あらゆるインフラが充実した今、山奥でもビジネスができる時代
『山奥ビジネス 一流の田舎を創造する』
著/藻谷ゆかり
新潮社 858円
果たして都会の生活は豊かなのだろうか。コロナ禍もあり、地方へ移住するという暮らし方を少しでも考えた方はいるのではないだろうか。
本書はタイトルどおり、山奥でビジネスをしている人たちの事例を紹介し、そこに共通するコンセプトを紹介している。山奥といっても、現在は高速道路が整備され、インターネットも行き渡り、物流インフラも整えられている。やり方によっては、ビジネスが成り立つような時代になったのだ。
酒蔵、ジェラート店、パン工房、アパレル・生活雑貨店など、観光地や都会ならばまだしも、人口の少ない土地で成り立つのか不思議に思えるビジネスが丁寧に取材されている。
高齢化、シャッター通り、限界集落など、地方の衰退という文脈とは反対に、地方ならではの明るい可能性が見えてくる。「持続可能性」という言葉が重視される昨今において、普段とは少し異なった視点で生活やビジネスを捉えてみるのに最適な1冊だ。
エンタメ業界を知ればゼロイチのビジネスがわかる
『エンタメビジネス全史「IP先進国ニッポン」の誕生と構造』
著/中山淳雄
日経BP 1980円
映画、音楽、出版、テレビ、ゲームなど、エンタメ業界の各ジャンルは、これまでどのように成立し、どのような経緯を経て、現在のビジネスモデルを確立してきたのか。
エンタメビジネスの構造自体は、クリエイターが生み出したコンテンツをコンシューマーに提供してお金をもらうというシンプルなものだ。しかし、技術革新によって、新たなメディアが登場すると、エンタメ業界には新たなプレーヤーが登場し、ゼロから業界が立ち上がる。見世物として始まった興行から音楽や出版、ラジオ、映画、テレビ、そしてインターネット動画へ。こうした新陳代謝が激しい業界だからこそ、その過程をよく見れば、ビジネスのヒントが見えてくるのだ。
本書は、エンタメビジネスの教科書ではあるが、それだけにとどまらない。時代の変化に応じて、ゼロイチでビジネスモデルを革新し続けるための参考書でもある。エンタメ業界の関係者でなくとも参考になるだろう。
まだまだ闘える!美食から日本の再生は始まる
『「フーディー」が日本を再生する!ニッポン美食立国論
時代はガストロノミーツーリズム』
著/柏原光太郎
日刊現代 1870円
世界の飲食店ガイド『ミシュラン』において、東京は16年連続で星を獲得したお店が最も多い都市になっている。さらには京都、大阪も星の数で5位以内に入る。日本は世界でも類を見ないほどの美食大国だ。この「美食」をコンセプトとして観光客を呼び、地方を活性化しようという最近の動きを紹介しているのが本書である。
SNSの発展により飲食店の情報が見える化され、世界中のレストランを食べ歩く「フーディー」と呼ばれる人たちが登場した。こうしたフーディーの存在が、シェフとの共生関係を作り、交通の不便な場所でもレストランが成り立つこととなった。そして、人がやってくれば、その周囲には経済圏が生まれる。日本の地方には観光資源も多い。
失われた30年などと暗いイメージを持たれがちな日本経済だが、すばらしいコンテンツはあるし、マーケティング次第でまだまだ世界で闘える。読めば、新しいビジネスの切り口が見つかるかもしれません。
〈選者〉bookvinegar 坂本 海さん
ビジネス書の書評メディア『bookvinegar』編集長。半導体商社、ベンチャーキャピタルを経て、2011年、ブックビネガーを設立。これまで2500冊以上のビジネス書を紹介し、今もその数を更新中。