■連載/阿部純子のトレンド探検隊
大谷選手の89万2440km分の「移動」分を夢を追う若者に支援
JAL は大谷翔平選手と、日本中の夢に挑戦する若者たちを応援するための「DREAM MILES PASS(ドリームマイルパス)」プロジェクトを始動。プロジェクトシンボルとして、大谷選手をデザインした特別塗装機「DREAM SHO JET」 が9月29 日より就航した。
近年、若者を取り巻く社会課題として「移動格差」や「体験格差」との問題が指摘されている。部活動の遠征費用が家計を圧迫し、部活動を辞めざるを得なくなったり、海外留学の渡航費や学費が捻出できず断念してしまったりするケースなど、移動の経済的負担が夢を叶える障害になってしまっている。
JALが今年9月に現中高生・大学生、若手社会人の世代へ行った調査では、約4人に1人が「移動を理由に夢を諦めたことがある」と回答。部活動顧問ら教員への調査では全体の6割以上が、「現役の学生は他の世代と比べて移動機会が減っている実感がある」と答えるなど、移動機会の減少による他世代との「体験格差」の影響が明らかになった。
「JALグループは2018年から大谷翔平選手をサポートしておりますが、今年は前人未踏の50-50の達成、さらに記録を更新するなど、素晴らしいご活躍にインスピレーションを得まして、移動が必要な若者たちを応援する試みとして、ドリームマイルパスプロジェクトをスタートいたします。
コロナ禍では人の移動そのものが制限されましたが、昨今の物価高や円安も相まって、特に若者にとって移動のコストは大きな課題となっており、移動格差や体験格差が若者の夢を阻む壁となっていると言われています。
大谷選手が、花巻東高校入学から現在に至るまでの総移動距離を算出したところ、地球22周分ほどになる89万2440kmもの『移動』を重ね、夢を叶えてきたという事実に着目しました。大谷選手の総移動距離をベースとして、これから夢の実現のために移動が必要な若者たちに、それぞれの出発地から目的地までの航空券を提供します。
また、大人たちが夢を追う若者たちを応援できるよう、JALマイレージバンク会員の皆さまがご自身の持つマイルを寄付すると、1マイル=1円相当として、いただいたマイル相当額の航空券を提供していき、大人たちもこのプロジェクトに参画できる仕組みとしました。
ちなみにこの89万2440km、少々強引な語呂合わせですが『野球にSHO』と読めて、偶然ですが大谷選手にぴったりの数字となっております。
プロジェクトのシンボルとして、大谷選手の勇姿を大きくあしらった特別塗装機『DREAM SHO JET』は初便の羽田―新千歳便から始まり、夢を追う若者たちを応援したいと思っております」(日本航空株式会社 代表取締役社長 鳥取三津子氏)
「DREAM SHO JET」は、左側は座席番号45A~58Aの窓側席に約3.8m(画像上)、右側は座席番号45K~55Kの窓側席に約3.5m(画像下)の大谷選手の塗装を施している。
2026年3月ごろまで就航を予定しており、「DREAM SHO JET」限定のMLBのロゴ入り紙コップ、機内リーフレットなどの機内品も搭載する。
「DREAM MILES PASS」発表会には、JAL社員アスリートである、陸上女子やり投げの北口榛花選手、フェンシングの加納虹輝選手が登壇、大谷選手の特別塗装機や、プロジェクトへの想いを語った。
北口選手「大谷選手が大きく描かれていてすごくかっこいいですし、同じスポーツ選手としては憧れる部分も大きいです。自分がもし描かれるのなら、さすがに寝そべってもぐもぐしているところは難しいでしょうから(笑)、やっぱりやりを構えているところですよね。
インターネットやSNSでなんでも見られる時代だからこそ、スポーツでも留学でも修業でも本場を体験することは、特に若い世代の方々には大事だと思います。生で見るのと画面を通して見るのはまったく違います。
移動が障害になっていることを初めて知りましたが、実際に行かないとわからないこともたくさんあるので、このプロジェクトをきっかけに若い方々が目指しているもの、追求しているもの、興味があるものを生で見る機会が増えるといいなと思っています。
また、支援される若い世代も、多くの大人に支えてもらってチャレンジができるということをしっかり感じながら、このプロジェクトでいろんなものにチャレンジしてほしいと思います」
加納選手「大谷選手が機体に3人分も描かれているので、夢に向かっている若者も、それを応援している大人たちもこの機体に乗ってパワーをもらってほしいなと思います。
フェンシングは競技中顔が見えないので誰かわからないでしょうから(笑)、描いてもらうとしたら、得点を取って勝ってマスクを取っていくところでしょうか。
フェンシングに限らず、対戦競技は強い選手と数多く対戦をすることでどんどん強くなり、成長していけると思っています。住んでいる場所の周りだけでは強い選手はなかなかいない場合もあるので、全国の合宿に行くことも大事ですし、若いうちから海外の選手と試合や練習を一緒にすることが将来的にとても重要になります。
しかし、フェンシングは道具がかなり大きいことあって、移動の費用面が負担になることもあります。移動に障害を感じている若者にこのプロジェクトを活用して、今までは難しかった合宿や遠征で強い選手と対戦して、成長する機会になってもらいたいと思います」
【AJの読み】期間限定ではなく“割引料金”として永続的な支援が望まれる
大谷選手が今まで移動してきた89万2440kmは、花巻東高校入学時からメジャーリーグの現在(2024年8月末)まで、大谷選手が在籍していたチームの公式試合よりJALが移動距離を算出した。国境を越えた移動、球場間の移動とその距離は地球約22周分に及ぶ。
「DREAM MILES PASS」は、留学、スポーツ、音楽、アート、各職の修業など、自身の夢を実現するために国内外に移動する若者たちに、大谷選手の移動距離の分を航空券でプレゼントして支援するプロジェクトだが、応募制で応援マイル数によって当選者数が変動し、複数回の実施を予定しているが2026年3月までと期間が限定されている。
JALの「スカイメイト」など、航空各社には若年層向けの学割料金があるが、今プロジェクトのような、スポーツの遠征や留学などに対応する割引料金の設定といった、期間限定のプロジェクトに留まらない、永続的な支援システムがあればよいのではないかと感じる。
取材・文/阿部純子