岸田文雄総裁の退任に伴う自由民主党総裁選挙が2024年9月27日に実施され、高市早苗氏と石破茂氏による決選投票を経て、石橋氏が第28代総裁に選出された。
石破氏は直ちに党役員人事と閣僚人事に着手。注目の財務大臣には、総裁選にも立候補した元官房長官である加藤勝信氏の起用が決まった。
そんな一連の動きに対して、市場はどのように反応したのか。三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏の最新リポートからお伝えしたい。
石破氏勝利で増税や早期利上げへの警戒が強まり、市場は長期金利上昇・円高・株安で反応
9月27日に投開票が行なわれた自民党総裁選挙は、最初の投票でアベノミクスの継承を掲げる高市早苗氏が得票数トップとなったことで、積極財政と金融緩和継続への期待から国内市場は長期金利低下、円安、株高で反応した。
しかしながら、その後の決選投票で、石破茂氏が逆転勝利し、第28代総裁に選出されると、一転して長期金利と円は急騰。日経平均先物は下落する展開となった。
これまで石破氏は、金融所得課税の強化は「実行したい」、税負担能力のある企業には「負担をお願いしたい」、所得税は負担増の「余地がある」と発言しており、また、日銀については「独立性を尊重」するとしている。
そのため、石破氏の総裁選勝利を受け、増税や早期追加利上げに対する市場の警戒が一気に強まり、長期金利上昇、円高、株安で反応したと推測できる。
■早期増税は考えにくく日銀は従来の慎重な利上げ判断継続とみられ市場の反応は一時的か
【図表:石破氏の主な政策と主張】
(注) 防衛増税について、政府は2022年、防衛力の抜本的な強化に必要な財源として、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目で増税などの措置を複数年かけて実施する方針を決めている。各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメントが作成
石破氏の主な政策と主張は上の図表のとおりだが、石破氏は総裁選後に出演したテレビ番組で、「必要であれば財政出動する」、「民間需要が少ないときは財政出動しないと経済が持たない」と述べている。
また、日銀の判断なので政府が言うことではないとしつつも、「金融緩和の方向性は維持していかなければならない」との見解を示し、「貯蓄から投資の流れをもっと加速していかなければならない」と明言した。
そのため、石破氏が首相に指名された後、早々に増税に踏み切ることはないと思われ、日銀はこれまでとおり、見通し実現の確度や、米国などの海外経済、金融資本市場の動向を見極めつつ、慎重に利上げの判断を行なっていくと考えている。
したがって、石破氏の総裁選勝利後の長期金利上昇、円高、株安の反応は、かなり投機色が強く、一時的なものにとどまる可能性が高いと思われる。
■市場の不安定さが続けば石破氏は財政運営と日銀の独立性尊重について丁寧な説明が必要に
石破氏は10月1日召集の臨時国会で首相に指名された後、直ちに組閣を行う見通しだ。幹事長は森山裕総務会長(旧森山派会長)、選挙対策委員長に小泉進次郎元環境相(無派閥、菅前首相に近いとされる)を起用し、林芳正官房長官(旧岸田派)は続投とみられる。
また、党副総裁に菅義偉前首相(無派閥)、党最高顧問に麻生太郎副総裁(麻生派会長)を充てる方針で、石破氏が挙党態勢の構築に動いている様子が見えてくる。
報道によれば、石破氏は10月4日に所信表明演説に臨み、7日からの各党代表質問を経て、9日に衆議院を解散。総選挙は15日公示、27日投開票の日程で最終調整に入った模様。解散前に党首討論も想定されている。
党首討論では、政治資金問題が大きな焦点になるとみられるが、仮に市場の不安定な動きが続いた場合、石破氏は財政運営と日銀の独立性尊重の考え方についても、改めて丁寧な説明が必要になるはずだ。
構成/清水眞希