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おにぎりの中に揚げパン!?台湾で愛され続けるソウルフード「ファントゥアン」とは?

2024.10.06

海外B級グルメ列伝「世界はうまいで満ちている」

「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にある。で、みなさんはこう考えたことはないだろうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。

というわけで世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「絶品ソウルフード」を大紹介するシリーズ。今回は台湾から「飯糰(ファントゥアン)」をお届けする。

今回紹介する一品。炭水化物の爆弾「飯糰(ファントゥアン)」。

台湾のソウルフード「飯糰(ファントゥアン)」、炭水化物の具が炭水化物という斬新さ

「飯糰」とは、もち米を使ったおにぎりのこと。別名「台湾おにぎり」ともいわれている。おにぎりといっても三角形ではなく、俵状だ。

もともとは中国の江南(長江下流域の南岸)地方の食べ物だが、台湾で広まったのは今から100年ほど前の日本統治時代。当時の台湾では、鉱業に従事していた人が多かった。鉱業労働者の食事時間は不規則で、かつ、炭坑内での飲食は非常に不便だった。当時は冷蔵庫もない。そのため、炭坑での労働を始める前に、食べ残した食事をひとつに圧縮し、竹の葉などでくるんで保存しておく方法が普及した。

その後、冷蔵庫の普及とともに飯糰を竹の葉でくるんで保存する習慣はなくなったが、これが飯糰の起源だと言われている。

台湾には朝5時ごろから昼過ぎの時間帯まで営業する「早餐店(ザオツァンディエン)」(日本語だと「朝ごはん屋」)という営業形態の店があり、飯糰は主にそこで売られている。ビジネス街ではおしゃれ感が漂う飯糰専門店もあり、朝や昼間は飯糰を買い求める人たちで行列ができている。

朝ごはん屋。看板に「飯糰」の文字が見える。

飯糰専門店。ビジネスマンたちに人気だ。

店によって中身はさまざまだが、具材として「油条(ヨウティアオ)」と呼ばれる揚げパンが入っているのがスタンダードだ。おにぎりに揚げパン?炭水化物イン炭水化物?だが、飯糰ではこれが王道なのだ。

手前にあるスープ(鹹豆漿(シエンドウジアン))の中に浮いている茶色い食べ物が「油条(ヨウティアオ)」。単品でも食べられるほか、さまざまな台湾料理にトッピングされている。

カロリーが気になること間違いないのだが、サクサクの揚げパンの食感がもちもちの米とマッチし、ついつい食べ進めてしまう。味だけでなく食感までもが至福だ。

油条がトッピングされた飯糰。

さらに特徴的なのが、「肉鬆(ロウソン)」という甘じょっぱい肉でんぶと、「酸菜(スァンツァイ)」という野菜の漬物が入っていること。

下段奥の右から2番目が肉鬆、下段手前の左から3番目が酸菜。さまざまなトッピングがある。

肉鬆は台湾人が大好きな食材のひとつだが、日本人にとっては甘みが強すぎるため好き嫌いが分かれる。筆者も最初肉鬆を食べたときは「甘すぎないか?!肉なのに!」と、脳が混乱した。

ところが飯糰の具材として油条や酸菜と一緒に口に入れると、肉鬆の甘さが酸菜の酸味とうまくマッチし、お互いのアクの強さをうまく中和し合う。そこに油条が全てをふわっと包み込む包容力を発揮。非常に良い仕事をしている。

飯糰の具材として食べたことで、これまでの肉鬆嫌いが噓のように治ってしまった。それどころか今は「肉鬆なければ飯糰に非ず」と思うまでの肉鬆信者だ。人の嗜好を一瞬にしてここまで変えてしまうとは・・・おそるべし飯糰。

価格は1個40元(約180円)~60元(約270円)程度。コンビニのおにぎり1個とほぼ同じ値段だ。非常にリーズナブルだが、飯糰のボリュームはコンビニのおにぎりの1.5倍ほどある。目を見張るほど大きい。

左が飯糰。コンビニのおにぎり、はんこ(直径10㎜)との大きさ比較。高さだけでなく厚みもある。

ランチにこれを1つ食べれば、よほどの大食漢ではない限り、夕食まで余裕で持つだろう。

なお現在の台湾では、ランチの時間帯に100元(約450円)で食事できれば、それはかなり安い部類に入る。ちょっと気取ったお店で食べようものなら、ランチで300元(約1350円)以上があっという間に飛んでいく。なのに飯糰は40元~60元。つまり、非常にコスパが良いのだ。飯糰が現代社会で愛されている理由は、日本統治時代から受け継がれている歴史の長さや美味しさに加えて「コスパの良さ」にもあるだろう。

ベジタリアン大国でも愛されるバリエーションの豊かさ

「ベジタリアンが多い国・地域」と聞いて、みなさんはどこを思い浮かべるだろうか。ヒンズー教徒が多いインド?セレブが多そうなアメリカ?と、人によって思い浮かべる国・地域は異なるかもしれない。

ヴィーガンを含むベジタリアンは世界で6.3億人、その8割がアジアの人たちだ。そして人口比でみると、1位がインドで28%、2位は台湾で、人口の14%(約330万人)がベジタリアンだと言われている。

そんな「知られざるベジタリアン大国・台湾」において、飯糰は人々の需要にしっかりと応えている。専門店で飯糰を頼むと「肉あり?肉なし?」と聞かれる。肉や魚が具材に入っていない「ベジタリアン向け飯糰」が当たり前のように売られているのだ。

ベジタリアン向け飯糰のほかに、健康志向が高い人のために、栄養価が高い紫黒米で作られたものも売られている。かと思えば唐揚げがたっぷり入ったものなど、カロリー度外視のものも人気がある。

個人の嗜好やその日の気分に合わせて選べるバリエーションの豊富さは、飯糰が台湾人のソウルフードとして愛されてきたことの証だ。

とうもろこし入り飯糰。袋を開けたらこの形状で現れた。

「味」「コスパ」「信仰」「嗜好」という人々のニーズにしっかりと応えているにも関わらず、思わず見た目にツッコミを入れたくなる、愛すべき飯糰。飯糰は今日も台湾全土で人々の胃袋を満たしている。世界はうまいで満ちている。

文/市川美奈子
台湾在住ライター。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。小学生男子の母。台湾のB級グルメの豊富さに惹かれ、台湾ならではのB級グルメを楽しんでいる。平日の昼ごはんや休日の朝ごはんに息子と共に飯糰を頬張る日々を送っている。

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