることを考えて、生命保険型を導入し、無理のない範囲で準備をしていくプランも追加しました」(正木さん)
「おひとりさま信託」のメリット
現在、「おひとりさま信託」の利用者で一番多いのは、60~70代の女性だとか。
「女性は統計的に『おひとりさま』になる確率が高いからでしょうか。それとも、女性と男性では、そもそも特性が違うからでしょうか……。私も含め、男性は自分が死ぬとか、その後どうなるかなどを想像したくないのかもしれません」と語るのは、「おひとりさま信託」の開発時にチームリーダーを務めていた谷口佳充さん(三井住友信託銀行 人生100年応援部 特別理事)。
一般的に長生きするであろう女性には、それなりの準備が必要なのも頷ける話。今(この先)自分が死んだら、住まいはどうするのか。どんな葬儀を希望するのか。甥っ子に後を託すことになれるけれど、遠方に住む彼になるべく迷惑をかけたくない……。一生懸命働いて買った愛着のあるブランド品のバッグは、かわいい姪っ子にぜひとも譲りたい。そんなさまざまな思いや希望にも、「おひとりさま信託」が役に立ちます。
「お客さまには、今の時点での情報を書き入れていただくエンディングノートを配布しています。そこに、葬儀のご要望や知らせたい人リスト、遺品の送り先などを書き入れていただきます」(正木さん)
このエンディングノートが秀逸なのは、デジタル遺産についても工夫されていること。銀行の通帳や株の取引明細など、金融関係の書類も紙からデジタルへ移行している今、銀行のキャッシュカード、スマートフォンやパソコンなどの暗証番号も記しておかなければ、遺族は情報を取り出すのにも膨大な時間とコスト、煩雑な手続きが必要になるのは必至。
「一覧にしておくことで、後に残された親族の負担は大幅に減ります。実際、ご遺族の方からは「『おひとりさま信託』があって本当に良かった」とのお言葉をいただいております」(谷口さん)
「おひとりさま信託」という商品が世に出て4年。インターネットでの問い合わせのほか、口コミでも広がり、興味をもつ女性は確実に増えているそうです。
「故人となられた方の思いや希望に沿い、すべての手続きを完遂するために、チーム一丸となって動いています。それが、私どもを信頼して託していただいたことへの責任であり、信託銀行としての誇りです」(谷口さん)
豊かに充実したセカンドステージのために
「おひとりさま期」というと、「セカンドステージ」に入ったばかりの50~60代女性にとって、「まだまだ先のこと」と感じるでしょうか。
しかし、早めに「おひとりまさ期」について考えることは、いったん「これまでの人生」を振り返り、人生の棚卸をすることにつながります。すると、「これまで、よく頑張ってきたな」と誇らしい気持ちで満たされたり、老後や死後への漠然とした不安が少し和らいで、気持ちが落ち着いたりする人もいるでしょう。
そんなふうにこころが満たされたら、まだまだ気力も体力もある「セカンドステージ」が本当に貴重で、愛おしい時期に感じられるはず。
あなたは、セカンドステージで、何をしたいですか?
「もう一度、学び直したい」「死ぬまでに楽器を習ってみたい」「全然違う仕事をしてみたい」−−そうした「これからの人生」を前向きにイメージするために、一度「おひとりさま期」について考えてみませんか。
取材・文/ひだいますみ 撮影(人物)/小倉雄一郎、横田紋子