2024年11月1日、多くの国民が注目する改正道路交通法が施行される。
なぜこれが注目されているかというと、この法改正により「自転車の飲酒運転」に対する罰則が有史以来初めて明示化されるからだ。
しかも、その罰則は「自動車並み」になるという。この記事では11月からの改正道交法の内容を取り上げつつ、我々一般市民が気をつけるべき点を取り上げて解説したい。
「飲酒運転」は厳罰化の一途
飲酒運転に対する刑罰は、1984年生の筆者の成人期から年を追う毎に厳しくなっていった。
筆者が高校生だった頃、酒気帯び運転に課されるペナルティーは微々たるものだった。2002年(平成14年)6月の改正道路交通法施行以前の酒気帯び運転は、6点の減点と3月以下の懲役又は5万円以下の罰金で済んでいた(参考:内閣府)。この頃の筆者は神奈川県内の格闘技道場に週3日通う練習生だったが、ある日道場の先輩がこんなことを言い出した。
「俺の嫁と子どもが乗った車が、飲酒運転の車に追突されて廃車になったんだよ。幸い、嫁も子どもも無事だったんだけど、相手は平謝りで“何とか示談で済ませてくれ”って要求してるんだ」
現代の10代20代に言っても信じてもらえないかもしれないが、この時代の飲酒運転事故加害者は免停と示談だけで事を穏便に済ませていた……ということもあったのだ。
もちろん、今では示談だけでは済まない。酒気帯び運転、酒酔い運転共に違反点数が大きくなり、呼気中アルコール濃度によってはすぐさま免許取り消し処分が課される。また、飲酒事故加害者に対する社会的制裁もある。民間、官公庁を問わず、飲酒事故を理由とした職員の懲戒免職を決定する事例は珍しいものではなくなった。
ハンドルキーパーという単語も、飲食店スタッフが客に車での来店かそうでないかを問う行為も、代行運転の積極的利用も、筆者が二十歳を迎えたあたりの時代(2000年代後半)から始まっている。
■自転車を提供した人に対する罰則も
そして、今年11月からはいよいよ「自転車の酒気帯び運転に対する罰則規定」が施行される。
血液1mlにつき0.3mg以上、もしくは呼気1Lにつき0.15mg以上のアルコールが検出された場合(多くの場合は呼気検査だが)、罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。何とこれは、自動車と同じ基準である。今年10月31日まで、自転車の酒気帯び運転に対する罰則は「なし」ということを考慮すると、これは急激な厳罰化と言えるだろう。
その上、酒類と自転車の提供者にも罰則が規定される。酒類の提供者に対しては2年以下の懲役または30万円以下の罰金、自転車の提供者は運転者と同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金である。
たとえば、筆者がAくんの自宅で酒を飲んでいたとする。途中でつまみが足りなくなり、近くのコンビニへ買い物に行こうという話になった。この時、筆者がAくんから借りた自転車に乗って出かけたとしたら、筆者だけでなくAくんにも「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が課される可能性が出てくるのだ。
自転車運転者講習制度の対象拡大
また、此度の道交法改正には「自転車運転者講習制度の対象拡大」も伴っている。
これは、自転車による危険行為を繰り返した人を対象にした制度で、受講命令を受け取った人は3時間6,000円の有料講習に臨まなければならない。それを拒否した場合、5万円以下の罰金を支払う必要が生じる。
これらの罰則強化の周知活動は、既に全国各地で行われている。同時にこれは、警察が路上を走る自転車の呼び止めと呼気検査を強化しているということだ。改正道交法施行後の11月以降、特に年末年始はこうした取り組みが強化されていくだろう。
「自転車で飲み屋へ」は禁忌に!?
自宅と繁華街の間に距離があり、徒歩では往復できない。だから自転車を使って夜の楽しみを満喫しよう……という考えは、今年11月からは文字通り禁忌になる。自転車に対しても「飲んだら乗るな」が徹底され、酒類を提供する飲食店もそれに歩調を合わせるだろう。
また飲酒をした人に対する自転車の貸与・提供も罪になるということは常識としてインプットしておくべきだ。筆者はこのあたりで「知らなかった、そんなことで書類送検されてしまうのか」と後悔する人が続出するのでは……と邪推している。
だが、自転車が時として歩行者を死亡させてしまう凶器になってしまうことも事実である。自転車は「車両」であり、それに乗る人にはモラルと責任が問われることを今一度確認するべきだろう。
【参考】
内閣府
警察庁(PDF資料)
警視庁
取材・文/澤田真一