シーズンごとに新商品が登場するビューティー業界。ここでもウェルビーイングなスタンスでものづくりに取り組んでいるブランドが増えている。
連載「Wellbeing Beauty by MICHIRU」ではビューティーディレクターのMICHIRUさんとともに、人を輝かせるビューティーアイテムの裏側にあるウェルビーイングな取り組みを掘り下げていく。
初回は都内にサロンを、ストアを全国に展開するトータルビューティーカンパニー「uka(ウカ)」を訪ねた。uka代表取締役CEO 渡邉弘幸氏に“サステナブルのその先”を見据えてスタートさせた新プロジェクトについて伺っていく。
左:uka代表取締役CEO 渡邉弘幸氏、右:ビューティーディレクター MICHIRUさん
10年ぶりのリブランディング。髪も地球ももっと良くなる循環へ
この7月、ウカは新たなプロジェクトとして「リジェネラティブ グッド(Regenerative Good)」シリーズをスタートさせた。その第1弾として登場したのが「uka IZU Shampoo/Conditioner(ウカ イズ シャンプー/コンディショナー)」ライン、10種のヘアケアアイテムとなる。
当シリーズが目指すのは、「わたしと髪と地球の、うれしい循環」。髪が良くなることと、地球が良くなることの両立を、原料の生産・選択から使用後に排水として流れていく成分にまで深く思いを寄せることで実現している。
前編では新プロジェクトスタートの背景と、キー成分の植物についてお話を伺っていく。
左:uka IZU Shampoo for damaged hair 、右:uka IZU Conditioner for damaged hair
MICHIRUさん(以下・MICHIRU):トータルビューティーサロンを展開されているウカさんにとって、ヘアケアアイテムのリニューアルはかなり大きな転機になるのではないかと思います。どのような意図で今回の「リジェネラティブ グッド」シリーズのリブランディングをされたのでしょうか。
渡邉弘幸さん(以下・渡邉):リニューアルについてはここ数年、ずっと模索していました。2013年に初めてのヘアケアシリーズを出した時と比べ、お客さまの髪の状態も取り巻く環境もかなり変化しています。気づくとサロンで現場に立つ若いスタッフたちが、うちのヘアケア製品をお客さまにお勧めしなくなっていたんです。
MICHIRU:現場やお客さまのニーズと合わなくなってきたんですね。
渡邉:これまで展開してきたヘアケア製品「ヘッドセラピーシリーズ」は、頭皮ケア発想から生まれたものです。シャンプーは排水によって生態系を乱さないアミノ酸系界面活性剤をベースにしながら豊かな泡立ちを叶えており、多くのお客さまに好評をいただいていました。
しかしコロナ禍に入って以降、髪をブリーチするお客さまが増え、当時よりもさらにヘアダメージが深刻化しています。よりクオリティを上げてハイダメージの髪もツルッと健やかに仕上げられる製品でないと満足してもらえないようになってきました。
MICHIRU:ヘアダメージもですが、ヘアカラーによるジアミンアレルギーに悩む方も増えていると感じています。昨年(2023年)は石垣島などで育ったオーガニックヘナを使用したヘナシリーズ「ウカヘナ」を発表されていますね。
渡邉:頭皮の悩みについては、少し前から僕たちも実感していました。ノンジアミンのヘアカラー剤を扱ったり、頭皮に残ったアルカリを除去できるようなスカルプブラシを販売したりしてきましたが、もっと根本的にアプローチできるものをつくりたかった。そんな時にヘナの素晴らしさを紹介いただき、また縁あって石垣島のヘナ農園の方との出会いもありました。植物成分であるヘナであれば、ウカが目指している髪にも人にも地球にも優しい提案ができる。そうやって、「ウカヘナ」は誕生しました。
そもそも40代の方に増えているジアミンアレルギーやヘアカラー、パーマをしたときの頭皮のかゆみやかぶれの悩みは、90年代のヘアカラーブームから蓄積されてきた頭皮や体への負担の表れ。そう思うと、今の若いお客さまたちが将来そういった問題に出会うことのないよう、傷めてしまった髪も頭皮も守れるヘアケア製品を提供していきたいと感じています。
MICHIRU:人と地球、両方の将来を考えて……。以前から取り組んでいたものづくりの姿勢が今回のシリーズに繋がっているのですね。
頭皮も土壌も豊かにするキー成分「クロモジ」との出会い
MICHIRU:「ウカ イズ シャンプー/コンディショナー」のキー成分はクロモジ。クロモジは本当に香りが素晴らしくて、私も好きな植物の一つです。でもその一方でお値段も高い。こんなに贅沢にシャンプーやコンディショナーに使っているものはなかなかないと思います。
渡邉:クロモジは髪や頭皮を清潔に保つリナロールという成分を豊富に含み、高い抗菌力や抗酸化力を持っている植物です。妻の季穂(ウカ代表)からもその良さはお墨付き。湿疹に悩み、いろいろな病院に通っていろいろな薬を飲んでも治らなかった時、クロモジに出会い、症状が改善した過去がきっかけです。ウカでは以前から頭皮のかゆみをケアするシャンプーに取り入れていて、すべてのレギュラー製品に使えたらと考えていました。しかし希少なものなのでそこまでの量が取れず、どうにかできないかとずっと探っていました。
フケ・かゆみに弱い敏感な頭皮の方向け。uka IZU Shampoo for scalp,hair&body ‘Anti-Itch’各種
MICHIRU:今回、原料に採用されているクロモジは伊豆半島の下田のもの。このクロモジとの出会いにも、渡邉社長ならではのストーリーがあったと伺っています。
渡邉:鎌倉のウエットスーツブランドzeroさんに、下田でクロモジを生産している方がいると教えてもらったのがきっかけです。zeroさんには僕のサーフィン用のウエットスーツを作ってもらっている縁で、廃材になっていたウエットスーツの素材を使ってウカのかかと用ソックス「ヒールモイスチャー メアリー」をつくらせていただいているんです。
で、話を聞くとそのクロモジの生産者の方は、元プロサーファーで海洋学者だと。どんな人なんだ!って思うでしょう? だから話を聞いてすぐに社員と一緒に会いに伺いました。なんせ待ち合わせ場所がビーチの駐車場ですからね(笑)。その人こそが今回ご一緒させていただいている佐藤延男先生です。
MICHIRU:海の研究をされていた方が、クロモジの生産?
渡邉:不思議に思いますよね。でも話を聞くと山と海の繋がりがストンと腑に落ちたんです。佐藤先生はもともと下田の海を研究材料に海の生態系などを調べていたそうです。その調査の中で地元漁師の方達から「海が痩せてきている」という話を聞き、山から流入してくる土砂に原因があると思い至った。下田の山はスギやヒノキの植林が盛んな時代を経て、今では間伐が行き届いておらず落葉樹が育たない状態になっていました。
落葉樹がない山は腐葉土が増えず、土が栄養不足になって樹木もしっかり根が張れなくなってしまう。その結果、鉄砲雨や大雨で簡単に土砂崩れが起きやすくなり、海にまで影響を与えていたんだそうです。「このまま行くと海が死んでしまう」と、佐藤先生は自ら山に入って間伐を始めたと言います。