目次
2024年の最新調査から「ジャパンブランド」の現在地について、特に「インバウンド」に焦点を当て、どのような変遷をたどって現在地にたどり着いたのか、過去調査を振り返ることで、より深く日本に対する世界の認識を理解していきたいと思います。
中里 桂さん
株式会社電通
第4マーケティング局 コミュニケーション・ディレクター
入社以来、マーケティングセクションに所属。食品、飲料、化粧品、アパレルなど多岐にわたる分野の企業や官公庁のコミュニケーションプランニングを担当。官公庁・自治体の海外広報案件にも数多く取り組んできた。2013年から「電通ジャパンブランド調査」の実施を担当。電通 チーム・クールジャパン メンバー。
「日本好き」8割をキープ。アメリカとオーストラリアでファン増加中
ジャパンブランド調査では継続的に日本に対する好意度を聴取しています。2024年の結果では「好き」と回答した人は全体で約8割と、10年前と変わらず高い好意度を維持しています。国・地域単位で比較すると、アジアが上位であることは変わりませんが、順位はやや変動して、現在では東南アジアの国々がトップ3を占めました。
他方でアジア以外の国を見ると、アメリカが順位を上げ、5年前と比較してスコアも+7.2pt(10年前と比較すると+8.0pt)と大きく向上しています。またオーストラリアも2019年から順位は変わりませんが、スコアは+5.3ptと上がっており、この両国では訪日観光客も増えているなど、好意の高まりとともに日本への関心やアクションが増えていることがうかがえます。
好意とともに訪日意向も爆上がり!のアメリカ、オーストラリア、インドと、 好意に関係なく訪日意向爆上がり!のドイツ
訪日意向の推移を、聴取を開始した10年前から追ってみると、2019年に一度落ち込んだ国があるものの、全体的にスコアを維持・向上している国が多数ありました。特にコロナ直前の2019年と比較すると、好意度が上がったアメリカやオーストラリア、ランキングTOP5に返り咲いたインドでは10pt以上もスコアが爆上がりしています。
過去の記事でも書きましたが、日本好きであることが訪日意向を後押ししているのではないかと考えられます。他方で、2019年と比較して好意は上がっていませんが、訪日意向を大きく伸ばした国としてドイツが挙げられます。
ドイツは中国本土に次いで出国者数が多く、世界有数の旅行大国と言われています。海外旅行慣れてしているドイツの人から、好意とは関係なしに、旅行先としての日本の魅力が評価されている、ということなのではと推察されます。ジャパンブランドへの好意や関心からの訪日ではなく、訪日旅行を契機とした好意の醸成や、さらなるジャパンブランドへの関心の広がり、というルートも期待できます。
北海道から沖縄まで、地方に行きたい気持ちも爆上がり!
京都に行くと、以前はアジアから来ている観光客が多い印象でしたが、今では欧米人の観光客の多さに驚かされます。過去との比較でもその傾向が出ています。訪日意向に大きく変化があった国が多いコロナ前(2019年)と比較してみると、行きたい都道府県について、全体では「京都」と「大阪」のスコアが上がっていました。
さらに、訪日意向が大きく上がったアメリカ、オーストラリア、インド、ドイツでもその傾向があり、10pt以上スコアが上がっている国もあります。また京都、大阪以外についてはそれぞれの国で特徴が見られました。
「沖縄」もしくは「北海道」が気になっているアメリカとオーストラリア、東京から電車や新幹線で足を延ばせる範囲の「埼玉」「静岡」「山形」が気になるインド、海外旅行慣れしているドイツでは、歴史的な場所である「福島」「広島」(欄外になりますが次点で「長崎」)に対する意向が高まっています。
ニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」では盛岡市が、「2024年に行くべき52カ所」では山口市がそれぞれ選ばれました。日本の地方への注目が高まっていることも、訪日意向が大きく伸びている背景にあると考えられます。
日本でやりたいことの幅の広がりが、訪日意向や地方意向爆上がりのカギ?
では、日本で行きたい場所が広がっていることの背景には何があるのでしょうか?選択肢は異なりますが、「日本でやりたいこと」を聞いた質問の上位10項目を、参考までに約10年前となる2015年調査と2024年調査で並べて比較して見ると、その内容に変化が感じられる結果となりました。
「日本食」は、2015年調査当時から日本でやりたいことの上位に入っています。アメリカ、オーストラリア、インドではその傾向は変わらず、2024年調査のランキング上位には食関連の項目が2つ入っているなど、さまざまな角度から日本食を体験したいというニーズが感じられます。
特にインドでは、他の国・地域と比較すると、10年前は日本食への関心はあまり高い方ではありませんでしたが、2024年調査の結果では順位が上がっており、日本食への関心そのものが大きく高まったことがうかがえます。
他方で、ドイツは、日本食以上に「日本庭園」や「神社仏閣巡り」など、純粋に観光したいものが増えており、旅行好きなドイツの人たちの嗜好(しこう)が分かりやすく出ていると言えます。
また、オーストラリア、インド、ドイツでは「日本の世界遺産を巡る」という項目や「新幹線に乗って地方観光へ行く」という項目も上位に入っており、前述した地方への意向の高まりの背景に、こうした「日本でやりたいこと」の多様化があることが改めて確認できました。
インバウンドの動機にもなる日本食も幅と奥行きUP!
最後に、訪日する大きな動機になっている日本食の広がりについても見てみたいと思います。約10年前の2015年調査では、日本料理で食べたいものを聞くと「寿司」「天ぷら」「刺し身」がトップ3でした。
2024年調査では「日本に行って食べたい物」という聞き方をしましたが、「ラーメン」が単独で1位という結果になっています。また日本の伝統料理として「会席料理」が挙がり、「鉄板焼き」といったエンタメ性のある日本食が順位を上げました。さらに「から揚げ」「とんかつ」などの揚げ物、「エビフライ」といった洋食なども上位にランクインし、体験したい日本食の幅や奥行きが広がっていることがうかがえます。
昔からある定番の「The和食」からそうではない日常グルメまで、体験したい食の楽しみが増えることがさらにインバウンド意向を押し上げる、そういうポジティブな連鎖が生まれていることが読み取れました。
今回は、10年以上続くジャパンブランド調査の推移を、「インバウンド」という視点から切り取って見てみました。日本と言えば東京、日本食と言えば寿司、という画一的な認識から、この10年で日本に関する情報が増え、幅と奥行きが出てきたこと、それらがインバウンドを後押ししている。肌感覚として多くの人が感じているであろうことが、調査結果からも明らかになりました。
今後ますます多様な体験を求めて日本のあらゆる場所に観光客が足を運ぶようになると想像されますが、ここを足掛かりに、さらに多くの人にジャパンブランドとの接点を増やしていくためにはどうすればよいのか、引き続きジャパンブランド調査プロジェクトチームで考えていきたいと思っています。
※1:本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
※2:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
【本件に関するお問い合わせ先】
電通ジャパンブランド調査プロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp
【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年に調査設計とアウトプットを大きくリニューアルし、全社横断プロジェクト活動へと進化。
訪日観光や食分野、日本産品、コンテンツ、価値観などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。
【電通ジャパンブランド調査2024概要】
・対象エリア:15カ国・地域(アメリカ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・インド・アラブ首長国連邦・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・中国本土・香港・台湾・韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)
・サンプル数:7460(内訳:アメリカ960、インド900、中国本土800、その他の国・地域 各400)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2024年1月19日~3月26日
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ
※3:中国本土の対象エリアは上海・北京、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルールに限定。
※4:中間所得者層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
※5:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
※こちらの記事はウェブ電通報からの転載記事になります