今、リトリートという旅のスタイルに注目が集まっている。
日常の喧騒から離れ、心身のリフレッシュやリラクゼーションが主眼とされるリトリートツアーは、富裕層や美容や健康意識高い女性たちといった一部の人のためのものと思われがちなのですが、欧米では多くの企業が従業員の健康サポートプログラムとして提供しており、実は、現代のビジネスパーソンにこそ必要という認識が高まっている。その流れを受け、日本でもようやくもっと活用されるべきものとして需要が高まってきている。
今回『エグゼクティブが実践するニーマルメソッド 心が整うマインドフルネス入門』の著者、ニーマル・ラージ・ギャワリ氏が代表を務めるメディテーションテック企業suwaruが主催するリトリートツアーの体験から得た知見を元に、“リトリート”がビジネスパーソンにとっていかに効果的かを紹介していく。
リトリートツアーは、仕事をより良く活性化する最適な処方箋
まずリトリートツアーとは、どういったものなのか。特徴としては、山、海、森林など自然豊かな場所で、ヨガ、瞑想、ボディトリートメントなどを行い、食事も極力ヘルシーなものを摂取するなどといったプログラムが提供される。健康やウェルネスに焦点を当てたツアーである。確かにハードワークをこなす現代のビジネスパーソンにとってのリフレッシュ機会としては重宝されるかもしれないが、それがどれだけ仕事の質の向上や効率アップにダイレクトにつながるか、という点に関しては、いささか疑問を持たれる方もいるだろう。
しかし、激変する現代のビジネスシーンにおいて、リトリートツアーこそが、仕事をより良く活性化するための最適な処方箋として、世界的に脚光を浴びているのだ。
VUCA時代、ワークライフスタイルの変化がリトリートのブームを生んだ
海外でリトリート旅がビジネスパーソンに普及している背景には、現代の働き方やライフスタイルの変化が大きく関係している。
新型コロナウイルスなどのパンデミックの問題、急激な気候変動、AI技術などの技術革新、グローバル化、働き方の多様化…将来の予想が全くもって見えない未曾有な状況に陥っている現代。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、 Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって、VUCA(ブーカ)という略語でも表現されるほどビジネス環境や社会情勢は激動しているわけであるが。そんな中、フィジカル的にはもちろん、精神的にも過度なストレスが高まりバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥るリスクも高まっており、今まで以上に心身のケアが必要とされている。
また働き方自体に、柔軟に対応できる思考、迅速な意思決定、革新的なアプローチが求められるようになっていきている。これまた昨今、話題のキーワード、リジリエンスというやつである。ストレス管理、感情調整、前向きなマインドセット、クリエイティブな柔軟性と適応力、問題解決力…。VUCA時代に困難な状況に直面しても柔軟に対応し、持続的に成果を上げていくにはリジリエンスの力がビジネスパーソンに求められているのだ。
そこで注目を集めているのがマインドフルネス的スキルなのだ。ヨガ、瞑想など、昨今のリトリートの要となっているプログラムはストレスを軽減するなど心身の健康を総合的にサポートするだけでなく、上記の集中力や創造的能力を高める効果を上げる効果が明らかになっているのだ。つまり現代のビジネスシーンに最も必要とされるレジリエンスを獲得できる最高のツールなのである。
日本では、ヨガは美容やダイエットといったフィットネス用途の認識の域を脱しておらず、瞑想も宗教的な怪しいものという印象が未だ強い。しかし、海外、特に欧米では、ビジネスシーンでのヨガや瞑想の活用が盛んになっている。
ストレス軽減、集中力向上、精神的健康の改善など、ヨガや瞑想の効果が、最近、科学的に証明されるようになり(この辺りに関しては『エグゼクティブが実践するニーマルメソッド 心が整うマインドフルネス入門』にも科学的エビデンスと共に紹介されいる)、多くの人々が健康維持の一環として取り入れるようになった。多くの著名人やスポーツ選手がヨガや瞑想の実践を公言し、その効果を強調することが世間の関心を引き、より広い層への普及を進めた。
例えば、アメリカでは、この10年で瞑想人口は劇的に増加した。2022年の国立健康統計センター(National Center for Health Statistics, NCHS)の調査によれば、アメリカでは成人の約17.3%が瞑想を実践していると報告されている。これはおよそ3500万人に相当する。(参考:National Center for Complementary and Integrative Health「Meditation and Mindfulness: Effectiveness and Safety」)
時代的にワークライフバランスの向上を重視する傾向も高まり、従業員の健康と幸福が業績に直結することが認識されるようになり、企業もリトリートトリップを福利厚生の一環として取り入れるようになった。
大手電機メーカー、ジェネラルエレクトリック社はエグゼクティブ向けに自然の中でのリトリートを実施し、リーダーシップ開発を行っている。
ヨーロッパ最大のソフトウェア会社SAPではヨガや瞑想のリトリート的マインドフルネスチャレンジを取り入れ、社員のメンタルヘルスをサポートしている。
世界のビジネスの現場では、疲れた社員を癒やすためのうマイナスをゼロにするリフレッシュ施策ではなく、収益を上げ業績のプラスを生み出すための積極的な取り組みとして欠かせないものという認識になってきているのだ。
現代のビジネスパーソンにとってリトリートツアーの重要性が高まっている世界的な状況の紹介に終始し、本題のリトリートツアーの内容にたどり着けず仕舞いで今回の記事は幕を閉じることになるが、次回、ニーマル氏のリトリートツアーの特筆すべき点を紹介していきたい。
ニーマル・ラージ・ギャワリ氏
母国ネパールにて9歳よりヨガを学び、15歳から指導を開始。ハタヨガメディテーション及びアーユルヴェーダを学び、22歳で博士号を取得。20カ国でメディテーションを指導し、2003年に来日。2019年に瞑想・マインドフルネス・ヨガ等を用いて、ライフスタイルにおけるウェルビーイング事業を展開するスワル株式会社を設立。著書に『黒感情がら消える ニーマル10分瞑想』、『美顔ヨガ』(小学館)など。