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便利な合鍵も諸刃の剣!?「鍵」による侵入犯罪の効果的な解決策

2024.10.06

住宅の鍵を破り、侵入してくるいわゆる「侵入犯罪」。この件数は、警察庁のデータによれば、平成中期から令和4年までにかけて減少を続けてきたが、令和5年になり、なんと増加に転じてしまった。こういった現象に隠された時代背景とは何か。また、こういった「侵入犯罪」に投じることができる解決策とはどのようなものか。「血流認証」の開発を進める、バイオニクス株式会社の須下社長に聞いた。

1. 侵入犯罪件数が増加に転じた社会的背景・その1

侵入犯罪件数が増加に転じた背景として考えられるものは、2つあるかと想定しています。まずは、個人情報の流通についてです。昭和・平成の時代で侵入犯罪というものは、犯罪を起こす人は、お金がありそうな家をなんとなく選んで金品を狙うというケースが多くありました。それゆえに、ある意味「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」といった考えで侵入犯罪を行っていました。犯罪件数が多いのも納得です。

しかし、近ごろでは、しっかりと金品があるところに狙いを定めて侵入する、というケースが増えていると考えます。なぜ狙いを定めることが出来るのか。それは、”個人情報が流出している”からです。金品を狙うべきかどうか、指標になるのはやはり「納めている税金」についての情報でしょう。この情報が何らかの形で入手できてしまい、狙いを定めやすくなっているという現状があります。

昔は、近所の人が自由に自分の家にお茶を飲みに来たりしていた風潮もありましたが、今ではもちろんそんなことはなく、表札に自分の苗字も出さないような時代になりました。
これは、欧米からの「個人情報は貴重な物である」という価値観の波が日本に入ってきたという背景があります。そして、人間の心理というのは不思議なもので、「貴重なものだ」「見てはいけない」と言われれば、それだけ手に入れたくなる、見てしまいたくなるものです。

個人情報が価値を帯び、その価値を売り買いするという闇市場が生れ、何かしらの方法でその個人情報を手に入れることができてしまっている。これがひとつにあると思います。

2. 侵入犯罪件数が増加に転じた社会的背景・その2

次に、現代の子ども~少年少女における教育環境に起因する社会のもつれについてです。昭和の時代などは、子ども友達同士でけんかする際にも、やっていいこと、ここから先はやってはいけないこと、といった判断力が日常生活の中で自然と育成されていたのではないかと思います。しかし、現代においては、自分の感情をコントロールできない子どもたちが増えており、両親から過剰に甘やかされている子供や、生徒との距離感の取り方が難しくなった学校教育現場が増えていると感じます。勉強はできるが、どこまでが限度かという感覚が乏しい側面も持ち合わせた人が増えているように感じます。

また一昔前の日本は近所の大人たちが「育ての親」のような部分があったと思います。親の目を盗んで悪い事をしていたら、近所の大人たちに見つかってこっぴどく叱られた時代でした。つまり地域社会全体で子供達を育てていた側面があったように思います。近年ではこの地域社会構造も大きく変わり、「他人の子供のやる事は知らんぷり」的な社会となってしまったことも犯罪が増えた原因の一つと感じます。

同時に貧困の問題も無視できないかと思います。貧困から抜け出せず闇バイトや特殊詐欺の手先になってしまうというケースや、家庭環境等からの孤独感を埋めるためにホストクラブにお金をつぎ込んだ少女が、お金が無くなってしまうことで追いつめられ、犯罪に至ってしまうケースも見聞きします。こういった社会的な背景が、首都圏だけでなく、地方でも増えていることが、世の中全体の「侵入犯罪」件数の増加につながっているといえるのではないでしょうか。

3.合鍵は安全なようで、実は危険…ではどうすればよいのか

さまざまな企業が犯罪を防ぐため、容易に合鍵を作られないよう、日々研究を重ねています。しかし、それでも合鍵が作製されてしまうケースが後を断ちません。それはなぜなのでしょうか?

大きな理由としては、Webサービスなどを通じて鍵に印字されている番号さえ業者に伝えれば簡単に合鍵は作製可能であること。また、件数は減りましたが今でも残るピッキングによる侵入もあります。他にもさまざま手口はありますが、これらは「鍵の流通」に問題があると考えています。新しく鍵の製品を開発しても、その製品が誰でも買えるような状態になってしまえば、犯罪を行う側からすれば「どのようにすればピッキングできるか」を研究できてしまいます。

 しかし、製品を開発する以上、それが世の中に流通してしまうのは仕方のないことです。それではどうすれば合鍵を作られないようにできるのか。それは、「自分自身が鍵になる」という新しい視点だと考えます。カードやスマホなど、自分の身体以外の個体が鍵を開けるツールになるのは、紛失のリスク並びに偽造のリスクを伴います。しかし、「自分自身が鍵」になってしまえば、そういったリスクもなくなるのではという発想で、よく話題に上がるのが「生体認証」システムです。いわゆる顔認証などがそれにあたります。

しかし、顔認証も安心できない世の中になってきました。現在のAI技術をもってすれば、顔認証システムを通過できてしまうような画像を作成することが可能となってしまったのです。顔認証だけではありません。指紋認証など、体の表面に出ている情報は、すべからくして複製可能となってしまっているのです。

ところで、体の「表面」がNGならば???そうです、「内部」に注目すればよいのです。現在、血管の張り巡らされ方がひとりひとり違うというところに目をつけた「血流認証」というシステムの研究が進んでいます。これは、複製不可能な体の「内部」データを用いたものの一例です。

現在、「血流認証」が導入されている場所は、まだまだこれからですが、すでに官公庁関係・オフィス関係・一般の住宅にも導入されており、セキュリティ面に強く重きを置いている場所にて積極的に採用されています。

4.「侵入犯罪」問題に投じることのできる解決策

前述の通り、侵入犯罪の件数は令和5年から増加に転じています。今後、さらにセキュリティ面に関しての検証を継続する必要があります。同時に、今まで比較的安全と言われてきた「顔認証」などの生体認証システムも、突破されてしまうような時代がやってくることでしょう。そこで役に立ってくるのは、体の表面のデータを用いたセキュリティではなく、「血流認証」など、簡単に模倣されない「体の内部のデータ」を駆使したセキュリティシステムなのではないかと考えています。

文/須下幸三

バイオニクス株式会社代表取締役。 大阪府大阪市出身。関西大学経済学部卒業後、ニチメン株式会社(現:双日株式会社)入社。NY転勤、渡米した先で生体認証システムと出会い、研究へと傾倒する。2001年にバイオニクス株式会社を設立。血流認証装置の製品化に成功してから、何度も改良を重ね、誤認証が1人たりとも生じないシステムを目指している。現在は99%の精度を誇る装置の開発まで成功している。

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