アメリカの景気状況を示す重要な指標の一つである雇用統計。これはアメリカ労働省が国内の雇用情勢を調査した経済指標のことで、毎月第1金曜日に発表される。
内容は小売業雇用者数、製造業雇用者数、建設業雇用者数、さらに週平均労働時間や平均時給と多岐におよぶが、最も重要視されるのが失業率と非農業部門雇用者数だ。
その増減はFOMC(連邦公開市場委員会)の金融政策の決定にも大きな影響を与えるため、常に国内外から大きな注目を集めている。
そんな9月米雇用統計に関して、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏からリポートが届いているので概要を紹介したい。
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雇用統計は予想を上回る結果も米経済は緩やかに減速、利下げは継続との見方は変わらず
10月4日発表された9月の米雇用統計において、非農業部門雇用者数は前月比25万4000人増となり、市場予想の15万人増を大幅に上回った。
また、7月と8月の実績が上方修正され、雇用者数は合計で7万2000人増、さらに失業率は8月の4.2%から4.1%に低下。平均時給の前年比伸び率は3.9%から4.0%に上昇するなど、今回は、米雇用情勢の底堅さを改めて確認する結果となった。
雇用統計は月次の振れ幅の大きい経済指標だが、雇用者数は均してみれば緩やかな減少傾向にあることがわかる(図表1)。
三井住友DSアセットマネジメントでは米国経済について、現時点で巡航速度(1.8%程度)をやや上回る成長ペースにあるものの、今後は徐々に巡航速度まで減速していくと考えており、年内は11月と12月に、2025年は四半期に1度、それぞれ25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)ずつ利下げが行われるとの見方を維持している。
■米雇用の底堅さの確認で景気不安後退、米株高、ドル高・円安となり日本株の強い追い風に
雇用統計発表後の米金融市場は、長期金利上昇、ドル高、株高で反応、週明けの日経平均株価はこの流れを引き継いで上昇。午前の取引で一時3万9500円台をつける場面もみられた。
今回の雇用統計で、
(1)米景気の先行き不安が和らぎ、
(2)ダウ工業株30種平均が最高値を更新するなど、米主要株価指数が堅調に推移し、
(3)米大幅利下げの織り込みの後退により、
ドル高・円安が進んだことは、日本株にとって強い追い風だ。
一方、フェデラルファンド(FF)金利先物市場に目を向けると、10月1日時点でFF金利は2025年末にかけて3%を割り込む動きが見込まれており、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」で示すFF金利の適正水準(中央値)を大きく下回っていた(図表2)。
ただ、今回の雇用統計を受け、10月4日には2025年の大幅利下げの織り込みが一気に修正され、これがドル高・円安の一因となった。
■株高の持続性の見極めには米景気に加え、目先は国内企業の中間決算での業績予想が重要
なお、9月26日に米国に上陸したハリケーンや米港湾でのストライキの影響は、10月の雇用統計にあらわれる見通しで、10月分はいったん雇用の悪化も予想されるが、理由が明確である以上、市場のネガティブな反応は限定的とも考えられる。
この先も、引き続き雇用を中心とする米経済指標の見極めは必要で、仮に指標の悪化が目立つようになれば、前述の(1)から(3)の動きが逆転して、日本株には強い向かい風となる恐れがある。
国内では10月下旬から3月期決算企業の中間決算が本格化する。東証株価指数(TOPIX)を構成する主要3月期決算企業による今年度の業績予想は、8月14日時点で、売上高が前年度比+3.1%、営業利益は同+4.3%、経常利益は同-3.9%、純利益は同-3.3%となっている。
今般、業績予想を上方修正する動きが顕著となれば、株高の持続性は高まると思われるため、中間決算への注目が集まる。
構成/清水眞希