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アメリカの中華料理店で必ず出てくる「フォーチュンクッキー」の謎

2024.10.09

日本人はアメリカの地方を旅行すると食事に苦労する。都会から離れるにつれて外食の選択肢がどんどん限られたものになっていき、米も味噌も魚も食べられなくなるからだ。どれだけハンバーガーやステーキといったアメリカの食事が大好きな人でも、毎日それを食べ続けることは難しい。

そのようなときに我々の救いとなってくれるのは中国料理店の存在だ。アメリカ中どこへ行っても、そこがどんな辺鄙な土地でも、中国料理店は探せば必ずあるからだ。一口に中国料理店と言っても、高級レストランからファストフード系チェーン店まで、その規模や形態は様々だ。だが、ひとつだけ「アメリカの」と限定して中国料理店に共通しているものを探すとすれば、それはフォーチュンクッキーである。

ロサンゼルス中華街にあるレストラン。映画『ラッシュアワー』に登場した。

フォーチュンクッキーのアドバイス

フォーチュンクッキーとは中におみくじのような紙片が入った菓子のこと。大抵の場合は食事の後に請求書と一緒にテーブルへ運ばれてくる。ファストフード系の店だと、支払いレジで手渡されることもある。

いずれにしても、中国料理店とフォーチュンクッキーは切っても切れない関係にある。ただ、そこには「アメリカでは」と言う但し書きがつく。

フォーチュンクッキー。割ると中からメッセージが書かれた紙片が出てくる。

おみくじのような、と前述したように、フォーチュンクッキーも中にどのようなことが書かれているかは、クッキーを割るまで分からない。短い文章で運勢を占うものや、あるいは格言が記されていることもある。食事の後にそれを読むことを楽しみにするのは、もはやアメリカの文化と呼んでもいいだろう。

昼食で中国料理店に行き、そこで渡されたフォーチュンクッキーそのものは食べなくても、中に入っていたメッセージ紙片をデスクやコンピューター画面に貼るビジネスマンは多い。

インターネットの分野に詳しい人は、”HTTP cookie”という言葉には馴染みがあるはずだが、その名称の由来はフォーチュンクッキーだとする説があることは知っているだろうか。「包みに入って外側から見えないメッセージ」だからという理由だが、真偽のほどは定かではない。しかし、アメリカ社会にフォーチュンクッキーの存在が広く浸透していることを象徴するエピソードではある。

テイクアウトであってもフォーチュンクッキーはついてくる。

もっとも、フォーチュンクッキーのメッセージはしばしば陳腐なアドバイスの代名詞のように使われる。

ジャッキー・チェン主演の映画『ラッシュアワー2』では、ジョン・ローン扮する香港マフィアのボスが「貪欲は我々を閉じ込める」と格言らしきものを口にしたラスベガスのホテル王を刺し殺す場面がある。そのときのローンのセリフが「フォーチュンクッキーのような○○はうんざりだ」である。

日本語字幕ではどのように訳されたかは知らないが、上の○○の中には上品とは言い難い単語が入る。ただ、アメリカ人にとっては理解しやすい表現であったことは確かだ。

フォーチュンクッキーは日本発祥?

ところで、よく誤解されることだが、フォーチュンクッキーは中国由来のものではない。あくまでもアメリカにある中国料理店の間で広まった習慣である。

その発祥の経緯については、サンフランシスコの日本人移民が辻占煎餅をアメリカに広めたとする説と、中国人移民がロサンゼルスで始めたとする説がある。

ロサンゼルス市内の中華街。

慶応義塾大学文学部の岩間一弘教授による労作『中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて』では、明治初期にサンフランシスコへ移民した萩原眞氏が国際博覧会の日本庭園に設けられた茶屋で提供した辻占煎餅こそがフォーチュンクッキーの元祖であるとしている。1920年代頃からはロサンゼルスの日本人街リトル・トーキョーの「ウメヤ」がフォーチュンクッキーを大量に生産して、当時は多かった日系人経営の中国料理店(チャプスイ・レストランと呼ばれていた)に提供していた。

それに対して、中国人フォーチュンクッキー発祥説を唱えたのは香港からアメリカへ移住したデビッド・ユン氏である。第1次世界大戦の少し前、1918年に氏がロサンゼルスで創業した「香港ヌードル」社がフォーチュンクッキーを発明したとする主張である。1983年にサンフランシスコで行われた歴史模擬裁判ではフォーチュンクッキーの起源は萩原氏にあると認定している。

日本人としては日本発祥説を信じたくはなる。ただ、どちらの説が正しいにしても、フォーチュンクッキーは100年以上も前にカリフォルニアのアジア系移民社会から生まれたことは確かなようだ。

ロサンゼルス市内の日本人街リトル・トーキョー。

日本人も中国人も、アメリカへ渡った移民は様々な苦難を乗り越えなくてはならなかった。今はアメリカのどこにでも見られるフォーチュンクッキーではあるが、そこに至るまでには厳しい人種差別や偏見と戦ってきた先人たちの言語に絶する苦労があったことは覚えておきたい。

現在でもロサンゼルスの日本人街と中華街はほぼ隣りあわせと言ってよいくらいの近距離にある。ロサンゼルスの中央駅にあたるユニオン・ステーションから地下鉄(Metro)で南側へたった1駅行けばリトル・トーキョー(日本人街)駅であるし、反対の北側にあるのはチャイナ・タウン(中華街)の駅だ。

文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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