脳刺激療法で頭部外傷後の手や腕の機能が回復か
脳卒中や外傷性脳損傷(TBI)で手や腕の機能を失った患者に対し、脳深部刺激療法(DBS)を施行することで一部の機能が回復する可能性のあることが、米ピッツバーグ大学物理療法学助教のElvira Pirondini氏らの研究で示された。この研究結果は、「Nature Communications」に10月1日掲載された。
DBSは、手術で脳に電極を植え込み、特定の活動を制御している脳領域に電気信号を送って刺激を与える治療法で、パーキンソン病による運動障害の治療目的で施行されることが多い。Pirondini氏は、「腕や手の麻痺は、世界の何百万人もの人々の生活の質(QOL)に大きな影響を与えている。現在、脳卒中やTBIを経験した患者に対する効果的な解決策はないが、脳を刺激して上肢の運動機能を改善するニューロテクノロジーへの関心が高まりつつある」と説明する。
脳損傷は、随意運動の制御に不可欠な脳領域である運動皮質と筋肉との間の神経接続を障害する可能性がある。これらの接続が弱まると、筋肉の効果的な活性化が妨げられ、腕や手の部分麻痺や完全麻痺などの運動障害が生じる。研究グループは、弱まった神経の接続を活性化させるためにはDBSが有効ではないかと考えた。DBSは、過去数十年にわたり、パーキンソン病などの神経疾患の治療に革命をもたらしてきた。
Pirondini氏らは、脳卒中患者の腕の機能を回復するために脊髄の電気刺激を使用して成功したピッツバーグ大学の別のプロジェクトからヒントを得て、運動制御の重要な中継ハブとして機能する運動性視床核と呼ばれる部分をDBSで刺激すると、物をつかむなど日常生活に不可欠な動作を回復できるのではないかとの仮説を立てた。
ただ、この脳領域へのDBSが実際に行われたことがなかったため、まずサルにDBSを施行する実験を行った。サルは人間と同様に、運動皮質と筋肉が神経経路を通じて連携しているため、実験対象として適当と考えられたのだという。その結果、刺激を加え始めるとすぐにサルの筋肉の活動性と握力が著しく改善することが確認された。不随意運動は認められなかった。
そこで、両腕に高度の麻痺をもたらした脳損傷に起因する腕の震えを改善する目的で、DBSの植え込み手術を予定していた人間のボランティアを対象に、サルの実験のときと同じ設定でDBSを行った。その結果、研究参加者にDBSの刺激を加えると、コップを取ろうと手を伸ばす、つかむ、持ち上げるといった動作を、刺激を加えなかった場合よりも効率的かつスムーズに行えるようになることが示され、人間でもDBSにより運動の範囲や強度が改善することが確認された。
論文の共著者でピッツバーグ大学てんかん・運動障害プログラムのJorge González-Martinez氏は、「DBSは多くの患者にとって人生を変える治療法となってきた。DBSは世界中の数百万人もの人々に新たな希望を与える治療法だ」と同大学のニュースリリースの中で述べている。
González-Martinez氏らの研究グループは現在、DBSの長期的な効果を検証し、刺激を継続することでTBIまたは脳卒中の患者の腕や手の機能をさらに改善できるかどうかを確かめるための研究を行っている。(HealthDay News 2024年10月2日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nature.com/articles/s41467-024-52477-1
Press Release
https://www.upmc.com/media/news/100124-dbs-study
構成/DIME編集部
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