7月にリコーイメージングが発表した『PENTAX 17』が、大きな話題を呼んでいる。
今は2024年。カメラといえばスマホ内蔵のデジタルカメラという時代に、何とハーフサイズのフィルムカメラを新しく発表したのだ。この英断に踏み切ったリコーイメージングには、大きな拍手を送らざるを得ない。
しかし、今の若者に「ハーフサイズカメラ」と言ってもなかなか理解してもらえないのでは? という不安もある。
そこでこの記事では、ハーフサイズカメラの基礎知識と魅力についてざっと述べたいと思う。
昔のカメラは「複雑な機械」だった
フィルムカメラは、現代のデジタルカメラとは異なり「フィルム」というものを搭載する(当たり前だ!)。
写真用フィルムの主流は135フィルム、いわゆる「35mm」だ。他にもいろいろなサイズが存在するが、少なくともたまの旅行にだけカメラに触れる一般家庭では35mmフィルム対応カメラが最も広く使われていた。
が、昔のカメラというものは「機械そのもの」である。露光、シャッター速度、焦点距離、ズームなどを一つ一つ操作し、シャッターボタンを押す。オートモードを可能にするコンピューターなどは存在しない時代である。それなりにカメラの使い方を学んだ人でないと、扱える代物ではなかった。
さらに、昔はフィルム自体が安いものではなかった。現代のデジタルカメラのように、あまりポンポンと撮ることはできなかったのだ。
そこで開発されたのが、「ハーフサイズのコンパクトカメラ」である。
ハーフサイズカメラの名機『ペン』
1959年に発売されたオリンパスの『ペン』は、その後長きに渡って様々な派生機種を生み出すロングセラーシリーズになった。
ハーフサイズカメラは、35mmフィルムの画像を縦に二分割してそれぞれを1枚と換算する。36枚撮りのフィルムで72枚撮影できるという利点も発生した(撮影後の画像は当然ながら縦長になる)。ただし、ペンが登場する以前は「画質が悪くなる」という理由でハーフサイズカメラはあまり普及していなかった。
そうした背景を抱えつつ、機能の簡略化とカメラとしての高性能を両立させたペンは(ハーフサイズカメラは小型化が容易だった側面もある)、歴史的名機として君臨するに至った。
今回は筆者の所有する『ペンEES』で撮影した写真をいくつか紹介しながら、さらに筆を進めていきたい。
スマホとの親和性は抜群!
ペンはそもそもが「誰にとっても扱いやすいコンパクトカメラ」として開発された製品だが、ペンEEシリーズになるとその方向性はますます顕著になっていく。
購入から箱出し直後、フィルムを入れて巻き上げダイヤルを回し、あとはシャッターボタンを押せば相応の写真を撮影できるというのがペンEEの設計コンセプトである。これは女性が自前のカメラを購入するという効果も生み出した。今とは違い、当時カメラは「男のもの」というイメージが根強く、実際に女性カメラマンは少なかった。そうした角度から見ても、ペンEEは世界カメラ史にその名を刻む機種と言える。
ハーフサイズコンパクトカメラは、男性カメラマンにとっても心強い相棒になり得る底力を有していた。サッと取り出して即座にシャッターボタンを押せるカメラは、この時代決して多くなかった。シャッターチャンスを逃さないサブ機としても、小さいボディのペンEEは大きな存在感を発揮した。
そんなハーフサイズカメラだが、2024年の現代では「縦長の画像を撮影する」という点が強みになっているのでは……と筆者は考えている。
スマートフォンというものが登場すると、一般大衆の撮影する写真は縦長が主流になった。
この記事ではペンEESの縦長の写真に横長の白背景をくっつけることでWebメディアでの掲載に適した画像にしているが、SNSでは縦長のほうがむしろ見やすくなるだろう。言い換えれば、ペンシリーズを含めたハーフサイズカメラで撮った写真とスマホは非常に整合性が高いということだ。
物価高とハーフサイズカメラ
また、昨今の物価高でカメラ用フィルムも値上げの一途をたどっている。フィルムカメラでいろいろなものを撮影することを趣味にしている筆者も、この価格高騰には腰を抜かしてしまったほどだ。家では母が「米も野菜もみんな高い!」と言って発狂する始末で、あぁもうどうしたものか……。
インフレに対する愚痴はともかく、「フィルムが高価」という状況が現代になって再来していることをここで強調しておきたい。そして、そんな逆風に打ち勝ちフィルムカメラを再び「趣味の王様」に沿える可能性をハーフサイズカメラは秘めているのだ。
そんなハーフサイズカメラを入手するには、いくつかの手段がある。冒頭のPENTAX 17を購入するという手もあるが、筆者のオススメは中古市場でペンEEを探すこと。この機種は今でも状態良好な個体に巡り合えることが多々あるので、運が良ければ生涯の相棒になってくれる1台を入手できるだろう。
文/澤田真一