最近、PFAS(ピーファス)という言葉をちらほら聞くようになった。
これは、有機フッ素化合物のことで、炭素とフッ素の化合物の総称。自然界にはほぼ存在せず、人工的に作り出された化学物質であり4千種類を超える。ニュースで時折目にするPFOSやPFOAも、PFASの一種だ。
こうした物質は、撥水加工がされた衣服、テーブルクロス、カーペットなどさまざまな製品に含まれるほか、こげのつかないフライパンコーティングなどの製造過程でよく使用されている。一言でいえば、われわれの身の回りにいくらでもある、ごくありふれた物質である。
そんな日常的な存在が、昨今注目を集めつつあるのは、体内に蓄積されて健康被害を及ぼす懸念が生じているからだ。
はたしてPFASは、人体にどのような害を及ぼしうるのだろうか? そしてその対策は?
今回は、PFAS問題を長年研究してきた、京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授に基本的なところも含めてうかがった。
社会問題として注目されたのは比較的最近
――私は、健康というトピックスへの関心は高いのですが、PFASはまったく視野に入っていませんでした。数か月前に先生の著書『水が危ない!消えない化学物質「PFAS」から命を守る方法』を読んで初めて知ったのです。PFASが問題として浮上してきたのは、いつ頃からでしょうか?
「PFAS自体は、化学メーカーの3Mが開発し、1940年代の後半から使い始めました。それほど昔からあるものなのです。
それが問題として注目され始めたのは21世紀に入ってからです。
PFASは、実にいろいろな製品に使われていますが、防水スプレーもそうです。一口に防水スプレーと言っても、シリコン系とフッ素樹脂系に分かれるのですが、フッ素樹脂系にPFASが含まれています。3Mの防水スプレーで『スコッチガード』というのがあります。それには、PFASが含まれています。ただし、危険性が明らかであったPFOSとPFOAは、2002年には使用を全面中止しています。
日本について言えば、2000年代後半にメディアで取り上げることもあり、研究者の関心も高かったのですが、その後はあまり取り沙汰されることもありませんでした。
しかし、2016年に沖縄県庁で水道を担当する企業局が、北谷(ちゃたん)浄水所の取水源である比謝川(ひじゃがわ)のPFASの濃度が高いことを公表しました。川の近くに米軍基地があり、そこから流れてくる水のPFASの濃度が非常に高かったのです。それで、基地問題で揺れる沖縄の人々の関心に火がつきました。
その後、2019年にNHKの『クローズアップ現代』で、沖縄のPFAS問題を取り上げて注目度は一気に広まりました。
国としては、沖縄県から対策の要請もあり、水道水に含有されるPFASの目標値を作るという流れに結びつきました」
水道水にも含まれているPFAS
――PFASは、なぜ社会問題化したのでしょうか?
「PFASの何が問題かというと、環境に残りやすくて、かつ生物の体内にもたまりやすいことです。それが健康上の問題を引き起こすのではと懸念が高まっています。
特にPFOAは、WHOの研究所から昨年『発がん性がある』と分類され有害性は明白です。日本を含め、国際的にもPFOAは製造・使用が原則禁止されています。
ただ、既に環境の中に浸透している物質については、その除去は容易ではありません。水道水にも、微量ですが含まれていることがあります。
アメリカの環境保護庁は、水道水1ℓ当たりPFOA とPFOSを合わせて70ng(ナノグラム)までと濃度を規制しています。1ナノグラムは、10億分の1gです。すごく微量ですが、米政府は、さらにこの数値を低くする方向で動いています。
他方、日本の環境省は、暫定目標値として50ng/ℓを掲げています。
現在、多くの水道事業者がPFOAとPFOSの含有量を調べています。ホームページで検査値を掲載している自治体も多いですし、電話で直接問い合わせれば、検査しているなら教えてもらえます。お住まいの地域の濃度が気になるようでしたら調べてみるといいでしょう。
京都市上下水道局は給水区域ごとに検査値を公表(京都市上下水道局ホームページより)