かつて夢のマイホームと呼ばれ幸せの象徴でもあった持ち家。65歳以上の持ち家率はなんと8割を超えています。しかしいまや、その持ち家がどんどん空き家に。老朽化や管理不全で、安全や景観を脅かし、近隣住民に迷惑をかけるなど社会問題となっています。
その対策として2023年には空き家対策特別措置法が改正され、空き家を放置すると固定資産税が4倍以上跳ね上がることも。すでに実家が空き家になっている人はもちろん、いずれ空き家になるかもしれない人も、いまから対策を講じておくに越したことはありません。
そこで、今回は『待ったなし! 実家の空き家問題を片づける本 2024年最新版』(宝島社)から、実家が空き家になる前にやっておくべきことをご紹介。多くの問題は、相続する前に話し合っておくことで解決できます。
実家が空き家になる前にやっておくべきこと【実家の空き家問題】
〈空き家問題の原因をシャットアウト〉相続が始まる前に家族会議をしよう
■いらない実家が骨肉の争いの原因に
相続争いといえば、多額の遺産をめぐって子ども同士が権利を主張し合うイメージがありますが、近ごろはむしろ逆で、資産価値がなく誰も住む人がいなくなった実家をめぐり、骨肉の争いが展開するケースが増えています。
このようなトラブルの大きな原因は、実家の持ち主であった親の意向がわからないことにあります。生前、家族で話し合いもせず、遺言書なども残さなかった場合、相続人はそれぞれ好き勝手なことを主張します。しかし、誰も正解がわからないため、なかなか決着はつきません。その間にも、家の価値はどんどん下がり、やがて売りたくても売れない、貸したくても貸せない“負動産”になってしまうのです。
〈空き家をめぐってよく起こる!〉相続人同士のもめごとベスト3
[1]押しつけ合う
誰も住まず、売却も賃貸もしようのない田舎の実家は相続のお荷物に。管理に手間もお金もかかるため、 兄弟姉妹で押しつけ合い、実家を相続する人が決まらなくなってしまいます。
[2]売る・売らないで意見が対立
実家を巡っては「住みたい」「売って現金を分けてほしい」など、相続人同士で意見が対立することがしばしば。話し合いがいつまでもまとまらないと、実家が宙に浮いた状態で空き家化してしまいます。
[3]とりあえず共有名義にした結果、もめごとが大きくなる
「平等に権利があるのだから共有名義にしよう」 は、平和的な解決策のように見えて実は正反対。結局は空き家の処分が先延ばしになるだけ。共有者同士で売る、貸すの意見が合わなかったり、清掃やメンテナンス、管理にかかる費用負担でもめたりしがち。
■親が元気なうちこそ家の話をしよう
実家を“負動産”にしないためには、親が元気なうちに、相続や実家のゆくえを親子で話し合うことが大事です。
多くの人は、進学、就職、結婚といったライフイベントをきっかけに実家を離れます。親と顔を合わせるのは、お正月やお盆などに帰省したときだけ、という人も多いでしょう。短い滞在期間に相続や家の話はしづらいというのはもっともですが、意識して親と話す機会をつくるようにしてください。実家の空き家問題は、親子がお互いに相手の気持ちを聞きそびれ、言いそびれてしまうことで起こります。
たとえば、将来的に実家を相続しても住む予定がないならば、生前にその意向を親に伝えてみるのもいいと思います。きょうだいがいる人は、他のきょうだいも含めて家族会議ができればベストです。将来「話しておいてよかった」と思う日が必ずやってきます。
親も生きているうちに自宅の利活用について考えるきっかけになるのではないでしょうか。
〈空き家にしないために〉親子・家族でできること
[1]コミュニケーションの機会を増やす
面倒がらずに親子で会う機会を増やしましょう。家族会議とおおげさに考えなくとも、お盆、年末年始など遠く住む子どもも参加しやすいタイミングで、親のほうから声がけするのがベスト。親が動かない場合は、親孝行のつもりで子どもから食事や旅行に誘ってみる方法も。
[2]手遅れになる前に!認知症対策も準備しておく
親が認知症になり施設に入所すると、実家が空き家になることがよくあります。認知症になった親の名義の実家を、 子どもが処分することはできません。何もできなくなる前に財産をリストアップし、遺言書の作成や家族信託、成年後見制度など必要な対策にとりかかりましょう。
[3]実家の片づけは親が元気なうちに一緒に行う
「捨てる」「捨てない」は勝手に判断せず、親の意見を聞くことが大事。親が亡くなってからの遺品整理は、相続人同士の感情も入り乱れ難行することが多いもの。親が元気なうちに一緒に選別し、少しずつ家財を減らしておくことがゴミ屋敷を誕生させない秘訣です。
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『待ったなし! 実家の空き家問題を片づける本 2024年最新版』(宝島社)1320円
監修・牧野知弘
監修/牧野知弘(まきの ともひろ)
不動産事業プロデューサー、経済・社会問題評論家。東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストン コンサルティング グループ、三井不動産などを経て、オラガ総研代表取締役兼全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。著書に『知らないと大損する![図解]実家の「空き家問題」 をズバリ解決する本』(P H P研究所)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)ほか多数。