「スポーツの日」の前日にあたる10月13日、スポーツ庁は毎年行っている「体力・運動能力調査」の令和5年度の結果を公表した。
この調査は、国民の体力・運動能力の現状を明らかにするため、昭和39年以来、毎年実施しているもので、今回の調査で調査開始以来60回目の節目となった。
テスト項目は握力や上体起こし、長座体前屈、反復横とびといったお馴染みの項目があり、国民の体力・運動能力の現状を明らかにする目的で行なわれたものである。
そんな調査結果から「握力」の不思議について紹介したい。
運動を「しない」割合は男性は40代前半、女性は30代後半が最も高い
運動能力のピークは一般的にいつだろうか。おそらく多くの人が自身の経験と照らし合わせて「10代後半から20代前半」くらいだと想像するだろう。その認識は間違っていない。
事実、調査結果の概要でも次のように総括されている。
「一般的傾向として、ほとんどの項目の記録は、男子が女子を上回ったまま成長とともに向上を示し、女子が中学生年代でピークレベルに達するのに対して男子では高校生年代でピークレベルに達する」
高校、大学で運動習慣があった人も社会人なるにしたがって、だんだんと運動の頻度も減り「最近、太ってきたな…」なんて話は聞き飽きるほど聞いたエピソードトークだ。
今回の調査結果でも各年代の運動・スポーツ実施状況において「週1日以上」と回答した者の割合を、平成10年度、平成22年度、令和5年度で比較したグラフが掲載されているが、令和5年度の回答では男性は30代ごろから大きく運動習慣が減少し、40代前半が最も少ない。女性は19歳が一番少ないが、20代で少し回復した運動習慣は男性同様に30代で大きく減少し、30代後半が最も少ないという結果となっている。
また、運動を「しない」と回答した割合も令和5年度のデータでは男女ともに30代後半が最も多い。
スポーツ庁「【報道発表】令和5年度体力・運動能力調査の結果を公表します」より
握力のピークは、男性が30代後半で46.28kg、女性が40代前半で28.16kg
しかしながら、不思議なことに先に紹介した調査結果の総括には、次の一文が付記されている。
「ただし、握力は、男女ともに青少年期以後も緩やかに向上を続け30歳~40歳代でピークレベルに達し、他のテスト項目に比べピークに達する年代が遅い」と。
令和5年度の握力の調査結果は次の通りである。
令和5年度体力・運動能力調査報告書「統計数値表」より
一体なぜだろうか。運動習慣が少なくなっていくのは調査結果からも明らかで、加齢による筋力の衰え(サルコペニア)は、社会課題の一つである。なぜ握力だけは上昇し続けるのだろうか。
スポーツ庁の健康スポーツ課も「我々は調査を行なっているだけなので、理由までは分からない」と話す。
この調査では、調査対象の母数や対象の属性(例えば、運動をしている人のみを対象にしているなど)の偏りは存在していない。ということは、握力は30代以降も鍛え続けられるということがデータからは示されているということである。
確かに、握力に関わる前腕や手の筋肉は、比較的小さな筋肉である。
そのため、日常的な活動(重い買い物袋を持つ、ドアの開閉、掃除や庭仕事といった家事)でも下肢のような大きな筋肉に比べると比較的維持しやすい筋肉かもしれない。
また、握力は他の筋力と同様に加齢によって低下するが、低下のスピードは緩やかだと言われている。そのため、加齢による筋力の低下より、こうした日常生活の中での筋肉の使用経験や活動量の蓄積が上回り30代後半~40代前半でピークに達するとの意見もある。
しかしながら、いくらデータが示してはいても、下っ腹は出てきて、身体の様々な部位が悲鳴を上げ始めている30代後半~40代前半が握力のピークとは、なかなか実感しにくい人も多いのではないだろうか。
取材・文/DIME編集部