建築を教養として語れるようになる
『366日 世界の名建築 ─歴史に名を刻む巨大建築から驚きの芸術的現代建築まで』
監修/磯達雄
三才ブックス 2640円
円安やインフレの影響もあり海外旅行する日本人は減少傾向だ。インターネットや翻訳ソフトの進化で海外の情報もすぐ取れるし、国内旅行だけで十分楽しめると考える人も多い。そんな時代だからこそ、海外での体験価値が高まっている。そのきっかけとなるのが本書だ。
古代から現代までの世界の名建築を、毎日ひとつ学べる写真集。366日分の名建築が美しい写真と解説とともに掲載されている。このような日付形式の本の良いところは、本を開くことのハードルが低いこと。購入日や読者の誕生日のページは確認したいところだ。思わぬ時代・国の名建築と出会い、教養を学べる。
もちろん日本の名建築も15紹介されいる。隈研吾、安藤忠雄、伊東豊雄、坂茂など世界で活躍しているスター建築家の作品ばかりだ。まずは日本の名建築から体験してみたい。
財界人と建築家の胸熱な夢実現ストーリー
『夢のホテルのつくりかた』
著/稲葉なおと
エクスナレッジ 2420円
国内外500軒以上を泊まり歩いた建築士による「ホテル作りの物語を描いたガイドブック」。夢の実現のために奔走する人々の情熱が伝わってくる。
印象的なのが、日本人で唯一、世界長者番付で1位となった堤義明と建築家・村野藤吾の設計のやりとり。堤は建築家を信頼しつつも、自らも必死に建築を学び、打ち合わせ時には必ず鉛筆と定規を準備し、提案することも多かった。
当時43歳の堤に「思う通りにやってほしい」と言われた85歳の村野が命懸けで設計に取り組む。正月返上で図面に向かう村野だが、京都宝ヶ池プリンスホテル(現・ザ・プリンス京都宝ヶ池)の設計中、心筋梗塞のため他界。師の残した言葉を頼りに設計を完成させる所員たち……巻末には「夢のホテル」のマップも掲載されている。胸熱な物語に思いをはせ、休日に泊まるホテルを探したくなる。
カフェ巡りや街散歩の景色が一変
『カフェの空間学 世界のデザイン手法』
著/加藤匡毅
学芸出版社 3300円
カフェで仕事する人々が、日常風景になってから久しい。お気に入りのカフェリストがあるビジネスパーソンも多いと思う。本書では、そのリストに加えたくなる39のカフェを、美しい写真とスケッチを用い建築的に解説している。
著者は、隈研吾事務所で設計者としてキャリアをスタートし、世界15か国以上でカフェや建築設計を行なう一級建築士。
一般的な建築写真集と違い、掲載されている写真・スケッチには、街並みやバリスタ、コーヒーを楽しむ人々も映っている。自分だったら、どの席でくつろぐかを想像できるのも楽しい。
著者によるスケッチに寸法が入っていたり、ディテール写真が豊富だったりするのは、設計実務者にはありがたい。自宅をカフェ風にリノベしたい時にも役立つ。
空間の読み解き方を理解でき、カフェ巡りや街散歩する時の景色が変わる一冊。
〈選者〉一級建築士・間取りのセカンドオピニオン 船渡 亮さん
複数の住宅会社に在籍後、独立。これまで3000件以上、間取り診断を行なう。YouTubeチャンネル『アキラ先生の住まいの間取り教室』を配信中。著書に『この間取り、ここが問題です!』(講談社)がある。
文/編集部 撮影/黒石あみ