ライバルに目を向けてみるのも手
アップルのイベントでも振れられていたが、iPhoneはハードウエアとソフトウエアをひとつの企業が手がけ、統一した世界観で構成されていることが優れたユーザビリティや多彩な機能を生み出し、市場をリードしてきた。しかし、iPhoneを中心としたプラットフォームは、比較的、クローズドな仕様のため、それが逆にデメリットになるケースもある。
たとえば、利用促進の是非や実用性については、多少の議論があるものの、政府はマイナンバーカードをスマートフォンに搭載できるように対応を進めており、今年5月、ようやくiPhoneでもマイナンバーカードが搭載できることが発表された。ただし、実際に利用できるのは、来年春であり、まだ半年以上、利用できない。これに対し、AndroidプラットフォームはGoogleが早くから対応に積極的な姿勢を見せ、すでに2023年5月から利用が開始されている。つまり、iPhoneはマイナンバーカードを搭載できるようになるものの、ライバルに対して、2年遅れの搭載になるわけだ。一般的な商業サービスへの対応ならともかく、政府が提供する公的なサービスへの対応が2年も遅れてしまうのは、さすがに生活に欠かせないスマートフォンのプラットフォームとして、不十分ではないかという指摘もある。ちなみに、政府はデジタル社会の実現をより推進するため、現在のマイナンバーカードの後継バージョンを2026年中に実現したいとしており、2025年春に対応するiPhoneが次期バージョンにすぐに対応できるのかという不安も残る。
また、今回の「iPhone 16」シリーズはアップルの生成AI「Apple Intelligence」がセールスポイントとしてクローズアップされているが、スマートフォンにおけるAIについては、すでにGoogleの「Gemini」やサムスンの「Galaxy AI」などが通訳や翻訳、画像生成、文書の生成や要約、通話スクリーニングなど、実用的な機能を実現しており、「Pixel」や「Galaxy」などのスマートフォンで、ごく普通に利用できる。他メーカーでも今夏発売されたシャープの「AQUOS R9」では、着信に代理で応答する「代わりに聞いときます」機能が搭載され、すでに生成AIを応用した機能は多くの製品において、身近な存在になりつつあるわけだ。パソコンにおいてもWindows 11に搭載された「Copilot」、「Copilot」をフルに活かす「Copilot+PC」などが注目を集め、こちらも文書や図版、イラストなどを生成できるなど、生成AIを活用した多彩な機能が利用できる環境が整いつつある。
こうした状況を鑑みると、アップルは今回の「iPhone 16」シリーズで対応した「Apple Intelligence」によって、生成AIの遅れを巻き返そうとしているものの、他のプラットフォームはそれ以上に先行している感がある。それに加え、冒頭で触れた『フォルダブル』などのフォームファクターや高性能なカメラなど、iPhoneがまだアプローチできていない要素も数多くある。ユーザーとしては、今回の「iPhone 16」シリーズをチェックするだけでなく、今一度、ライバルのプラットフォームにも目を向け、生活やビジネスに欠かせないスマートフォンとして、何を選ぶべきなのかを検討し直す必要がありそうだ。
取材・文/法林岳之